第15回ルーマニア国際音楽コンクール (声楽部門) 鑑賞レポート

第15回ルーマニア国際音楽コンクールの本選 が行われています。

詳細はコチラに各部門の日程が掲載されております。

入場無料なので興味のある方は行ってみてください。
ちなみに明日はヴァイオリン、管楽器部門と表彰式があるようです。

さて、今回は評論でなくレポートとしたのは、結果が明日でることと、
出演者の演奏映像などがないこと、そして入場料が無料であることなどがあります。

 

 

ルーマニア国際音楽コンクール声楽部門の本選出演者は6人でした。

持ち時間は15分で、必ずこのコンクールのために作曲された
ルーマニア語の課題曲を歌う必要がありました。

 

声楽部門】

 

1)大竹 音寧さん

作曲 F:SANTOLIQUIDO   「Riflessi」
作曲 G;Verdi 「Me pellegrina ed orfana」
ルーマニア語の課題曲には「lalala」で歌う部分があるのですが、
「na」なのか「no」なのか「lo」なのかよくわからなかったのはどうしても気になってしまいました。
どうしても鼻に入りすぎてしまうと、「ら行」の発音が「な行」の発音に寄ってしまうので、そういう部分からも発音に悪影響が出てしまったのは勿体なかったと思います。
持っている声は、軽いながらも中音域は少し影のある、
ベルカント物のセリアを歌うには合っている響きに聴こえるので、
高音で細く鋭くなってしまわないよう、もっとゆったりした中音域の深さのまま、高音が出せればドラマがもっと表現できるのではないでしょうか。

2)村上 千秋さん

作曲 V:Bellini 「Ma rendi pur contento」
作曲 G:Donizetti 「Piangete voi…Al dolce guidami」
高音では良いポジションで伸びやかに鳴り、ゆったりした音楽でも長いフレーズを見据えて歌うことができていたと思います。
その分、中低音で響きが落ちてしまうのは勿体なかったですね。
後、発音の面では全体的に開口気味の母音で、
特に”o”母音と”e”母音はイタリア物でも最低限の閉口母音は表現しなければなりません。
特にアンナ・ボレーナみたいなセリアのアリアで、歌っている役にも気品や風格が求められる場合は、あまり明るいと全く違う性格の村娘のように聴こえてしまいます。
もっと母音の種類を多く持つことで、言葉にも意味と連動した音色、深さが加わってくるようになるのではないでしょうか。

3)近藤 眞衣さん

作曲 S:Rachmaninov 「Zdes’ khorosho 」
作曲 P:Tchaikovsky 「Puskai pogibnu ya」(Letter Scene)

ラフマニノフの歌曲での一番の聴かせ所の高音のピアニッシモから膨らませる部分は美しく決まっていました。
でもあそこは楽譜上PPだけで、別に膨らませないと思うんですよね。
とここで書いても曲をご存じない方には全く伝わらないと思うので、
今は恐ろしいことにこんな動画まであって、キリル文字の発音まで教えてくれるんですね~

私はロシア物は、チャイコの歌曲とアリア数曲と、プロコフィエフとタネーエフの合唱曲に触れた程度なので、少し発音が分かる程度ですが、
それでも語頭の子音が弱い印象を受けました。
原因として考えられるのは、部分的に吸気音がかなり聴こえたので、ブレスが全体的に浅いことで支えが浮いて、歌い出しで必要なアタックができない可能性もあるのではないかと思います。
しかし、タチアーナの手紙の場という大変難しい曲を歌ったことは凄いと思います。
ロシア語で約12分のモノローグを覚えるのは自分には無理かも・・・と思うと、よくコンクールで歌ったなぁと感心します。
でも、日本人でこの曲をちゃんと教えられる先生って誰なんだろう?
という素朴な疑問が浮かんだりもしたりして(笑)
ここまでの女声3人に共通して感じたのは、
姿勢が前傾姿勢気味になってしまい、皆さん胸が開いていないこと。
そのせいで、響きが顔の前面、主に喉~鼻で止まってしまって、
響きに奥行が失われてしまっているのが本当に勿体ないと感じました。
肩が前に入らないように注意し、顎が胸より前にいかないようにするだけで、息も真っすぐ抜けるようになるし、深い支えが使えるようになるのではないでしょうか!?

