bayreuth festival 2019  Lohengrin (評論)

本日は、バイロイト音楽祭2019
7/20公演のローエングリンの音源がアップされましたので、
そちらについて、今回も主要キャストの評論を書いていきたいと思います。

昨日のエクサンプロヴァンス音楽祭に続き、有名音楽祭の音源だけに、
YOUTUBE上から直ぐに削除される可能性があることをご了承ください。

 

 

 

【キャスト】

Conductor Christian Thielemann
Director Yuval Sharon
Stage Design & Costumes Neo Rauch & Rosa Loy
Lighting Reinhard Traub

Heinrich der Vogler Georg Zeppenfeld
Lohengrin Klaus Florian Vogt
Elsa von Brabant Camilla Nylund
Friedrich von Telramund Tomasz Konieczny
Ortrud Elena Pankratova
Der Heerufer des Königs Egils Silins
1. Edler Michael Gniffke
2. Edler Tansel Akzeybek
3. Edler Marek Reichert
4. Edler Timo Riihonen

 

 

いとうまゆのベビーサイン(テキスト+DVD)

 

 

 

 

 

【評論】

◆伝令役
Egils Silins

普段はあまり気に留めない伝令と男性合唱、
しかし、流石はシリンス。
この人は声もさることながら表現も実に巧い。
ヴォータンを歌わせても一流のシリンスを伝令で使うという無駄に贅沢なキャストだと思ったのですが、あまり出番のない役でもやっぱり一流歌手が歌うと引き締まりますね。
飛び抜けた声量がある訳ではありませんし、
そこまで柔軟性のある響きでもありませんが、
品格のある声と言葉に対する的確なアプローチで
歌の上手さが光る歌手です。
逆に声量だけでヴォータンみたいな大役をこなしている歌手であれば、
脇役を歌っても作品に良いアクセントを出すことができません。
シリンスは脇役も主役もこなせるユーティリティプレイヤーといったところでしょうか。

 

 

◆オルトルート役
Elena Pankratova

声が素晴らしいことはわかっていますが、
やっぱりこの人は声と勢いだけに任せて歌っています。
まず響きが硬いので、それこそテルラムントと一緒に歌っている場面では、
声量は恐らくパンクラートヴァの方があるのでしょうが、
響きの質が明らかにコニエチュニーの方が良いので、
同じ音を歌っても完全なユニゾンになっていないように聴こえます。
発音にしても語尾の処理がいい加減で、「m」や「n」がわからないならまだしも、「t」すら全く聴こえないのは流石にマズイと思います。

なので、当然セリフの言い回しも全然ダメで
例えば2幕のエルザとオルトルートのやりとりの場面(3:10:25)

「Ha, diese Reine deines Helden, wie wäre sie so bald getrübt」

(ハ、あなたの英雄の血統も、あっという間に濁ってしまうでしょうね)

のような時、もちろん頭の「Ha」は嘲笑の笑いですから、
「ハーディーゼライネ~」みたいな歌い方をするのはあり得ないのですが、
この人は平気でやっています。
そんなんだから、ソロで歌っている時は存在感がかなりあるのに、
合唱が入ったり分厚い重唱では線がはっきりしない。
オルトルートは声でゴリ押しすれば良い役ではないと私は思いますが・・・。

 

 

◆テルラムント役
 Tomasz Konieczny

本公演で個人的に一番良いと思ったのがコニエチュニー
昨年よりも響きが解放され、
音程や発音によってはやや籠り気味になることもなくなった。
悪役に相応しいドスの効いた黒い声でありながらも輝きがある。
矛盾しているように思うかもしれませんが、前で言葉をさばけていないとこのような響きにはなりません。
もっと具体的に言えば、やはり”i”母音が、
良い意味で鋭く突き刺さるような強さを持っており、
その母音に他の母音の響きもしっかりそろえられているということが言えるでしょう。
シュトルックマンにも負けないような本当に素晴らしい、理想的なテルラムントだったのではないでしょうか!

◆ハインリッヒ王役
Georg Zeppenfeld

安定して良い声を響かせる立派なハインリヒ王ではあるのですが、
ただ堂々と歌っている以上の人間味やエルザに対する慈愛のようなものが感じられないのが残念。

例えば3幕登場シーン、群衆を前に歌うのと
エルザに対して

「Wie muss ich dich so traurig sehn!  Will dir so nah die Trennung gehn?」

(何と悲しく見えることか!{ローエングリンとの}別離がつらいのか?)

と歌う部分

更にその続き

「Heil deinem Kommen, teurer Held! 」

(よくぞ参られた、高貴な英雄よ!)

