宮本史利 リサイタル2019 ~歌手活動20周年を記念して (評論)
2019年09月07日 (土) 14:00開演(13:30開場)
東京文化会館 小ホール
<キャスト>
バリトン:宮本史利
ピアノ:大嶋千暁
ゲスト
ソプラノ:藤谷佳奈枝
メゾソプラノ:小泉詠子
ソプラノ:横森由衣
バリトン:大塚雄太
テノール:持齋寛匡
他
<曲目>
ドニゼッティ:オペラ『愛の妙薬』より
ドゥルカマーラの登場シーンを含む名場面
ロッシーニ:オペラ『アルジェのイタリア女』より
1幕フィナーレを含む名場面
イザベッラ:小泉詠子
エルヴィーラ:藤谷佳奈枝
ムスタファ:大塚雄太 他
プッチーニ:オペラ『ジャンニ・スキッキ』より
ジャンニ・スキッキの登場シーンからアリアまで
ラウレッタ:横森由衣
リヌッチョ:持齋寛匡
ツィータ:小泉詠子 他
宮本史利氏のプロフィールについてはコチラを参照ください。
Mirella FreniやEnzo Dara に師事し、その他大勢の錚々たる歌手に指導を受け、イタリア永住権を取得した日本人歌手ということでこれは期待できる。
と思って、友人に誘われて行ってきました。
本来演奏会に行く前に下調べはするんですが、今回はあえて事前に情報をいれずにいきました。
<演奏会のコンセプトについて>
リサイタルとはなっていますが、
実際は彼を中心としたガラ・コンサートに近く、
出演者が好き好きな曲を歌うのではなく、
彼が勉強してきたオペラブッファのシェーナを中心にプログラムされているのが特徴です。
一人の歌手のリサイタルで、これだけゲスト出演者が多いのは見たことないかもしれません・・・。
字幕も入れて、オペラブッファの魅力を伝えたいという想いが伝わってくる内容となっていました。
衣装や小道具も凝っていて、このようなことは思いついても中々実行に移せるものではなく、宮本氏に人徳がなければ、これだけの人が協力することはないでしょう!
<歌唱評論>
ここからは各歌手の歌唱評論です。
まずはゲスト出演者から2名だけ書かせて頂きますが、
基本的には例によってちょっと厳しめかもしれませんがご了承ください。
◆藤谷 佳奈枝氏
パルマ音楽院を出ているということで、この方もイタリアで勉強してきた歌手ということのようです。
演奏については動画があったので参考まで添付します。
ロッシーニ イタリアのトルコ人 Squallida Veste, E Bruna
正直結構気になる点が多いのですが、
まずブレスで吸気音がするんですよね。
これは、喉が開いてないから音が鳴る、
開いてないということは、どうしても深い豊な響きにはならないということ。
響きについては点で当てている感じが強く、特定の音程というよりは発音に起因するものなのか、鼻声気味の箇所が時々聴かれます。
表情とかは色々考えているだろうし、低音も無理に鳴らしたりはしないのですが、音程によって響きのポジションがまちまちなので、どうしても音質が安定しません。
中低音の響きと高音で明らかに分離して聴こえてしまうので、
恐らく低音の声質のまま高音へ抜けられるところを探すべきなのだと思います。
歌っている姿勢を見ていても、伸びあがるようなしぐさが見られるので、支えが浮いていると見るべきだし、ピアノの表現でも音量が落としきれずヴィブラートが掛かって、真っすぐに糸を引くような美しいピアニッシモには至っていない。
別に一流歌手と比較してどうと言いたい訳ではなく、結局のところ、声が太過ぎるので、もっと響きで歌ってくれないと、言葉をいくら一生懸命発音しても色が出ないということですね。
この曲は歌詞を知らないので、聴いていても愛の歌なのか、恋敵に復讐を誓う曲なのか、何かしらの希望を見出して歌う曲なのか、全然イメージができない。そこが問題だと思いました。
◆小泉 詠子氏
こちらも映像があるのでご参照ください
モーツァルト フィガロの結婚 Voi che sapete
結論から言えば、今回の演奏会で一番上手いと思ったのは小泉氏でした。
