ドラマティックソプラノのあるべき姿はこの人にあり Zinka Milanov

Zinka Milanov(ジンカ ミラノフ)1906-1989 はクロアチア生まれで主に米国で活躍したドラマティックソプラノ
当時はオーストリア領ということでオーストリア生まれとされたり、
主に活躍したのが米国なので、米国の歌手と書かれたものも見たことがある。

この人は
「ヴェルディやプッチーニをピアニッシモが出せないのに歌うということはあり得ない」
と言った人。
”ドラマティック”の意味が、往々にして声量や声の強さで図られてるわけだが、
本来は、ディナーミクレンジの広さ。
要するに、極限のピアニッシモ~フォルテまで広い幅で声量をコントロールできてこそ
本来はドラマティックソプラノたり得るのである。

 

戦前~戦後にかけて活躍した歌手のため、映像が全然残っていないが、
唯一残っている以下の映像だけでも、この人が現代のドラマティックソプラノとは全く違うことがわかる

プッチーニ トスカ Vissi d’arte
https://www.youtube.com/watch?v=lGEJ221owjM

※なぜかこの動画だけ上手くリンクできないので、
お手数ですがURLからご覧ください。

いかがだろうか?
まず、無駄なヴィブラートが全くない。
多少イタリア語の発音、と言うか”o”母音が鼻母音ぽくなる癖はあるが、
最後のピアニッシモの美しさは他者の追随を許さない。

 

ビルギット ニルソンと比較

 

ミラノフと比べれば、ニルソンすら声が揺れているように聴こえる。
ニルソンは全体的に発音より声を優先させる歌唱をしていて、
特に高音で子音を発音しない、いわゆる母音唱法(息の流れを妨げる子音の発音を避ける歌い方)
をしているのに対して、ミラノフはかなりはっきり発音しているにも関わらず声がブレない。

なぜそんなことが出来るかと言えば、ミラノフは見てお分かりの通り、絶対上の前歯を見せて歌ったりしない。
これは硬口蓋から響きが散らないために本来重大なことのはずなのだが、
女性歌手には特に蔑ろにされている傾向が強い。
私の知る限り、日本人の女性歌手の99%は、特に高音で前歯見せ歌ってるので、
浅くて言葉もよくわからない響きになっている。
なぜこんな分かり易くて重大なことを指摘しないのか、
はっきり言って声楽教師の怠慢としか言いようがない。

 

 

ヴェルディ オテッロ Salce, salce…Ave Maria(柳の歌)

ドイツリートとイタリアオペラは対局のように言われるが、こういう演奏を聴くと、
本当に全く別物の発声、歌唱法であると吹聴する人こそデタラメなのがわかるはずだ。
問題は言語の性質であって、発声を机上に置くことがそもそもの間違え。

それにしてもとんでもない名演である。
長い上に派手さのないこの曲は、普通の歌手が歌うと退屈で聴いていられない。
そういう意味でもこの曲はリート的な要素があると思うのだが、
カラヤンが録音で音楽の流れを遮るという理由でこのアリアをカットしたことがあると言うのも、
歌う歌手によっては正しい判断なのではなかろうか。

 

 

 

ヴェルディ アイーダ(全曲)

デル・モナコとミラノフの夢の競演。
3幕は必聴!
フィナーレは、ちょっとモナコの歌唱が個人的には合わない気がするが、
二人の響きの高さが一致してるので、ユニゾンがピッタリ揃うという爽快感はやっぱり凄い。

 

 

モナコと沢山録音を残したレナータ テバルディのアイーダとの比較

ミラノフに比べて低音域での緊張感や、言葉の明瞭さがテバルディには欠けているのがわかるが
テバルディも決して上の前歯を見せて歌ったりしてないのは同じ。
だからこそ高音でも声が揺れたりしないし、低音と高音で響きの質がかわらない。

 

 

 

これがメディアに作られた虚像のプリマドンナ
マリア カラス

 

 

 

現在の歌手でも比較しておこう
アニヤ ハルテロス

ハルテロスも決して絶叫系のソプラノではなく、間違えなく現代を代表するドラマティックソプラノではあるが、
上記2人と比べると響きが低く、声が揺れているのがわかる。
まだ横にやや平ためになっている響きがもっと縦に抜ける感じがになれば良いのだろうが・・・。
それでもレガートでの歌唱はカラスより優れている。
なぜマリア カラスがそこまで知名度を上げられたのかはここでは一々書かないが、
色々な歌手を聴けば、優れている歌手が必ずしも有名な訳ではないことが、
逆を言えば、有名だから優れた歌手だとは限らないことがよくわかる。

そうは言ってもカラスが二流だと言いたい訳ではない。
マスタークラスなどを見れば、自分の歌わない役の歌詞まで覚えていたり、
テキストの解釈という面ではやはり飛び抜けた能力を持っていたことは事実。
ただ発声や発音という面では一流とは言えない状況であるということだ。

 

 

いかがだっただろうか。
聴いての通りミラノフは間違えなく歴代トップクラスのドラマティックソプラノであることは疑いようがない事実。
だが全く太い声でもないし、ましてや無駄なヴィブラートなど微塵もない。
こういう本物の歌手の歌唱技術の認知度が広がり、声種や発声に関しても、
もっと正しい認識がされることを望むばかりである。

 

 

CD

 

 

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