4)山下 玲皇奈さん

作曲 G:Faure 「Après un Rêve” Fauré」
作曲 G:Bizet 「Je Crois Entendre Encore」
テノールとして、コンクールで真珠採りのアリアを歌う勇気に感服しました。
こんな粗しか目立たなくて難しい曲、モーツァルトのCosi fan tutteのアリアとかもそうなんですが、ロッシーニとか、連隊の娘のアリアの方が勢いでも歌えればとりあえず評価される曲とは違いますから、コンクールみたいな場では歌うだけ損しかしないと私なんかは思ってしまうのですが(笑)
実際の歌唱も本当によく歌い切ったな~という印象で、ファルセットをほぼ使わずディナーミクもつけられていたのは凄かったです。
ただ、その分フォーレが勿体なくて、出だしでいきなり音程が低かった。
他にも何か所か不安定なところ、不安定になりかけたところがあり、
こういうのはコンクールだと絶好の減点対象なので、頑張りが見えた分勿体なさもすごく感じてしまいました。

5)碓氷 昴之朗さん

作曲 G:Donizetti 「Una lagrima」
作曲 C;Gounod 「Salut demeure chaste et pure」
テノールのパッサージョ付近の響き(F~As)の安定感は素晴らしかったですね。
一番言葉も飛んでいてレガートもできていました。
声が本当に安定していた分、発音がどうしても気になってしまいました。
とりあえずイタリア語やフランス語で子音が鋭いのはあまり現地の方に良い顔をされないと思います。
例えば「Caro mio ben」の出だしの”k”を出すとイタリア人には注意される。私がされた経験があるので・・・。
このプログラムならば、表現は子音のスピード感より母音の音色を大事にして欲しかったなぁ。
後、これは自分がレパートリーにしているからわかってしまうことでもありますが、ファウストのアリアは言葉が間違ってる部分があったのと、”e”母音が全部開口だったのはちょっとマズイかな。
”è”と”é”で変化がなかったので、どうしても「et」と「est」の区別がないように聴こえてしまいます。
後「voici」を「voila」で歌っていたのはそういう楽譜があるのでしょうか?

偶然この曲は自分がフランスでも勉強してた方に言語指導して頂く機会もあり、気になってしまうことが多かったというだけなんですけどね・・・。

6)王 昊(ワン ハオ)さん

作曲 F:Schubert 「Wegweiser」
作曲 W・W:Korngold「Mein Sehnen, mein Wähnen」

一番粗が目立たなかったのが王さん。
という言い方をしてしまうと問題なのかもしれませんが、
全体的に良くも悪くも無難な歌唱をしたな。という印象でした。
雰囲気を作るのが上手いと言えば良いのか、バリバリ鳴るタイプではないのですが、温かい声質で角の立たない滑らかな歌唱は選曲とも合っていたと思います。
まぁ、冬の旅の一曲として厳密に言えば、伴奏がペダル踏み過ぎだろ!
とかチクチク言いたいことはあるのですが/(^o^)\
ただ、こちらは碓氷さんと対照的に子音のスピード感でもっと表現して欲しかった。
そして、高音で喉が上がってしまうのは勿体ない。
全体的にちょっと籠り気味で、声にティンブロがないので、その分余計に子音のスピード感がなくなってしまっているように聴こえたのかもしれませんが・・・。
それにしても、
コルンゴルドは音楽が美しいので、雰囲気を壊さない歌い方をすれば下手には聴こえないということで、リリックバリトンにとってコンクールで重宝される曲だな~と今日改めて思いました。
テノールアリアの方は雰囲気で歌うとフォークトのようになるのでダメですけど(笑)
以上がルーマニア国際音楽コンクール、声楽部門のレポートでした。
全体的に男声の方が女声に比べて数段実力が上だったかな?
という印象を受ける今年のコンクールとなりました。
国内外の音大を出た若手演奏家の登竜門として毎年開催されており、
入場も無料なのですが、観客があまりいないのが実は今日一番勿体なく感じたことでもあります。
大学の門下発表会のようなレベルでもお金を取るところがある位なのですから、それから考えれば、プロとしての仕事もしてるような方の演奏を無料で聴けるのはかなり贅沢な機会です。
是非、もっと多くの方にこのコンクールを知って頂いて、実力ある若手音楽家が大きくなっていく姿を見守る楽しみ、
素晴らしい才能を見つけた時の高揚感を味わって頂きたいと思います。

 

 

 

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