チャイコフスキー コンクール 2019年 声楽部門の入賞者について (評論)

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先日行われた

第16回 チャイコフスキーコンクール 

各部門の入賞者も決まり、ガラ・コンサートの模様も早速YOUTUBEにアップされています。
何と言ってもピアノ部門で藤田真央さんが2位に入賞したので、日本でも例年以上にこのコンクールが注目されていることでしょう。

 

Закрытие XVI Международного конкурса им. П.И. Чайковского. Гала-концерт лауреатов

 

しかし、ここはあくまで声楽専門に扱うサイトなので藤田さんについては一切触れず、
粛々ととピアノやヴァイオリンに比べて注目度の低い声楽部門のみについて書いていきます。

声楽部門の入賞者は以下の通り

 

 

 Women:

First Prize and Gold Medal: Maria Barakova (Russia)

Second Prize and Silver Medal: Aigul Khismatullina (Russia)

Third Prize and Bronze Medal: Maria Motolygina (Russia)

Fourth Prize and Diploma: Angelina Akhmedova (Uzbekistan) and Oksana Mayorova (Russia)

 

Men:

 First Prize and Gold Medal: Alexandros Stavrakakis (Greece)

Second Prize and Silver Medal: Gihoon Kim (Republic of Korea)

Third Prize and Bronze Medal: Migran Agadjanyan (Russia)

Fourth Prize and Diploma: Ankhbayar Enkhbold (Mongolia)

 

詳細はコチラを参照

 

男女とも4位から順番に個人的な印象を書いていきたいと思います。

 

 

 

 

Angelina Akhmedova
リムスキー=コルサコフ My Flowers

はっきり言って完全な喉声です。
全ての音がブチブチ切れて、全くレガートで歌えていません。
ひと昔前は日本人のハイソプラノもこんな感じの人が多かったように思いますが、
ここまで極端な人も珍しいです。

喉を押して歌うハイソプラノの特徴を簡単に挙げると

1:低音が全く響かず、詰まったような声になる

2:レガートで歌えないので言葉が全く聴こえない

3:鋭く貧しい響き
声の大きさではなく、響きの豊かさが全くない声で、ピアニッシモにした時に余韻が残りません。

 

 

 

 

Ankhbayar Enkhbold
ジョルダーノ アンドレア・シェニエ Nemico della patria他

この人こそパワーで歌っているように聴こえますが、
意外と響きがしっかり乗っていて変なクセもありません。
ただし、音色が一辺倒で表現と言う面では退屈さがあり、ただ良い声なだけの歌になってしまっているのが勿体ない。
恐らく、ヴェルディのオペラアリアなんかを3・4曲続けて聴いたら胃もたれ起こすタイプの歌手です。
ただ、最初にも書いた通り、喉を押している訳ではないので、もっと少ない力で軽く鳴らせる技術や表現ができれば化ける可能性は感じます。

 

 

 

 

Maria Motolygina
ポーランドの作曲家 Moniuszko の作品

恥ずかしながらこの曲を知らないので、歌詞の中身が全くわからないのですが、
劇的な表現には魅力があるように見えます。
ただ、声その物はかなり硬く、音域や発音によって音質がかなり変わってしまっています。
持ち声や表現力は素晴らしいものがありますが、発声技術的には粗が目立つ印象です。

 

 

 

 

Migran Agadjanyan
ワーグナー タンホイザー o du mein holder abendstern

映像がなかったので、冒頭のガラコンから、59:30辺りからを参照頂きたいのだが、
この演奏なら、4位のシェニエを歌った方の方が良かった。
とても丁寧にレガートで歌っているように聴こえるのですが、
実際は固めて響きを集めたもので、正しいドイツ物の響きではないのです。
言葉で説明するのは難しいので、ローレンツの演奏と比較して頂きたいのですが、

 

 

 

Siegfried Lorenz

Agadjanyanには、軽く柔らかく歌っているはずなのに、ローレンツに比べると不自然な重りを喉に付けたような感じがあります。
アリアに入ってからはそこまで目立ちませんが、レチタティーヴォの出だしでは顕著です。
低い音域でも高い響きで歌うには、決して無理やり響きを集めようとしてはいけません。

 

 

 

 

 

 

 

 

Aigul Khismatullina
モーツァルト 魔笛 Der Hölle Rache

技術的には見事なんですが、機械的に聴こえてしまうのは自分だけでしょうか?
こういうタイプの歌手は、超絶技巧が使えない曲でどんな演奏ができるのかが興味のあるところなのですが、
少なくとも顔の表情を見る限り、高音で無駄な力みがあります。

 

 

度々良い例の比較で私が挙げる DevieilheとKhismatullinaのハイFを出している時のフォームや表情を見てください。

 

 

 

Khismatullina

 

 

 

 

 

 

 

 

Devieilhe

 

Khismatullinaの口のフォームは一般的な感覚で見ると、超高音を出しているようには見えません。
というのは、眉間のしわは勿論問題なのですが、幾ら奥の空間が開けば良いとは言え、
口はある程度開かなければ奥の空間を確保できません。

 

 

