Sonia Prina(ソニア プリーナ)は1975年イタリア生まれのコントラルト。
ヘンデルやヴィヴァルディといったバロック作品を得意とし、
中でも超絶技巧を駆使した演奏で存在感を放っている。
プリーナが素晴らしいところは、大抵超絶技巧を得意とするコントラルトやメゾに多い、
アクの強い声。一癖ある響きといったものがないこと。
太い声でありながら、これほど自然に難しいパッセージを歌いこなせる歌手はそういない。
この類の作品で存在感を見せていた歌手と言えば、例えば最近ならジェノー
ひと昔前ならホーンあたりか
ヴィヴィカ ジェノー
マリリン ホーン
ジェノーもホーンも米国の歌手だが、米国の低声歌手は何かと必要以上に鼻に入れる癖がある。
日本の合唱指導者が大好きな、鼻腔共鳴を最大限に生かした発声の到達点はこのような声ではないのか?
それに比べてプリーナの声は全く癖がない。
特に伸ばす音で違いが顕著に表れるのだが、下の二人は伸ばしているうちに響きが硬くなったり、
あるいは揺れたりするのに対して、プリーナは実に自然である。
メリスマでも、決して技巧だけが耳につくのではなく、しっかり言葉の一部として聴こえる。
こんな歌手が今までどれだけいただろうか?
優れたカウンターテノールにはそのような歌唱ができる歌手もいるが、
コントラルトでは記憶にない。
キレッキレとはこういう演奏のことを言うのだろう。
かつては金の卵として期待され、今ではラトル夫人となっているコジェナーと比較すると、
この演奏がいかに凄いかがわかる。
マグダレーナ コジェナー
https://www.youtube.com/watch?v=H121YQ7ZZRI
コジェナーは音程によって響きのポジションが変わってしまっており、
録音にも関わらずフォルテで出す時に時々声が割れる。
常に面で響きを捉えているプリーナと、点で音を当ててることが多いコジェナーの差は、
当然音楽の流れ、レガートにも表れている。
プリーナの演奏で気になることと言えば、高音で引っ掛ける”tu”の”u”母音で喉が上がって狭くなってしまうこと。
これ以外は全く粗がない。本当に素晴らしい演奏である。
なお、コジェナーについては、
早すぎる成功によって一流になれなかったメゾMagdalena Kožená
という記事を過去に書いてるので、そちらも未読の方は参照頂ければと思う。
よく発声について、
「細く額や鼻の上当たりを狙って響きを集めて。」などの指導をする人がいるのを見かけるが、
このような演奏を聴けば、点で響きを集めるという考え方そのものが誤りであることが分かるだろう。
重要なのは面で響きかせることである。
鼻の当たりに響きを集めるとこうなる。
マリアナ レウェルスキ
この声質の違いが瞬時にわかるようになれば、
オペラなどで優れた歌手とそうでない歌手を聴き分けるのも難しくなくなる。
特に日本人キャストの場合はこの類の響きの歌手が多いこと・・・。
男女問わず点で響きを集める歌い方をするから鼻に入り易くなるしレガートもできない。
レウェルスキを見ても分かる通り、日本人だけの問題ではないのだが、
日本の音楽学校のトップがこの状況なのだ。
藝大うたシリーズ2014〜オペラ《ばらの騎士》より第3幕 三重唱
ゾフィー:平松 英子
元帥夫人:佐々木 典子
オクタヴィアン:寺谷 千枝子
https://www.youtube.com/watch?v=DQmETGSFI5w
これが芸大の教授だったり日本のトップクラスの歌手という扱いだったり・・・。
それが現実だ。
だからこそ、大事なのはどこで歌を習うかではなく、誰に習うか。ということになる。
余談が長くなってしまったが、この人は現在、
ヘンデルを中心にヴィヴァルディやグルックなどに絞って歌っているようだが、
その後さらにレパートリーを広げるのか、それともバロックオペラに拘るのか個人的には注目している。
超絶技巧を駆使しなくても、十分にドラマティックな表現力のある太い低音は、
シュトゥッツマンのような大御所と比べても引けを取らず、更に自然な声であることを考えれば、
プリーナがイタリア物以外、例えばフランス歌曲やドイツリートを歌ったらどうなるのかは大変興味深い。
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