これからのドイツリート界を牽引するであろうバリトンKonstantin Krimmel

Konstantin Krimmel (コンスタンツィン クリンメル)は1993年ドイツ生まれのバス・バリトン歌手。

モーツァルトのオペラも歌っていますが、
知名度を上げたのは、何と言っても今年行われた、ヘルムート・ドイッチュ国際リートコンクールで優勝したことなので、ここではリート歌手として特に注目したいと思います。

簡単に彼がどおような人から指導を受けたのか書いておきますと、最初の声楽の先生は日本人で、原 輝(よしはら てる)氏という人です。

参考までに、吉原氏の歌はこんな感じです。

 

 

Teru Yoshihara

因みに、吉原氏はシュトゥッツガルト在住で、シュトゥッツガルトに留学した日本人にも習っている人はいます。

その後は、Brigitte FassbaenderやThomas Heyerのマスタークラスを受けたということで、バリバリのリート歌手になるべくキャリアを積んだというよりは、かなり幅広いタイプの歌手から教えを受けているように見えます。

 

 

 

レーヴェ Erlkönig

カール レーヴェの魔王は、有名なシューベルトの同曲と同じ詩を使っています。
それでも、やっぱり魔王が子供を誘惑する場面なんかは、穏やかな長調になって、

「Komm, liebes Kind. komm geh mit mir,」
から、単純な主和音の固有音を5小節もずっと歌うという、
この時代の音楽としては逆にインパクトが強い作りになっています。
この後の魔王の誘惑の言葉セリフも同じような感じで、

「bis du nicht willig, so brach’ ich gewalt!」
(来ないと無理やり連れていくぞ)という部分だけ短調になるという、
伴奏は複雑そうに聴こえますが、結構シンプルな作りな気がします。

でも、ナレーションと父親と子供の性格描写を考えると、
やっぱりシューベルトの魔王が如何に偉大かが改めて分かりますね。

作品についてのコメントはこれくらいにして、
クリンメルの歌唱ですが、
柔らかく温かみのある声質と、自然な語り口で、
リート歌手に有り勝ちな、

いかにもハッキリ発音してます。小難しい芸術歌曲を沢山勉強しました。
みたいな堅苦しさがなく、あまりリートを聴かない方の耳にも馴染み易い歌唱なのではないかと思います。
技術的にも母音の質にブレがなく、何より悪い癖らしいものが全くないのも素晴らしいですね。

だからと言って完璧かと言われればそうではありません。
今後の課題を挙げるならば、ピアノの表現で抜いたような、
喉のあがった声になってしまっているのを、全てのディナーミクを同じポジションでこなせるようにしなければなりません。
それが、高音で芯がない響きになってしまうのも、喉が上がってしまうことが問題だと思います。
アリアではありますが、タンホイザーの夕星の歌が分かり易いので、そちらで改めて聴いてみましょう。

 

 

 

 

ワーグナー タンホイザー O du mein holder Abendstern

「Da scheinest du, o lieblichster der Sterne,
dein sanftes Licht entsendest du der Ferne」
の歌詞の部分がよくわかるので、そこでローレンツと比較してみましょう。

 

 

 

Siegfried Lorenz

こちらの映像はローレンツの演奏やレッスン風景が詰め合わさったものですが、
ちょうどレッスン風景で、この夕星の歌のこの部分を生徒に模範を見せているところがあります。

(クリンメル 1:36~)

(ローレンツ 46:40~)

 

いかがでしょうか?

全体的にレガートの質が全く違うこと、クリンメルも母音によって変な癖は特にありませんが、それでもローレンツと比べると、”e”や”a”母音で開き過ぎてしまうことがわかります。
特に「entsendest du der Ferne」の「Ferne」の部分で、
音が高い上に”e”母音のため、殆どの歌手は喉があがって、浅く平べったい響きになり勝ちなのですが、ローレンツは全ての母音が真っすぐに繋がっていて、
響きのポイントが決して崩れません。
クリンメルはまだ20代の歌手ですから、こういうレベルを目指して欲しい。というのが個人的な願望でもあります。
それにしてもローレンツ上手過ぎ・・・。

 

 

 

 

 

DAS LIED 2019 Finale

00:40 – 03:00 Songs My Mother Taught Me (Ives)
03:10 – 04:28 An ein Taubenpaar (Killmayer)
04:33 – 06:33 Chanson romanesque (Ravel)
06:40 – 09:25 Chanson épique (Ravel)
09:32 – 11:25 Chanson à boire (Ravel)
11:46 – 15:00 Zur Warnung (Wolf)
15:30 – 17:20 Auf ein Selbstbildnis von Carl Philipp Fohr (Killmayer)
17:29 – 23:25 Der Feuerreiter (Wolf)

 

表現力と言う面では本当に成熟していて、20代でこんな演奏ができるとは驚きなのですが、高音はどの程度ちゃんと出せるのかはやや疑問。
一番最後に歌った「炎の騎士」では、かなり叫びに近い表現でも曲として雰囲気は出ますが、なんかプライの真似っぽくて好きにはなれない。

低音は、バリバリ鳴るタイプではないとは言え、ピアニッシモだとやや上半身だけで歌い過ぎな感があります。

 

 

Hermann Prey

どんあ歌い方をしても、ポジションが崩れないのがプライの凄いところ。
この人は一世一代の歌唱なので真似してできるものではないのですが、
それでも、バス・バリトンのような太く深い声を持ちながら、高音も強いというのは、低音~高音まで安定した響きで歌える技術があればこそ。

 

 

 

 

モーツァルト ドン・ジョヴァンニ Madamina il catalogo e questo

こちらはヴィオッティ オペラコンクールで入賞した時の演奏。
待ってる声が良いので、あまり奥の深い響きがなくても物足りなさを感じないのですが、この歌い方だと本当の意味でのレガートでは歌えないし、
どうしてもポップスっぽい弱音の表現になってしまう。
三枚目の役は声が良くて芸が達者なら上手く聴こえてしまう部分がありますが、本来はとても高い技術が要求されるもの。

比較として、この人の真逆の歌い方をする若手バス・バリトン、フセイノフ

 

 

Maharram Huseynov

この人はアゼルバイジャン出身で、今はイタリアを中心にペーザロとかで歌っているはずです。
深さがあって、発音も前にいってて本当に素晴らしい声なのですが、
高音で詰まってしまうのが本当に勿体ない。
前に集まった明るい声でありながら、奥の深くて天井の高い響きを同居させることがいかに難しいか・・・

そうは言っても、こうやって素晴らしい才能ある歌手がどんどん出てきていることは嬉しいことで、どうか声を潰すことなく、ゆっくりでも成長曲線を描いて欲しいものですね。
彼等に明るい未来がありますように!

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