オランダが生んだ近代を代表する真のドラマティックソプラノCharlotte Margiono

Charlotte Margiono(シャルロッテ マルギオーノ)は1955年、オランダ生まれのソプラノ歌手。

オランダって今一つパっとした歌手がいないイメージなのですが、
ここにさまよえるオランダ人がいました。

あまり有名な歌手ではないかもしれませんが、実力は圧倒的で、
本物のドラマティックソプラノの声を持った数少ない歌手です。

ドラマティックソプラノというと、メゾソプラノがソプラノ役を力強く歌っているような声を想像される方もいるかもしれませんが、
マルギオーノはソプラノの声域を強い声のままピアノ~フォルテまで、高音域でも楽に操れるタイプのドラマティックソプラノです。
なので、トスカやイゾルデのような作品から、モーツァルトまで高い質の演奏をすることができます。

 

 

 

モーツァルト 魔笛 Ach, Ich fühl’s

歴史的な名演奏といっても大げさではない出来栄えではないでしょうか?
初めて聴いた時は震えました。

低音でもドラマティックソプラノならではの太さと強さがありながら、声の透明度は失われない。
それでいて高音は、メゾ上がりのソプラノにはとても出せないような真っすぐで張りがあるピアニッシモを出す。

この演奏に足りないものがあったら教えてくれ!
と言いたくなるような非の打ちどころのない演奏だと思います。

 

 

 

ワーグナー ヴェーゼンドンクの詩による歌曲(全曲)

1曲目の「天使」は結構難しい曲で、案外上手い演奏が少ないのですが、
マルギオーノは母音の太さが全くブレないので、
声に力がありながらも響きがオケに溶けていくようです。
逆に、ちょっとでも母音によって響きの質が変わったり、無駄なヴィブラートが入るだけで台無しになってしまう繊細な曲なのです。

パミーナのアリアやこの歌曲集を聴くだけで、マルギオーノ歌唱技術の高さがわかります。
あえてあまり好きじゃないところを挙げれば、フォルテの表現になった時にポルタメントが掛かることくらいで、ピアノの表現や響きにはケチの付けようがないレベルです。

2曲目の「stehe still」や4曲目の「Schmerzen」より、
1曲目の「Der Engel」と3曲目の「Im treibhaus」の方が素晴らしいというのも、ドラマティックソプラノである彼女の声を考えるとちょっと不思議です。

 

 

 

 

モーツァルト コジ ファン トゥッテ Come scoglio

イタリア語になっても響きの質は変わりません。
音に対して真っすぐ声が当たる感じで、
どんな音の跳躍でも鍵盤を叩くようにその音スパっと出る。
並の歌手がこの演奏を真似したら、レガートで歌えない人が1音1音喉で押してるんだな~。みたいな演奏になってしまうのだと思いますが、この人は全然そんなことはない。
こういうのをバケモノと言います。

素晴らしい演奏でも、フリットーリは発声技術をとことん磨いた先にある演奏はこういうものなんだろうな~。
という人間味があるのですが、
マルギオーノは表現的にではなく、声的に人間離れしているように思えてなりません。

 

 

Barbara Frittoli

私的に、この2人の一番の違いは、フリットーリは常に開いた声、
アペルトという意味ではなく、常に一定の自然なヴィブラートがあって、
言い方は難しいのですが、一音先を歌えるポジションに声があると言えば良いのでしょうか?
最高音を歌うとしたら、その前の音に既に最高音のポジション、響きが乗ってるイメージで、よく高音を出す時はその前の音が大事!と言われるように、常に次の音を歌う準備ができた声で歌っている。

一方のマルギオーノは、ノンヴィブラートの声で、それこそ鍵盤を叩くように声が出る。
一番最後なんて、あんな1音1音マルカートで切って歌ったら、最高音は絶対ズリ上げるか、喉声になるか、何にしても綺麗にはハマらないと思うんですが、ちょっと意味わからないですね。
なお、彼女にとってのフィオルディリージ役は、Nアーノンクールから勧められて演じた役のようで、本来マルギオーノ自身がレパートリーにしていたものではないようです。

 

他には、ここでは紹介しませんが、
シュヴァルツコップのマスタークラスを受けている映像も残っていたりしますし、Rシュトラウスの歌曲も音源が結構ありますが、
やっぱりイゾルデが良いです。

 

 

 

 

ワーグナー トリスタンとイゾルデ Mild und leise

Rシュトラウスの歌曲では、ものによっては声が硬質過ぎて、上手いけど何か違う感じがすることがありますが、イゾルデはこういう声でこそ歌われるべき!と思わせる見事なハマり具合だと思います。

これで最後のピアニッシモが完璧に決まるのですから、ニルソンにも引けを取らないと言っても言い過ぎではないと個人的には思っていたりします。

 

とは言っても、この歌い方を真似できるか?
と言われれば無理でしょうし、
発声技術は確かに素晴らしいですが、日本人にこの歌い方ができるかと言われると、正直難しいでしょう。
それでも、マルギオーノのような歌唱の美意識はドイツ物を歌う時にきっと役に立ちますので、多くの方に知って欲しい歌手ではありますね。

 

 

 

 

プッチーニ ジャンニ・スキッキ O mio babbino caro

テノールでは、どんな声であろうと、
愛の妙薬のネモリーノのアリア{Una furtiva lagrima」と
ドン・ジョヴァンニのアリア「Dalla sua pace」辺りを上手く歌える歌手は良いテノールだと思っているのですが、ソプラノではこの曲かもしれません。
どんな声質でも、O mio babbinoを上手く歌えない歌手は技術がない歌手である。と断定していいと思うのです。
最高音も高くないし、複雑な音形もない。
単純な旋律美を美しく歌えるレガートと、繊細な声のディナーミクのコントロール、これが出来るかどうかを問われる曲ですからね。
いくら技巧が巧みで超高音が出たって、こういうのが下手な歌手はやっぱり歌が上手いとは言えません。
逆に、ドラマティックソプラノでも、技術があればこれだけ見事に歌えるのですから、本当によくできた曲ですね。

 

 

 

CD

 

 

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