Katharina Persickeはドイツリートを歌うソプラノの響きの理想形

Katharina Persicke(カタリーナ ペルジケ)はドイツのソプラノ歌手。

ダルムシュタットを主戦場とし、バイロイトには一応2016年~出ているのですが脇役。
その他、フライブルクや時々ドイツ以外のヨーロッパの劇場に出ている程度なので、キャリアとしてはそこまで注目する程ではないかもしれませんが、
はっきり言って声は今最もドイツリートを美しく歌えるソプラノ、と言っても良いと思っています。

とにかく、透き通るような透明度の高い音色でありながら、しっかり芯があり、硬さはないのに真っすぐに不必要なヴィブラートが掛からずに伸びる声は、ドイツ語の歌曲や宗教曲を歌うのに大変向いています。

特に本人もインタビューで特別思い入れを語っていたのですが、Rシュトラウスの歌曲解釈では現代活躍している歌手と比較すれば、他者の追随を許さない程の完成度です。

 

 

 

Rシュトラウス 歌曲集「乙女の花」から Mohnblumen

Mohnblumeはハナゲシ(ポピー)のこと

 

 

 

<歌詞>

Mohnblumen sind die runden,
rotblutigen gesunden,
die sommersproßgebraunten,
die immer froh gelaunten,
kreuzbraven,kreuzfidelen,
tanznimmermüden Seelen;
die unter’m Lachen weinen
und nur geboren scheinen,
die Kornblumen zu necken,
und dennoch oft verstecken
die weichsten,besten Herzen,
im Schlinggewächs von Scherzen;
die man,weiß Gott,mit Küssen
ersticken würde müssen,
wär’ man nicht immer bange,
umarmest du die Range,
sie springt ein voller Brander
aufflammend auseinander.

 

 

<対訳>

ポピーの花々は円になって咲いていて
血色が良くて 健康的で
この夏の日差しに萌え出て
いつでも容器に機嫌がいい
とってもお行儀が良く、とっても明るくて
疲れ知らずに踊れるほど有り余る生命力で
笑い泣き、
生まれながらに
ただ矢車菊をからかっているように見える
それでもなお、大抵は隠している
とても優しい最高の思いを
たわむれる弦の中で
人は、神様がご存知のように、キスで
窒息させるかもしれなくても
心配しなくても良いかもしれない
お前がそのお転婆を抱けば
彼女たちは真っ赤になって飛び跳ね
勢いよく燃え上がる、お互いにね

 

矢車草

歌詞を見ながら聴いて頂ければ、いかにペルジケの発音が明快で、
ただ場当たり的に単語のアクセントを強調するのではなく、
表現に即してあえてアクセントじゃない音を強く発音してみたり、
情景が思い浮かぶような子音の出し方、母音の色合いの使い分けも見事としか言いようがありません。
Rシュトラウスの小難しくて音が高い、技巧自慢のソプラノが好んで歌うような曲は、あまり好きになれないのですが、
こんな見事に表現されると、曲の価値も見直さざるを得ません。
ちなみに、他の歌手と比較してみると、
Christiane Karg

カルクもリートの上手い歌手ですが、
ペルジケに比べれば、表情に貧しく、ただ綺麗に発音していて正確に音を歌えている。以上のものではありません。

 

 

 

ロッシーニ スターバト・マーテル Inflammatus et accensus

前のシュトラウスとはうって変わって、こういう厳しい表現の時も、
ただ声でゴリ押しするのではなく、言葉の音色や子音のスピード感で痛みとか嘆きとかが表されています。

 

 

 

 

ブラームス ドイツレクイエム Ihr habt nun Traurigkeit

これぞ天上の安息。
先に紹介した2曲は言葉によって表現されていた音楽を、この曲では響きだけで歌っています。
歌っている場所が教会ということもあるでしょうし、曲の様式感だけでなく、しっかり空間の特性を生かした演奏スタイルを変幻自在に使い分けられる技術は素晴らしいの一言です。

 

 

 

Rシュトラウス 4つの最後の歌(全曲)

歌詞の対訳はコチラを参照ください。

姿勢、口のフォーム、響きのポジション、どこを取っても言うことないです。
上半身は肩や首のどこも力んでおらず、表情も穏やかで、頭の位置も決して前傾姿勢にはならず、常に胸より後ろにあります。
決して大柄な歌手ではないと思うのですが、どっしり根を張って立っているように重心が安定していて、不要な部分の脱力と、必要な部分への力の伝道が上手くできていることが見て取れます。

響きは、軟口蓋に張り付いているかのようにどの音域でも高さが維持されていて、特にピアノの表現は空間に溶けていくような、声がオーケストラの中の一つの楽器であるかのごとくそこにある感じの自然さです。
ただただ美しいとしか表現できない歌を歌える、稀有なソプラノだと思います。

これほどの歌手が、そこまで大きな注目を集めることなく、
バイロイトを除いて大きな劇場とも縁がないなんて信じられません。
ここはもう、新国がゼニを積んでだな\(^o^)/

この感じでは、来日することはなさそうですが、
せめてCDではペルジケの演奏を堪能することができるので、
これからも素晴らしい録音を残してくれることに期待しつつ、
YOUTUBEに、次回のダルムシュタットでのトゥーランドットのリューをどう歌ってるかとかアップされないか期待するしかなさそうです。

 

 

 

CD

 

 

 

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