進化し続けた戦後最高級のヴェルディバリトンRenato Capecchi

 

Renato Capecchi(レナート カペッキ)1923年~1998年はイタリアのバリトン歌手。
戦後の有名なヴェルディバリトンには、
深い響さと強い声、太い響きのまま楽に出せる高音といった特徴があると思うが、
カペッキはそこに圧倒的な言葉による演技力もプラスした歌手である。

そうは言っても、
言葉の明瞭さと響きの深さを両立させるというのは並大抵のことではない。

 

 

 

ヴェルディ リゴレット Cortigiani, vil razza dannata

ここまではっきりと言葉を喋りながら、声もレガートも犠牲にしない歌唱をする人は他にいないのではなかろうか?
バスティアニーニと比較してみるとよくわかる。

 

 

エットーレ バスティアニーニ

バスティアニーニも言葉を犠牲にしてはいないどころか、寧ろ丁寧に歌っているのだが、
それにも増してカペッキは響きが前にありながら、深さも決してバスティアニーニに引けを取らないことで、
より言葉の抑揚が効いている。
私の中では最高のリゴレットはカペッキである。

因みに、アリアでは音を高く上げていないが、
重唱では最後は上のAsをしっかり出している

 

 

 

リゴレット ジルダとの二重唱 Si, vendetta

 

 

 

ヴェルディ オテッロ Credo in un dio crudel

非の打ち所の無い演奏とはこういう演奏のことを言うのではなかろうか?
カプッチッリと比較してさへカペッキの凄さが際立つ

 

 

ピエーロ カプッチッリ

カプッチッリと言えば、平気でテノールの音域でも出すようなバリトンであることを考えれば、
イヤーゴは少々テッシトゥーラが低いと言えなくもないが、それでも超一流であることに変わりはない。
一方のカペッキ。
低音がバス歌手のような深く暖かい余裕のある響きでありながら、高音もしっかり抜けている。
しかもほぼ座った態勢のまま楽々と歌っているのだから化け物としか言いようがない。

なお、このオテッロはタイトルロールがデル モナコである
よって、二重唱はもの凄いことになっているのだが、
不思議なことにこの二重唱はまだ100回程度しか再生されていない。
この動画、消される前に手を打った方賢明かもしれません。。。

 

 

 

オテッロ Desdemona rea/Si pel ciel

聴けばわかる。野暮な解説は必要あるまい・・・。

 

 

 

 

 

 

ヴェルディ ファルスタッフ E’ sogno o realtà

これだけ言葉で演技が出来る歌手である。
本領はセリアよりブッファでこそ発揮される。
ファルスタッフもだが、
愛の妙薬のベルコーレ、ドン・パスクワーレのマラテスタ、
セビリャの理髪師のフィガロも言うまでもなく素晴らしい。
マラテスタとノリーナの二重唱の一部の映像だけで圧倒的な上手さが伝わるはずだ。

 

 

 

ドニゼッティ ドン・パスクワーレ Pronta io son(一部のみ)

カペッキの発声も恐らく以前の記事で少し触れた「窒息するように声を出す」というやつだろう。
まず、どこの音域を歌っても全く喉が上がらず、声の太さも変わらない。
声帯の一番深い部分だけを鳴らす。ということが出来ている証拠。
問題は「窒息するような」というのがどこで分かるか。と言うと、
とりあえず同じ部分で何人か比べて欲しい。

まず、世界で通用する日本人バリトンとして期待されている大西の演奏

 

 

大西宇宙

 

 

ブッファバリトンの大御所コルベッリ

 

 

アレッサンドロ コルベッリ

 

どの演奏とも1:30~聴いて頂ければ大体ちょうど良い部分。
大西も決して響きが落ちている訳ではないのだが、
コルベッリやカペッキとは根本的に発声が違う、
多くの方が、声の深さに違いを感じると思うが、パワーと勢いで響きを無理やり集めているに過ぎない。
なので、大西が歌っているコルンゴルドの死の都のアリアなどは全く響きが上がっていないし、
全くレガートで歌えていない。
一方コルベッリは喋るように自然な流れで歌っている。
これが一般的な良い発声に該当するのだと思うが、
カペッキはそれとも違う。

「Don Pasquale a corbellar」と歌う部分以降が分かり易い(2:15~)
通常の歌い方をすると「da」や「do」は前に飛びだしがちになる発音で、実際他の二人の歌手はべったり歌っているが、
カペッキだけは、奥で響きが統一されたまま、しかし籠ることのない二人とは全く違う性質の響きになっている。
因みに、カペッキはリゴレットのアリアを歌っている時とも全く声の種類が違うので、そちらも比較してみると面白い。
年代としては、リゴレットとオテッロが1958年、ドン・パスクワーレが1963年なので、
この5年で発声が大きく変わった可能性もある。
参考までに1973年の演奏も挙げておこう。

 

 

 

カッチーニ Amarilli mia bella

聴いての通り、全て音程が均一の響きで、
何かの発音だけが突出して響きが変わるということもなく、ピアニッシモにしても声の太さが変わらない.
このことからも、レナート カペッキという歌手は、
年齢を重ねると共に、身体に合わせて発声も調整していたことがわかった。
なんて凄い歌手なんだろうか!?

最後に、これだけは言わせてほしい
ティート ゴッビの方が遥かに有名だが、レナート カペッキの方が比較にならない位上手い!

 

 

 

CD

 

 

 

 

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