ベルカントを今に伝える希少なイタリアーナ Carmela Remigio

Carmela Remigio(カルメラ レミージョ)は1973年生まれのイタリア人ソプラノ
若い頃は、リッカルド ムーティの秘蔵っ子として話題になったこともあったが、気づけばそれなりに来日もするし、
そこまで一流劇場で引っ張りだこのスター歌手という分類ではなくなっているた。
だが。実力は間違えなく現在屈指のリリックソプラノであることから、ネックとなっているのは、
彼女が歌うレパートリーが基本的にイタリア物だけという部分なのかもしれない。

さて、冒頭でベルカントという言葉を使ったが、この言葉には実はあまり意味はないと私は考えている。
ベルカントをググるとまた出てきました。音楽評論家 河野典子女史がベルカントとは何かを解説してくれています。
コチラより一部抜粋

 

「ベルカント」という言葉は、イタリア・オペラ(イタリアの作曲家によるイタリア語の)歌曲の歌唱テクニックを評価するときに使います。
(中略)
イタリア語は母音が主となる言葉です。(ふだん喋る言葉ではなく、クラシック音楽における歌唱法に限っての話ですが)イタリア語では、母音を響かせることが第一義となります。子音が母音の流れを邪魔してはなりません。さらさらと流れる小川である母音の水の流れを、楔を打つように子音が止めてはならないのです。イタリア語の子音は、流れている母音の上に木の葉で作った舟(子音)をそっと乗せてやるだけで、言葉として聴衆の耳に届きます。ところが、言葉を立てるべく「子音をしっかり発音しよう」とすると、子音が息の流れを遮断してしまい、その時点でベルカントの歌唱から離れてしまうのです。

息の流れを止めないことと、明晰なディクションのバランス
息の流れを言葉が邪魔しないことを最優先にしていたのは、スペイン出身の名ソプラノ、モンセラート・カバリエでした。彼女は、息の流れを邪魔しそうな場合に子音を言わないなど「声の美しさ」を何よりも優先しました。彼女のフレージングの長さ、上から下まで均一な音色はベルカント歌唱の見本でもあります。現在は歌手に、より明晰な発音が求められます。
(中略)
その歌手の歌がベルカントと呼べるかどうかの判断基準を最後に一つお教えしましょう。聴いていて喉元がむず痒くなったり、聴き終わってこちらの身体が硬くなった感じのするときは、その歌手の呼吸が浅く、体に力が入って歌っている証拠。いい歌手を聴いたあとは、身体の中の、上から下まで息が自在に通って、気持ちよく帰路につけるものです。

この人の言葉を要約すると、
ベルカント=イタリア物を歌う時にのみ適用されるテクニックを評価する言葉
喋る時と歌唱は別物である。
子音は息の流れの妨げになるので極力発音しない。

最後の分は、ベルカントの話をしていたはずなのに、いい歌手に対象が変わっているのが謎ですが・・・

因みにWIKIでは

ベルカントイタリア語 Bel Canto、「美しい歌」「美しい歌唱」の意)は、声楽用語のひとつ。以下に述べるように定義付けの乏しい用語であるが、大体においてイタリアオペラにおけるある種の理想的な歌唱法を指す。
(中略)
現代では「ベルカント(Bel Canto)」なる語は一般的にはその歴史的背景は無視され、美声、声量、技術、表現力を兼ね備えた理想的なイタリア式の声楽発声法・歌唱法(様式)といった文脈で用いられるが、オペラ研究家にとってこの用語は15世紀末から18世紀にかけてイタリアで発達し、19世紀前半のロッシーニオペラでほぼ完成の域に到達した、高度な歌唱装飾を伴う声楽歌唱の一様式を示すことが多い。

こんな感じで、実はベルカントという言葉は概念として存在しているだけで、決まった定義づけは存在しない。

今回タイトルに”ベルカント”という言葉をあえて使ったのは、
モーツァルト~ベルカント作品と呼ばれるドニゼッティやベッリーニと一部ヴェリズモ作品のスペシャリストという意味合いである。

それでは早速彼女が22歳頃の演奏から聴いてみよう

 

そしてこちらが31歳頃の演奏

さらにこちらが2017年(44歳頃)

いかがだろうか?
こうして聴き比べると、20代の演奏は、若い頃からとても素晴らしい声だったが、
どこか一生懸命言葉を喋ろうとしていると言うか、どこか音楽が角がある印象を受ける。
そして30代、圧倒的に発声技術の向上が見られるが、それと同時に表現の希薄さは禁じ得ない。
曲が全体的にテッシトゥーラ(平均的な音域)が高く、テンポも速い曲ということもあって、言葉の勢いという部分には物足りなさを感じる。
最後の40代、全てにおいて充実しており、粗を探すのが難しい程の完成度である。
アジリタ(細かいパッセージを転がるように歌うこと)の技術、発音、レガート、子音の力感、どこを取っても隙がない。
あえて言えば強弱に関する表現はもう少し工夫できるかな?という程度で技術的な欠点は皆無と言って良いと思う。

今後も重い役に以降せず、ベルカント物のスペシャリストとして君臨してくれることを願いたい。

 

お勧めCD
この人は録音が少ない上、トスティやロッシーニの歌曲録音は廃盤となってしまった。
なので、今お勧めできるのはドン・ジョヴァンニの全曲録音
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00004TVUN/ref=as_li_tl?ie=UTF8&tag=pota52-22&camp=247&creative=1211&linkCode=as2&creativeASIN=B00004TVUN&linkId=802b10fa8e20360aada281542a2450b5

他のキャストも、お勧めしているVeronique Gensがいるので、女声は特に良い。
男声もペーター マッティは中々のもの。

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