特別な声を持っている訳ではありませんが、とにかく喉を押さない歌い方をするので、あまり声量はないかもしれませんが、とても音楽が自然で旋律を美しく歌うことができる歌手だと思いました。
この演奏でも、確かにケルビーノの快活な心身の動きが見れるような歌唱ではないかもしれない(少年の歌ではなさそう)ですが、旋律の出し方は丁寧で、大げさなことをせず、モーツァルトの書いた音楽の魅力を引き出すものになっているのではないかと思います。
今回はロッシーニのアルジェのイタリア女のイザベラと、ジャンニ・スキッキのツィータという、どちらもキツイ性格ながら歌唱スタイルが全く違う役柄を器用に歌い分けていました。
声にはロッシーニの方が合っている印象を受けましたが、一方でイザベラは結構テッシトゥーラが低くて、低音でややドスの効いた声が出せる方が栄えたりするようなところもあるので、本当に声に合った曲を聴くことができたかは別問題ですが、出演者の中で際立って丁寧な音楽作りをしていた印象を受けました。
◆宮本 史利氏
こちらも4年前の演奏ですが動画がありました。
言い方は悪いかもしれませんが、日本人の歌い方だな。
という第一印象でした。
確かにティンブロのある声で、良いところに響きが集まっているように聴こえるのですが、圧力で無理やり響かせている感じで硬いため、やっぱり音色が一色なんですよね。
そしてピアノの表現では、フォルテのときのビンビン鳴っているポイントがなくなって、抜いたような声になってしまう。
今日のプログラムの冒頭で歌ったドゥルカマーラはそもそもバスが歌う役ですが、宮本氏の喋っている声を聴いてもわかる通り、喋り声はテノールと言われても違和感がないくらい明るく軽い透明度のある声です。
歌声より喋り声の方が良い声なんじゃ・・・(爆)
では、この方の先生と言えるダーラはどう歌っているのか聴いてみましょう。
Ezzo Dara
ロッシーニ セビリャの理髪師 A un dottor della mia sorte
お聴きの通り、前にビンビン鳴らすような歌い方はしていません。
寧ろ声を圧力で響かせるのではなく、息の流れで軽く喋るように歌っているように聴こえます。
ダーラ以外にも、個人的には歴代でも最高級の歌手だと思っているプラティコのマスタークラスも宮本氏は受けているそうですが、一体どんな指導を受けたのか、そこに興味が沸きます。
Bruno Praticò
何にしても、
前にビンビン響かせるのがイタリアオペラを歌う声だ~!
みたいなのは、この2人のブッファバスの巨匠の演奏を聴くだけでも間違っていることがわかると思うのですが、う~ん、なぜ宮本氏はああいう声を出すのだろう?
現在43歳とのことで、バリトンであればまだまだ声は成熟していきますし、今後どのように丸くなっていくのか見守っていこうと思います。
※体格じゃなくて声がそうなることを祈るばかりです。
<プログラムについて>
勉強してきたブッファ作品の魅力を伝えたい。
というのが前面にでていて、字幕をつけたり、小道具までこだわったりと、やりたいことはすごく分かったのですが、
ドタバタ騒ぎだけがブッファの魅力なのか?
と言われると私は違うと思います。
ず~~~っと騒々しい音楽では聴衆も疲れる。
例えばドン・パスクワーレであれば、
ノリーナにビンタ食らった後のパスクワーレはどこか哀愁があって、笑いとは対極の音楽だし、
愛妙も、ネモリーノ、アディーナのアリアは笑うえるものではありません。
一応ジャンニ・スキッキでは有名なラウレッタのアリアを入れてましたが、全体のどんちゃん騒ぎの比率から考えれば、コンビーフに埋まったグリンピースみたいなもので、箸休めにはなりませんでした。
これだけプロの歌手が出ていたのであれば、
ノリと音量に任せて押し切るばかりでなく、もっとプロだからこそできる緻密なアンサンブルを聴きたかった。
コレだけの人数集まって練習するのも大変だろうから、下手したら全員集まっての練習なんて1・2回しかできてないんだろうけども・・・。
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