もの好きが作ったこういう映像を見ても、口の開け方が一般的ではないことが良くわかります。

High F! 19 Sopranos Una Voce Poco Fa

全ての歌手の動画がある訳ではありませんが、ここに出ている歌手と比較しても、
Khismatullinaの声が、息の解放によってではなく、喉を押すことによって出している部分が大きいと見ます。
こんごもう少し違った曲がYOUTUBEにアップされた時にでも、改めてこの人の発音や歌唱は詳しく検証したいと思います。
流石にこのアリアで、歌詞の発音がどうのとは中々言えませんからね。

 

 

 

 

 

Gihoon Kim
チャイコフスキー Don Juan’s Serenade

本当に韓国人は凄い声の人が多いですね。
しかも、大抵の韓国人に有り勝ちな声量だけで何言ってるかわからない訳ではなく、
発音も明確で、声その物は素晴らしいヘルデンバリトンのものと言えそうです。
ただ、この曲でも、ガラ・コンサートでのスペードの女王のアリアでも、
薄い響きでピアノを出すことはできないので、基本フォルテの表現しかできない歌手と言って良いでしょう。
よってヴェルディバリトンにはなれません。
派手なアリアを聴くだけならこの上なく素晴らしい歌手かもしれませんが、オペラ全曲で聴くと果たしてどうなのでしょう・・・。
この演奏を聴く限りでは表現の引き出しの狭さが気になるところです。

 

 

 

Maria Barakova
ロッシーニ セミラーミデ Eccomi al ne in Babilonia.. Ah! Quell giorno ognor rammento

https://www.youtube.com/watch?v=o6P9NEmchs4

※上手くリンクが張れないのでURLから閲覧ください。

色々な意味で凄い歌手が1位になりました。
太くてドスの効いた低音を出すこともでき、高音も強い、
更にアジリタの技術もかなりある。
低音と高音で響きの質も保ててはいるのですが、
響きその物はもう少し高いところにないと発音は飛びません。
マリリン ホーンからアクを抜いたような歌手で、確かに持っている楽器は他の入賞者と比べても恵まれていると言えるでしょう。
ですが、先日ロッシーニテノールについての記事を書きましたが、ロッシーニメゾも似たようなもので、
マリリン ホーンやバルトリの影響で、ベルカントとは形容できない一世一代の特殊な歌唱技術を持った歌手を指す言葉になってしまった感があります。

 

◆関連記事

新旧歌唱比較シリーズVol.6  【ロッシーニテノール編】 ロッシーニテノールが実はベルカントへの反逆だった!?

 

 

戦前のイタリア人メゾ スティニャーニの演奏を聴けば、
現在ロッシーニメゾ。と呼ばれている声が、古いイタリアの発声とは切り離されたものであることが良くわかると思います。

 

 

Ebe Stignani

Barakovaが如何に不自然に太い声で歌っているかが分かると思います。
わたしから見れば本当に勿体ない。
こんな変な加工をしなくても十分良い声なのだから、もっと声を掘らずに素直に前に出せばよいのに・・・。

 

 

 

 

Alexandros Stavrakakis
ヴェルディ ドン・カルロ Ella giammai m’amò

二位の韓国人の声の方が明らかに迫力はありましたが、
音楽の良し悪しは声のデカさではありません。
Stavrakakisの歌唱は何と清潔感があり正確的表現の妙に長けていることでしょう?
声楽コンクールは歌の上手さを競うべきで、声の良し悪しを競うものではない。
その本質を踏襲した審査結果には個人的に満足しています。
Stavrakakisは今回入賞した歌手の中で間違えなく一番優れた発声技術を持っています。
深くゆったりした豊かな響きでフォルテ~ピアノの表現ができ、
響きはしっかり前に集まって言葉も飛んでいる。
他の歌手とは明らかに響きの質が違います。
最近ギリシャの歌手をお勧めに挙げることが多いのですが、
ここでもギリシャ人の素晴らしい歌手が大きな舞台で結果を残しました。

全然声楽と関係ないですが、NBAでもギリシャ人のアデトクンポという選手がMVPになりましたし、
私の中では今ちょっとギリシャが熱いです。

 

 

 

総評

全体的に見れば、このコンクールの出場者は、
ヨーロッパ勢が少なく、モンゴル、韓国、ロシアといった地域に加えて、
東欧のロシア語を使う地域の歌手が中心に参加しているように思うのですが、
往々にして声が表現や発声技術的な部分より評価されている印象を受けました。
しかし、男声で1位になったStavrakakisは明らかにその流れとは逆です。
こういう歌唱をする歌手が1位になったという結果にはかなり意味があると個人的に感じています。
特に2位の大砲みたいな声の韓国人を抑えて勝ったのですから、本当に意味があります。
あくまでコンクールはプロの演奏家としての出発点でしかありませんので、
ここから数年後に名実共に一流になっているのが誰かを想像するのも聴く側としては楽しみです。
Stavrakakisがこの結果に満足せず、更なる高みを目指して研鑽を積んでくれることを願うばかりです。
総評と言いながら一人の歌手をべた褒めしてるだけで申し訳ないのですが、
女声は全体的に優れた楽器の歌手が選ばれたイメージで、個人的に好感を持てる歌唱をしている歌手がいなかったので、
また有名になって、もっと演奏動画がアップされた時にでも改めて1位、2位の方などは記事にしたいと思います。

 

 

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