恐るべきワーグナーソプラノにしてワーグナーメゾMarianne Schech

 

 

Marianne Schech(マリアンネ シェヒ)1914~1999はドイツのソプラノ歌手。

ワーグナーやRシュトラウスのドラマティックな役を得意としたソプラノ歌手で有名な歌手と言えば、フラグスタート、ヴァルナイ、ニルソンを筆頭に、現在のワーグナーソプラノを見まわしても、ワトソン、シュテンメ、テオリンなどスウェーデンと米国歌手が市場を席巻している構図で、ドイツ人ソプラノの名前があまり思い浮かびません。
その中にあってシェヒはドイツのフラグスタートと呼んでも良いのではないかと思うほど、洗練された力強くて伸びやかな高音を持っています。

この人の声を聞いて、ドラマティックソプラノにとって最も重要なのは、圧倒的な密度の強いピアニッシモなのだろうと思わずにはいられません。

 

 

 

ベートーヴェン フィデリオ Abscheulicher

声にも歌い回しにも驚くべき気品があり、一切無駄なものがありません。
常々大声で揺れ揺れの声は本当のドラマティックソプラノの声ではないことを書いていますが、シェヒの声を聴けば、いかに無駄なヴィブラートが音楽の邪魔をしているかがお分かり頂けるのではないかと思います。
それと同時に、同時代で最も有名なドイツのソプラノ歌手、シュヴァルツコップと比較すれば、シェヒの実力が如何に素晴らしいものか、同時にシュヴァルツコkップが知名度ほどの実力がないかがわかります。

 

 

 

Elisabeth Schwarzkopf

後半の盛り上がる所で比較すればよく違いがわかります
(シェヒ 5:00~ )
(シュヴァルツコップ 5:30~)
シュヴァルツコップの低音は明らかに作った声で、全く響きが乗った声ではありません。
高音も解放された響きとは異なっていて、決して心地よいものではないのです。
極論を言えば、当時の最新技術で上手く録音されているだけと言っても良いと思います。
一方のシェヒは息の流れが見えるようで、全ての音が繋がっていて自然に響いています。当然最後の高音も心地よく開放された見事な声で、声楽的に歌うことが難しいベートーヴェンを全くフォームを崩すことなく歌えています。

 

 

 

ワーグナー さまよえるオランダ人 ゼンタのバラード

このアリアの不吉さや狂気はそこまで伝わってきませんが、この曲のなかで既に救済の予感がするような、ここまで美しく歌われることがあるのか?と思うような見事なピアノの表現と気品に満ちた演奏です。
現在現役で活躍しているドイツ人のワーグナーソプラノヴァイスバッハと比較すると、シェヒの声の柔軟性がよくわかります。

 

 

 

Nancy Weissbach

ヴァイスバッハも持っている声は大変美しく、そして強靭さも兼ね備えた、メゾを無理やりソプラノにして歌っているのとは違ってしっかりしたドラマティックソプラノの声を持っているとは思うのですが、中音域でかなり喉を押したような声になってしまったり、ピアノの表現もできてはいるのですが、固めて細くしている感じでシェヒのように、息の流れの中で響きをコントロールしている歌い方とは明らかに違っています。

 

 

 

 

 

プッチーニ トゥーランドット In questa reggia(ドイツ語歌唱)

昨日はコツープのドイツ語歌唱によるカラフのアリアを絶賛したのですが、今日はシェヒのドイツ語歌唱によるトゥーランドットのアリアです。
この演奏も紛れもなく名演奏で、イタリア語に比べて狭いドイツ語の母音の幅が、あまり旋律的ではない角の立ったアリアとは相性が良いのでしょうか?
剛速球がズバズバコーナーに決まるピッチャーを見ているような快感があります。
トゥーランドット歌いと言えば、ジーナ チーニャという人がいますが、彼女を除けば、あまりイタリア人のトゥーランドット歌いはいません。
それこそワーグナーソプラノが歌うことが多いのも特徴で、ヴェリズモオペラのヒロインでも間違えなく特殊な役柄と言えるでしょう。
シェヒとコツープでトゥーランドットやってCD化したら歴史的な録音になったろうに、なんてことを考えずにはいられません。

 

 

◆関連記事

ヴィントガッセンの影で忘れ去られた偉大なヘルデンテノールErnst Kozub

 

 

 

ワーグナー パルシファル 2幕(クンドリー役)

トゥーランドットで聴かせた声とは別人のように、
暖かみのある声で、本来メゾが歌う役でも全く違和感がありません。
そうかと思えば、突然ドラマティックソプラノのような強烈な高音を響かせ、クンドリーという難解な役柄の立体感を見事に作り上げていす。
録音としてはタンホイザーのヴェーヌスも残っているので、クンドリーだけ特別に歌ったという訳ではなくメゾ役を歌わせても一流だったということになります。
まったくとんでもない歌手です。
きっとドイツ語以外の言語でも歌えていればもっと知名度は上がったんだろうな。という気がしてなりません。

だからこそ今後もこういう歌手を少しでも取り上げて、再評価を訴えていきたいと思います。

 

 

CD

 

 

 

 

コメントする