響きだけで歌い続けたソプラノSylvia Geszty

 


Sylvia Geszty (シルヴィア ゲスティ)1934年~2018年はハンガリー生まれのソプラノ歌手
戦後は東側、1970に西に亡命しているようだが、活動の中心はドイツ~オーストリアで、
世界の一流歌劇場を席巻していた訳ではないため、
日本での知名度は高くないが、間違えなく本物のコロラトゥーラの技術を身に着けたソプラノであった。

タイトルにも書いた通り、この人の歌唱は現代のコロラトゥーラを得意とする歌手とは異なって
劇的な表現を排除し、徹頭徹尾響きだけで歌う、戦前のハイソプラノのようなスタイルである。

 

 

 

トマ ミニョン je suis titania

それにしても何を言っているのか全く歌詞が飛ばないので、何語で歌ってるかもわからない。
だが、この歌唱は歌詞で表現することを最初から想定していない。
喉の奥行を使わず、前だけ開けている、
こんなフォームで歌ったら、
「口を横に開き過ぎ」と間違えなく注意されるだろう。

ただ、言葉を明確に発音しないことで響きの高さを維持しているのは間違えない。

 

 

例えば、過去の記事でも紹介した現在最高のコロラトゥーラを得意とするソプラノ
ザビーネ ドゥヴィエ

ドゥビエのフォームと比較すればゲスティの歌い方の問題は明らかだが、
フォルテを出すとゲスティの声はやや喉声気味になることを除けば、
ピアノや速いパッセージでの精度、響きの明るさには遜色がない。

生で聴いてみない限りは何とも言えないが、声はゲスティの方が飛んでいそうなほどだ。

 

まさにこの歌い方、
戦前から活躍していたコロラトゥーラを得意とする歌手のものだ。参考までに、

リリー ポンス

重要なのは、響きだけで歌うこと
とにかく繊細なブレスコントロールで歌っている分、
子音の発音のような、息の流れを遮る行為は極力避けられる
常に上顎に息が通った状態で、舌の動きも極力避けられている。

 

 

 

 

レオンガヴァッロ 道化師 Qual fiamma avea nel guardo

なぜこんな役をやったのかはよくわからないが、
イタリア物、特にヴェリズモなんかを歌うには全く言葉の力が出せず、
響きも非常に浅いのだけが目立ってしまう。
このフォームで歌うことの限界を知る意味では価値のある動画ではあるが・・・。

 

コロラトゥーラを生業とする歌手というのは、そういう意味で昔は特殊だったのだろうが、
マリア・カラスの影響が非常に大きかったのもあり、
超絶技巧を要求される役であっても、よりドラマ性を求められるようになった。

いわゆるベルカントオペラと言われるドニゼッティやベッリーニの作品が、
ヴェリズモのように歌われるようになった。
という表現を使う人もいるが、
超高音を出すソプラノの発声の遍歴を見れば、その点は納得がいく。

 

 

 

Rシュトラウス Grossmächtge Prinzessin

ここまで自在にコロがれるソプラノはそういない。
この発声はコロラトゥーラを歌うためだけの特殊なものであり、
言葉でドラマを表現するための歌唱ではない。

だから、ゲスティはヴィオレッタも当然ノルマも歌っていない。
結局重要なのは、
自分自身が己の声をどれだけ理解して、レパートリーを選ぶかということだろう。

 

何にしても、
昨年の12月に逝去されたとのことで、
また伝統的な歌唱技術を持った偉大な歌手が世を去ってしまったのは残念である。

 

 

CD

CDなどのメディアも少ない人である。

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