これからが楽しみなバリトン マルタンJérôme Boutillier

Jérôme Boutillier(ジェローム ブティリアー)フランスの若手バリトン歌手で、
現在フランス国内の歌劇場を中心に活躍している。

バリトン マルタンという声種が明確に定義されているかは不明だが、
一応フランスのバリトンに用いる言葉で、テノールに近い明るい響きと柔らかさを持った声を表すとされている。
代表的な歌手にはシャルル パンゼラやカミーユ モラーヌが挙げられる。

ブティリアーを上記のような歌手と比較することはできないが、
少なくとも独特の明るい響きを持った、中々他にはいないタイプのバリトンであることは間違えない。

 

 

 

ビゼー カルメン Air du Toréador

エスカミーリョという役自体がハイバリトンよりは、バスバリトンやバスが歌った方が栄えるという事情もあり、
彼の声に曲が合っているかどうかは別問題としても、安定した響きとしっかりした発音には魅力がある。
この曲の最高音”F”も、多くの歌手が力一杯張り上げる中、
ブティリアーは自然に誇張することなく歌えているのは見事だ。

 

 

 

 

マスネ エロディアード Vison fugitive

この曲は、ヴェルディバリトンが好んで歌うアリアであるが、
バリトン マルタンの独特の響きで歌われると印象がかなり違う。
ピーーンとした高音の響き(ティンブロ)はないが、柔らかく温かみのある響きと
柔軟な表現はマスネの音楽が本来こう演奏されるべきなのかもしれない。と思わせてくれる。
日本でベルカント唱法を教えられると仰ってる秋山隆典氏の演奏と比較すると面白い。

 

 

 

秋山隆典

ベルカント唱法とは何か?考えさせられますねぇ・・・。

 

 

 

 

 

ヴェルディ ドン・カルロス C’est moi Carlos…Carlos écoute(フランス語版)

この演奏を聴くと完全にルドヴィク テジエーの後継者と言えるレベル。
否、テジエーは個人的には声がもっと重いく音色も暗いので、ハイバリトンではあっても、
おそらくバリトン マルタンとは言わないだろうから、
フランスのバリトンとして世界的にブレイクすれば、共通するレパートリーもあるので、
広い意味では後継者と言われることがあるかもしれないが、
やはりブティリアーは声のタイプが違う。
以下はテジエーの演奏

 

 


 

Ludovic Tézier

この人の高音は芯があり、一般的に言うヴェルディバリトンである。
独特の柔らかさのある響きがあるブティリアーとは質が違う。

 

 

 

 

ベッリーニ 清教徒 Ah per sempre

イタリア語でも大変丁寧に発音しているのがわかる。
この曲おエロディアード同様にヴェルディバリトンがよく歌う曲だが、
本来のベルカント作品はこれくらい柔らかく歌われるべきなのではなかろうか?
自分の演奏スタイルをしっかり確率して表現できているというのは本当に素晴らしい。

 

 

 

 

マーラー さすらう若人の歌(1・2・4曲目)

フランス語っぽい語尾の「n」の発音がちょっと気になるが、その他はあまり気にならない。
勿論リートを主戦場としているような歌手と比較するとオペラチックな表現ではあるかもしれないが、
小編成ながらもオーケストラ伴奏ということもあり、違和感は全くない。
大変センス良く全体をまとめていて立派な歌唱だと思う。
シューベルトを歌ったらどうか?という疑問はあるが、
少なくともマーラーを歌う分にはリートも高いレベルの演奏ができることがわかる。

 

ここまで聴いた通り、母国語のフランス物以外でも高いレベルの演奏ができる。
発声技術も安定しており、言葉の扱い方や表現も丁寧、
声の好みは人それぞれあるだろうし、勿論私にもあるが、
ブティリアーは間違えなく一流バリトンと断言できる。
今後の活躍が大変楽しみな歌手だ。

 

 



コメントする