という一遍してローエングリンを称える箇所(5:12:40~)

こういう部分で全く歌い方に変化がないのはやっぱり不自然だと思うので、
もう少し言葉に対して相応しい音色が欲しいところ。
声の安定感は素晴らしいのですが、同時にそれが歌の退屈さでもあるのがツェッペンフェルトの勿体ないところではないかと思います。

 

 


 

◆エルザ役
 Camilla Nylund

今までに何度も聴いたことある歌手なのですが、
どうもイメージと違う。
私の中でニュールンドあまり直接的に感情を声に表すタイプではなく、
端正に内面を浮き彫りにするような表現をする歌手だと思っていたのですが、ここでのエルザは火の玉のようです。
声の透明度に若干陰りが見え、エルザの夢でも今一つ響きが乗ってない印象を受けたのですが、途中からゼンタがオランダ人を信ずるがごとき熱量で、ローエングリンのテーマが出てくる辺りから歌い始めるもので、
何かと弱さばかりが際立つエルザという役柄に、今まであまり聴いたことのない強い意志が宿っていたように聴こえて新鮮でした。

声そのものも後半にかけて随分よくなり、
2幕のオルトルートとのやりとり以上に、3幕のローエングリンを疑う場面が中々鬼気迫るものがあり、物語の山はローエングリンが素上を明かす場面ではなく、ここにもってきたのではないかと感じました。
新国でサロメを聴いた時でも、どこか理性的な演奏をしている印象を受けましたが、ここで聴くエルザは結構ぶっ飛んでいると思います。
そんな訳で、ニュールンドらしい端正で清潔感のあるエルザを期待すると想像と違う演奏なので、良い悪いという評価は一概にできない気がしました。
一言言えるのは面白いエルザです。

 

 

◆ローエングリン役
 Klaus Florian Vogt

はじめに、日本にはかなりいらっしゃると思われるフォークトのファンの方は以下読まれないことを推奨します。なぜなら、私はフォークトをヘルデンテノールと認めていない、いわゆるアンチだからです。

ティーレマンの音楽とフォークトの声の不釣り合い感がまず気になります。
それでも、今まで聴いた中では良い方だったかもしれません。
以前は無理に重い声を出そうとするような場面が時々聞かれたのですが、
今回は終始明るく軽い声を保つことができていましたので・・・。
それでいて、うまい具合に”o”母音なんかは明るくなり過ぎないよう、言葉によって”u”に寄せたりして工夫がみられました。
とは言ってもローエングリンとしてどうかと言えばツッコミどころはかなりあります。

登場シーンは良いとして、
ローエングリンとテルラムントの決闘前のアカペラで
アンサンブルをする場面がありますね、(1:02:05~)

ここが本当にヒドイ。
ソルフェージュやってるんですか?
と突っ込みたくなる位メトロノームで刻んだような歌い方をしており、
コニエチュニーが奮闘するも虚しくフォークトに敗れ去るといった感じである。そんな皮肉は聴きたくないんだがねぇ・・・。

 

あとは2幕フィナーレ

「Heil dir, Elsa!  Nun lass vor Gott uns gehn!」

「エルザに祝福あれ!さぁ 神の元へ参りましょう!」

この幕を締めくくる決め台詞(3:29:26)

ファルセットに抜いている上に、
「Heil」が「ホイル」に聴こえる有様で
全部鼻声という、こんな英雄普通に嫌でしょ。
このご時世、ドン・ジョヴァンニのドン・オッターヴィオ役でもこんな声で歌う人は一流とは認められないはずですが、あろうことかヘルデンテノールとしてもてはやされるフォークトは一体何なのでしょうか?

その他発音については、とにかく”r”、ようするに巻き舌がこの人はできないのではないかと私は思っているのですが、
例えば終幕の「遥かな国に」で

「Gral」という聖杯を表す重要な言葉が出てきますが、
これをあろうことか、フォークトは「ガール」と発音しています。
更に、音程の良さが彼の一つの取り柄だったと思いますが、この音が完全に低くて当て逃げ状態。
ぜひ皆様も確認してみてください(5:21:38)

こんな感じで言葉に対する感覚がドイツ人なのに酷すぎます。
まぁ、日本人でも日本語に対する感覚が酷い人はいるので、何人だからどうという問題ではないのかもしれませんが、母国語をいい加減に発音する歌手を一流と認めることはできません。

 

以上がバイロイト音楽祭2019 ローエングリンの評論でした。
ぜひ、皆様も聴いた感想、あるいは私の記事に対するご意見などがあれば書きへお寄せ願います。

コチラ

音楽祭シーズンなので、YOUTUBEに動画や音源がアップされれば、
評論記事が続くことになるかと思いますので、ご了承願います。

 

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