Bayreuth festival 2019 Tannhäuser (評論)

 

バイロイト音楽祭2019 タンホイザーの映像がアップされましたので、今回はこの公演について主要歌手の評論を書いていこうと思います。

 

 

<キャスト>

Conductor Valery Gergiev
Director Tobias Kratzer
Stage Design & Costumes Rainer Sellmeier
Lighting Reinhard Traub

Landgraf Hermann Stephen Milling
Tannhäuser Stephen Gould
Wolfram von Eschenbach Marcus Eiche
Walther von der Vogelweide Daniel Behle
Heinrich der Schrieber Jorge Rodríguez-Norton
Reinmar von Zweter Wilhelm Schwinghammer
Elizabeth, Nichte des Landgraf Lise Davidsen
Venus Elena Zhidkova
Ein junger Hirt Katherina Konradi

 

 

 

Wagner – Tannhäuser, Bayreuth 2019

 

今年のバイロイトは、
タンホイザーとトリスタンをグールドが歌うという
どんだけグールドに依存してるんだ!
てか、常識的に考えて、その2役を1人でやるって無理だろ!
これはどうやらヴィントガッセン以来ということらしいですが・・・。
やっぱり2・3人クローンがいるんじゃないのか?
と言いたくなるキャストで、特に個人的にはトリスタンは主役2人に全く魅力を感じないため、ここで取り上げることすらしません(笑)
一方、タンホイザーは指揮がゲルギエフですし、まだ真新しさがあるので取り上げることにしました。

 

<評論>

 

◆ヘルマン役
Stephen Milling

 

威厳のある領主というより、娘を溺愛している親父さんの側面が濃いような気がしましたが、それは良い意味です。
どこか物腰の柔らかく温かい声質と語り口なので、
全体的に硬い声質で、パワーで押すような歌手が主要キャストを固めている本公演に於いては際立ってそのキャラが引き立っているように聴こえました。
技術面でも安定しており、母音の響き、低音~高音まで声質が変わることなく歌えていたのは見事です。
欲を言えば、もう少し発音のポイントが前にほしいところで、
特に久遠はやや詰まったような感じ聴こえなくもありませんでしたが、これは骨格も関係してくるので、気になるほどではありませんでした。

 

 

◆ヴェーヌス役
Elena Zhidkova

重い歌い方なのに全然低音が鳴りません。
高音で叫んで、低音で唸っている感じでただただ残念な歌手といった感じ。
この人、本来はソプラノなんじゃないかと思ってインタヴュー見てみたら、明らかに地声は低声歌手のそれではないような気がしてしまったのですが・・・、
もしかしたらヴェーヌスが合っていないだけか?
と思って他の演奏も聴いてみましたが、やはり中低音は唸ってて高音は絶叫するというスタイルは変わりませんでした。

 

 

ヴェルディ ドン・カルロス O don fatale  (フランス語歌唱)

アリア1曲にこんな全力投球して、この方はあと何年歌手生命が続くのか見ている方が不安になってしまう。

 

◆ヴォルフラム役
Marcus Eiche

ヴォルフラムを歌うにはやや硬い声質な気もしますが、
この役ではバイロイトでお馴染みの人ということで歌い慣れた感じはあり、歌合戦なんかは比較的自在な歌い回しと間の取り方が見て取れました。
気になる部分としては、”e”母音が横に広すぎることがあって、
「Herz」みたいな単語は特に平べったい響きだと言葉に深みがでないように思います。
今回この人の一番良かったのは3幕の冒頭だったように思いますが、アリアでは硬さゆえに「優しい夕星」と言うには柔軟さが足りず、音色が一辺倒だったように聴こえました。
余談ですが、夕星というのは、宵の明星=金星=ヴィーナス
という読み替えができて、実はヴォルフラムもヴェーヌスに魅せられている。という解釈もあるらしいのですが、
私としては音楽的にちょっと同意しかねるところです。

 

 

◆エリーザベト役
Lise Davidsen

この人も声に柔軟性がなく、基本的に詰まった響きでポジションが低いです。
低音で胸に落とす癖がないのでまだ良いのですが、
ピアノで出している時と、フォルテで張っている時で声の質が全く違うものになってしまっていますし、
元も子もないことを言ってしまえば、完全に喉声なのでまったくレガートで歌えず、聴いていると喉が痛くなります。
前回のタンホイザーでエリーザベトを歌い、今回エルザを歌った
ニュールンドと比較したら明らかに響きの質が違いました。

 

 

Camilla Nylund

ダヴィッドセンの演奏は(2:37:39~)
どうやらこの人、フラグスタート以来となる、DECCAと契約した、
ノルウェーのソプラノ歌手らしく、ワーグナーソプラノとして現在最も注目されている人らしいのですが・・・コレが上手いって感覚が本当に信じられません。

 

 

因みにこちらが注目のデビューアルバムだそうです。

 

 

◆タンホイザー役
 Stephen Gould

この人の声は正直いって苦手です。
大学を出たばっかり位の頃に、小澤の指揮で正にグールドのタンホイザーを聴いた時には凄いと思いましたが、
今となってはなぜ喉が壊れないのか不思議なくらい、完全に喉を詰めて声を出しているんですよね。
聴いてるこっちの喉が先にやられてしまいます。

確かにグールドは高音が全部同じポジションにハマって凄いんですが、
それがどんな言葉を歌っても同じ音色で、言葉のスピード感も色合いも皆無、
私からしたら、なぜこの歌い方で歌えるのか不思議でしょうがないのですが、多分日本人がこの歌い方をしたらすぐに喉壊します。
ローマ語りをザイフェルトと比較すれば、180度グールドと歌い方が違うことが分かると思います。

 

 

Peter Seiffert

グールドのローマ語りは(2:55:38~)

更に10年前のグールドの声と比較すると、
明らかに不自然に硬くて重い声になっていることがわかります。

 

 

コルンゴルド 死の都 Glück das mir verblieb

これが2009年のグールドの声です。
まだ柔軟性があり、響きの高さもありました。
なぜこれほどまでに声が変わったのか?
コレは加齢によるものではなく、ほぼ間違えなくステロイドによって筋力だけで歌っている状況になってしまい、楽器に柔軟性がなくなってしまったためだと思います。

先日ローエングリンの評論を書いた時は、フォークトについてどこが悪いということを並べ立てましたが、グールドに関しては、声の問題点、要するにステロイド声になってしまっている以上、どこを切っても同じような歌唱をしているので、どこが良いとか悪いという問題ではありません。

歌える人の少ないジークフリートを世界中で歌いまくった結果、このようなことになってしまったのでしょうが、新国も含め、大きな劇場がもっと歌手をいたわる風潮がないとこういうことは繰り返されてしまうのではないかと思えてなりません。

 

◆関連記事

bayreuth festival 2019  Lohengrin (評論)

 

以上がバイロイト音楽祭2019 タンホイザーの評論でした。
ぜひ、皆様も聴いた感想、あるいは私の記事に対するご意見などがあれば書きへお寄せ願います。

掲示板はコチラ

なお、演奏の最後に凄いブーイングと拍手が乱れ飛んでいますが、
これは演奏というよりは、カテリーナ ワーグナーの演出に対する聴衆の反応だと推測されます。

 

コメントする