30代前半で最も売れているソプラノ Nadine sierraがもてはやされる不思議を検証してみる

Nadine sierra(ナディーヌ シエッラ)は1988年、米国生まれのコロラトゥーラを得意とするソプラノ。
このところ特にリゴレットのジルダ役で世界的に活躍している若手で、
既に世界各国の有名歌劇場で歌いまくっているのだが、
最近の記事では同じようなタイプのソプラノを特集してきているので、
この機会に、それこそ現代30代前後の歌手で最も成功するに相応しいのかを考えてみたい。

 

 

 

2013年

グノー ロミオとジュリエット Je veux vivre

シエッラが注目を集めたのは、2013年のNeue Stimmenという国際声楽コンクールでの優勝。
そして、この演奏がファイナルで歌った演奏になる。
5・6年前なので25歳くらいの時の演奏ということを考えれば、
勢いで歌っている感じも、若さ故に良い方に捉えられなくもなく、将来性を感じる歌唱であることは否定できない。
因みに、この年の同コンクールのファイナルには、同じようなタイプの歌手がいた。

 

 

 

Kristina Mkhitaryan
ドニゼッティ ランメルモールのルチア Regnava nel silenzio

この人はロシアのソプラノで、こちらも既に英国のロイヤルオペラなど世界的に活躍している歌手なので、
この年の同コンクールは非常にレベルが高かったと言えるかもしれない。
余談だが、ミヒタリャンは現在発声を崩してこの時より全然下手になっている。
そのことは過去の記事でも触れているので、参考までに気になった方はご覧ください。

 

 

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2014年

ヴェルディ リゴレット Caro nome

聴いての通り、高音は抜けるのだが中音域で声が籠る。
特に”i”母音の焦点が合っていないのはよろしくない。
1歳年上(1987年生まれ)のプラットと比較してみると、低音の音色や響きのポイントの違いが分かる

 

 

Jessica Pratt

この比較はとても面白いと思う。
と言うのは、シエッラは高音だと綺麗なピアニッシモができるのだが、
全体的に発音が不明瞭で奥まっている。
第一声の「Guartier Malde」という名前が発音できてないのは流石にマズイと個人的には思うのだが・・・。
逆プラットは、発音が全体的に前で発音が非常に明確なのは良いが、
時々雑に聴こえる。吐き捨てるように歌われると、
ジルダというあらゆるオペラの中でも屈指の純真華憐な役のイメージが崩れるのは私だけだろうか?
この二人をいい具合に足して2で割りたい。

1987年生まれのJessica Prattは米国のシンガーソングライターであり、
オペラ歌手の方は1979年生まれの間違えでした。ここに訂正いたします。

 

 

2016年

リゴレット リゴレットとジルダの二重唱 Sì, vendetta
バリトン Leo Nucci

シエッラは発音が奥まっているので、こういう速いパッセージになると何一つ言葉が聴こえず、
テンポも乗り遅れる。
ヌッチという素晴らしい比較対象がいるので、いかにシエッラの声が遅れて出て来ているかがわかるだろう。
高音で必要な奥行きは持っているが、発音は絶対に前になければならない。
どの位発音ができていないかを知るにはリート演奏を聴くと手っ取り早い

 

 

 

 

Rシュトラウス Cäcilie

こんなリズム感のない演奏でよくピアノ伴奏が弾けるなと、ピアニストを褒めたくなる。
この人の癖がよく分かるのは、音の出だしのアタックが鈍く、語尾は間延びするというところ。
この曲は同世代のソプラノで比較できる演奏が見当たらなかったので、同じ英語圏のソプラノ
ルークロフトとの比較

 

 

 

Amanda Roocroft

シエッラの演奏がいかに曲が本来持ってる快活な動きを台無しにしているかが良くわかる。
最高音はシエッラの方が綺麗に出てるとかはあるかもしれないが、
そういう部分的な声の良し悪しと、歌が上手いことは全く別物である。

 

 

 


 

 

 

バーンスタイン ウェストサイドストーリー Somewhere

英語字幕があるので、発音が聞き取れます(笑)
ただ、ミュージカルナンバーやオペレッタは通常のオペラより浅めに言葉を立てて歌うのが一般的なのだが、
この人は何歌っても同じ歌い方をする。
私の中ではこういう言葉の出し方をする方がミュージカル的だなぁ。と感じる。
そこは専門外なので、漠然とした主観でしかないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

2018~2019

ヴェルディ リゴレット Caro nome

 

18-19シーズンのリゴレット。
ジルダ歌いということで、改めて最近の演奏を聴いてみるも、進歩している所が得にない。
”a”母音が少し鼻に入る癖も、低音で響きが落ちる癖も改善されていない。
ここまで書いたのを読んだら、要するにただのアンチか?
とも思われかねないので、ちょっと本気でどこかダメかを書いてみよう。

 

 

<歌詞>

Caro nome che il mio cor
Festi primo palpitar,

Le delizie dell’amor
Mi dei sempre rammentar!

Col pensier il mio desir
A te sempre volerà,
E fin l’ultimo mio sospir,
Caro nome, tuo sarà.

