詩情溢れる豊な表現力を聴かせるバリトンRoderick Williams

Roderick Williams (ロードリック ウィリアムズ)は1965年英国生まれのバリトン歌手。
英国には歌曲のスペシャリストが多いですね。

例えば
ソプラノではフェリシティ ロット、
メゾではサラ コノリー、
テノールではイアン ボストリッジ、
バリトンではトマス アレン

といった感じですが、上記に挙げた人達にも劣らない、むしろそれ以上に情感があり、
それでいてボストリッジのような演劇的な表現に傾倒しないのがウィリアムズです。

 

 

 

 

ベートーヴェン Mailied

こういう単純な曲でこそ歌の上手さがわかるというものです。
まるでテノールのような柔らかい声の中に言葉が生き生きと表現されています。
でも、やっぱりテノールではなくバリトンの歌唱なんですよね。
プライやアレンだとやや重く、
逆にテノールが歌うこの曲は、大抵もっと遅いテンポで変に朗々とした歌唱になるか、
逆に朗読に近い、あまり歌声としては良いとは言えない声で歌われるかになり勝ちで、
案外しっくりくる演奏がないのです。
こんな単純な曲でも、テンポ一つで曲のイメージは大きく変わってしまいます。
例えばシュライアーの演奏

 

 

 

Peter Schreier

ウィリアムズとは完全に真逆。
今聴くと古臭く大時代的なベートーヴェンで、なぜこうなった?
と言いたくなる演奏なのですが、ウィリアムズの演奏が現在の感度にあったテンポ設定、
言葉の出し方をしているという意味でもあると思います。

 

 

 

 

 

シューベルト 白鳥の歌 Frühlingssehnsucht

言葉を丁寧に発音し、一つ一つにしっかり意味を持たせることは重要なのですが、
早口な上にかなり長く、最後で短調になる以外は同じ旋律を何度も繰り返すこの曲では、
かえってその丁寧さがやかましく聴こえなくもありません。
なぜこうなってしまうのかと言うと、あらゆる言葉のスピード感が同じだからなのです。
声ではそこまで突出したものがないながらも、プレガルディエンが長きに渡って一流のリート歌いとして多くの人から尊敬されているのが、
まさにこの部分の上手さと言って良いでしょう。

 

 

 

Christoph Prégardien

この演奏は面白いです。
自由に装飾音をつけたり、違う音も平気で歌う。
でも本質はそこではなく、全部の言葉を均等に扱うのではなくて、
より詩のリズムとシューベルトの音楽を追求した結果として出てきたものであって、
シューベルトが特に大事だと思った言葉に焦点が定まるよう計算されつくした演奏だということがわかります。
良い歌を歌うのに必ずしも良い声が必要な訳ではない。
彼の演奏を聴いていると、良い声の定義とは何だろう?と考えさせられます。

 

 

 

 

フォーレ レクイエム Libera Me

発声的な面に目を向けてみると、注目すべきは下唇の脱力です。
「顎の力を抜く!」、「舌に余計な力が入らないようにする。」
こういったことは声楽指導者ならほぼ誰でも言うことだと思いますが、
なぜか下唇の脱力について触れる人は皆無です。
口を縦に開ける。というのを刷り込まれてしまうためにこの部分は特に注意がいきません。
しかし、合唱で歌ってる人達と、ウィリアムズの口を見比べてください。

 

 

 

ウィリアムズの”e”母音での発音

 

 

 

 

合唱団員が”e”母音で歌っているところ

 

いかがでしょうか?
ウィリアムズのフォームが革だって下唇を脱力していることが分かると思います。
映像を見て頂ければわかると思いますが、ウィリアムズは終始このフォームで歌っているのです。

 

 

 

 

アイアランド The Vain Desire

ドイツリートも良いのですが、やはり母国語の英語モノはそれ以上の出来です。
英国の歌手は、真っすぐ声が抜けるというよりやや奥まった感じの響きの人が多く、
ウィリアムズも例外ではありません。
しかし、そのような声の方が英語らしさが出るのは事実でしょう。

 

 

 

 

 

ブラームス die Nachtigall

こちらは比較的最近の演奏で、冒頭で紹介したベートーヴェンが2008年の録音であることを考えると、
10年近く経過すると声も随分変わるなぁ。という印象を受けますが、
同時に言葉の出し方もハッキリ発音するというより、より洗練された表現の中に昇華されているように聴こえます。
それができるのは、結局”i”母音がしっかり良い響きに乗っていて、そこで全ての母音を喋れているからです。
時々特に”a”母音でちょっとハズれることがありますが、それでも非常に完成度の高い演奏であることは間違えありません。

 

 

 

 

フィンジー  Songs of the Sea

ジェラルド フィンジーの歌曲
彼が得意としている英国人作曲家の中でも、フィンジーは特に得意なようです。
私が残念ながら英国歌曲にはあまり詳しくないので、細かいことを評価できませんが、
同じように英国歌曲を得意としているターフェルとも趣向が違い、
ターフェルの歌唱にはややサロン音楽気味の空気管、軽さがあるのに対して、
ウィリアムズはより芸術歌曲としての解釈を追及しているように見えます。

 

 

それにしてもこの人は全くオペラを歌っている様子がないんですよね。
一応ブリテンのオペラには出演してはいるみたいですが・・・
アリアだけでも何かしら歌ってる録音がないかと探しましたが見つからない。
ボストリッジやゲルハーヘルでもオペラには出てたりするのですが、
ヴィリアムズほど純粋なコンサート歌手で一流と呼べる人は探しても中々見当たりません。

 

 

 

CD

 

 

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