メキシコから現れたフローレスのような声のテノール Jesús León

Jesús León(ヘスス レオン)はメキシコ生まれのテノール歌手。

この人は2010年頃はプッチーニのトスカ(カヴァラドッシ)や、蝶々夫人(ピンカートン)なんかを歌っていたようですが、今では完全なベッリーニ、ドニゼッティを中心として、フランスリリックオペラを得意とするベルカント物を得意としたテノールとして活躍しています。
しかも、声はフローレスのようなどう聴いてもカヴァラドッシを歌っていたとは思えないレッジェーロの声なのだから不思議す。

 

 

 

プッチーニ トゥーランドット Nessun dorma

これがなぜか重いものを歌っていた2010年頃の演奏。
明らかに声に合っていないのですがそれでも綺麗に歌うので、本来この曲が持っている旋律の美しさが引き立っているのが面白いところです。
本来はもっと強い声でもこれくらい軽く歌われるのが理想的なのでしょう。
少なくとも大半の演奏は絶叫の大声大会になってしまうので、それなら声に合ってなくてもレオンの演奏の方がよっぽど聴いていて疲れない・・・と言ったら失礼でしょうか(爆)
とは言っても、このアリアを歌ったり、ロドルフォすっ飛ばしてカヴァラドッシ歌ったりと、全く訳のわからないステップでオペラの舞台に立っているとしか言いようがありません。
それ以前に、この声をカヴァラドッシに選んだキャスティング担当者の耳を疑わざるを得ない。

 

 

 

 

ビゼー 真珠採り Je crois entendre encore

こちらは2014年の演奏。
どうもレオンの当たり役で随分歌っている機会が多いように見えますが、演奏を聴けば納得です。
ファルセットを使わずにこのアリアをしっかり歌えるのは立派ですね。

もとからテッシトゥーラの高い声なのでしょうか?
(パッサージョという概念がこの人にあるのかも疑問)

高音より中音域の方がやや鼻声気味でヴィブラートが気になることがあります。
しかし、それを差し引いても、明るくて繊細さと芯の強さがあるレオンの声が大変魅力的である事実はかわりません。

 

 

 

 

 

 

 

ドニゼッティ ドン・パスクワーレ Povero Ernesto・・・Cerchero lontana terra ・・・e se fia

 

 

 

 

 

Juan Diego Flórez

フローレスの歌唱と比較しても、レオンの歌唱の方がむしろ癖がすくなく、清潔な歌い回しな気がします。
表現的にはもうちょっと工夫して欲しいと思わなくもないですが、発声的な部分で言えば、レオンの方がフローレスより癖がないのは明らかです。

あえてレオンの声に注文を付けるのであれば、もっと胸の共振が欲しい。と言えば良いのでしょうか。
ちょっと頭部だけの響きになっている。
それに比べてフローレスはなんだかんだ言って胸の響きと連動しているので、声その物は太くないけど劇的な表現に耐えられる。
ソプラノでもテノールでも、とても軽い声で高音が楽に出る歌手ほど、立体感と言えば良いのか、ただ透明な美しさだけでなく、もっといろんな色が表現できる音色が乏しいことが多いのですが、
その原因は多くの場合胸の響きが無いことだと私は考えています。
そこについてはいずれ詳しく書くつもりです。

 

 

 

 

ドニゼッティ 連隊の娘 Ah, mes amis

この演奏はおそらく2018年だと思います。
これまでのファルセットに近い響きから、より実声の比率が増しています。
声そのものが太くなったと言うより、声の芯が太くなった印象を受けます。
その要因は、やや鼻声気味だったところが解消され、この演奏ではそのような箇所が見当たりません。
結局鼻に入るか否かでこれだけ響きの質が変わるということがわかると思います。
この変化を見れば、鼻腔共鳴を神格化する日本の特に合唱界の風潮がどれだけ間違っているかも感覚的に理解できるのではないでしょうか?
鼻声になってしまったら多彩な音色や歌い回しを表現することはできない。細くて軽い声だったらできないのではありません。
レオンは決して深い響きを作ろうとして掘って奥まった響きにしたりはしていませんが、時々”a”母音がアペルトになること以外、浅い響きと感じることはないと思います。

テノールは若い内は恥ずかしいと思わず、高音はファルセットに近い響きで楽に細く出す訓練を重要視すべきでしょう。

どこぞのメソッドで
「高音をファルセットにするのは敵前逃亡だ!」
などと書いている人がいますが、絶叫して玉砕する方がよっぽどバカです。
そんなことをして喉が強くなると信じているのは新興宗教とかわりありませんので、もし男性合唱なんかでそういう指導を受けることがあったら、すぐにそこを離れることをお勧めします。
そんな訳で、合唱をやっている方にもレオンの高音は良い教科書になるのではないでしょうか。

 

 

 

 

ベッリーニ 夢遊病の女 Ah perche non posso odiarti

こちらが2019年の演奏。
ますますフローレスに似てきた印象を受けます。
いかがでしょうか?

ドン・パスクワーレを歌っていた音源と比較して、声が太くなったのではなく、鳴っている範囲が顔面だけでなく、もっと深い部分から広い範囲が振動している声になっていることに気付くでしょうか?

最初は細い響きでも、そこから下半身と連動していけばこうして響きが充実していきます。
(全然変わらないフォークトという人もいますが・・・)

よって、間違っても声を太くしてはいけないのです。
レオンの声の成長過程は本当に私達日本人テノールにとって、良い勉強材料になると思うのですがいかがでしょう、

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