Gualtier Maldè!

 

 

<日本語訳>

いとしい名前 私の心を
初めてドキドキさせた

愛の喜びを
私はいつも思い出す!

頭の中で 私の欲望は
あなたへと いつも 飛んでいきます
そして私の最後のため息まで
いとしい名前よ、あなたのものです

グアルティエール・マルデ!

 

 

「Caro nome 」 ”no”が鼻に入っている

「che il mio cor」 ”cor”がズリ上げている。
全体的に音の出だしは下から音を取っているような歌い方だし、フレーズの終わりはもっと酷い。

「primo palpitar」 ”tar”がズリ上げ+鼻声

「delizie dell’amor」 ”delizie”の”li”が発音できてない。”dell’a”の”la”が詰めた声
”mor”はズリ上げ

「il mio desir」 全ての”i”母音が詰まってる。”desir”で喉を押している

「sempre volerà」 トゥリルの”pre”と”le”が明らかに違う母音で歌詞を見てても違う発音に聴こえる

「’ultimo mio sospir」 同じくトゥリルの”mo”、”so”で明らかに音色が変になっている。

「tuo sarà」 ”tuo”のトゥリルはまだ良いのだが、”sa”だと明らかに変な響きになる。
さらにアクセントは”rà”にあるのだが、この音の方が”sa”より暗い音色になっている。
基本的にトゥリルの時に全部鼻に入っている。

 

こんんあ感じで、1:08まででこれだけダメ出しが出来るのである(笑)
コレで現在世界最高潮のジルダ歌い。などと言ったら他の歌手に失礼だ。
そんな訳で、明らかに前述のJessica Prattの方が、声にやや硬さはあるにしても全然上手い。ということになる。
歌詞を見ながら聴けば、言葉へのアプローチや神経の使い方がシエッラと比較して雲泥の差なのがよく分かると思う。

 

 

 

 

ドニゼッティ ランメルモールのルチア 狂乱の場

超高音や超絶技巧ばかりが目立つ曲だが、
実は結構低い音域で歌う時間も結構長いので、
歌っている部分は違うが、昨日の記事で紹介したプリーツィと低音~高音までの響きの質の変化。
どちらが同質の響きで低音~高音までを謳えているかを聴き比べて頂きたい。
シエッラは高音は素晴らしいが、中低音がどうしても高音とは分離して聴こえてしまう。

 

 

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こんな感じで、
現在30代前半の歌手としては最も売れているシエッラだが、
実際は悪い癖が満載で、少々乱暴な言い方をすれば高音の技術だけしか取り柄のない歌手である。
20代の時に比べれば発音は少し前に出て来ているが、それでも五線の上の方の音以外は響きが落ちる。
年齢を考えればまだまだ上手くなる可能性は十分にあるのだが、如何せん声に癖が強いので、
今のようなレパートリーを歌っている分には良いが、今後よりリリックな役柄を歌うようになった時にどうなるかが問題だ。
五線の中の音で勝負できる歌を歌えるようにならなければ、
彼女の歌手としての寿命はそう長くないだろう。

 

 

 

CD

 

 

 

 

2件のコメント

  • stretta より:

    私もSierraがもてはやされているのがよくわからないなと感じている一人です。決してアンチではないし、下手くそと思っているわけでもありませんが。
    レパートリーの系統が近い若手歌手という事なら、まだ荒削りですがPretty YendeやLisette Oropesaの方が有望です。
    ちなみにソプラノ歌手Jessica Prattは1979年生まれです。1987年生まれのJessica Prattはアメリカのフォーク歌手です。
    同じアーティスト名なのでややこしいですが、ソプラノ歌手のほうのPrattはさすがにSierraと同年代には見えません(笑)。

  • Yuya より:

    >stretta様

    間違え訂正ありがとうございます。
    完全に見間違えてました。
    Jessica Pratt(Soprano)は1979年、英国生まれ。
    全く同姓同名で1987年、米国生まれのシンガーソングライターがいたとは!
    完全に勘違いしていました。

    Sierraは初めて聴いた時から好きになれませんでしたね。
    一つ一つの言葉や音に対する感覚が甘過ぎます。
    Rシュトラウスのツェチーリエの演奏に現れてるように、
    イタリア古典歌曲とかシューベルトの歌曲を歌ったら聴けたもんじゃない演奏をすると思いますよ。
    Yendeは私も結構好きです。
    彼女はコロラトゥーラを得意としてはいますが、中低音でもしっかり表現できる声と技術、音楽性を持っていますしね。
    ただ、最近の米国人歌手、あと韓国人歌手は良い声でも独特のアクのようなものがある歌手が大半で、
    どうしても自然な声には聴こえないことが多々あります。
    コロラトゥーラを得意とする人では、Sierraより10歳近く若いPatricia JANEČKOVÁがやたら人気あって、
    確かに凄い才能なのですが、若すぎる成功は後に大きな代償を伴うことが多々ありますから、
    25歳を過ぎるまでは評価は保留しようかと思ってたりします。

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