マルタ・メードルに育てられたブリュンヒルデUte Vinzing

Ute Vinzing(ウテ ヴィンツィング)は1936年ドイツ生まれのソプラノ。
伝説的なワーグナーメゾとしてワグネリアンには良く知られたマルタ メードルに歌唱指導を受けた経歴があり
その歌声はまさにブリュンヒルデを歌うためにあるとしか思えないもの。

深さと強さ備えていながら、ソプラノの音色のまま軽く抜けていく高音
柔軟さを兼ね備えながら、無駄なヴィブラートのない響き
この人以上にブリュンヒルデが合う声はそういないと私は思っている。

この人は宮廷歌手でもあるのだが、日本語はもちろん、英語でもWikiの項目が存在せず、
ドイツ語のWikiでだけやたらと詳しく書かれているところを見ると、
ドイツ国内だけで有名なワーグナーソプラノなのかもしれない。

 

 

 

 

ワーグナー 神々の黄昏 フィナーレ

最近バイロイトで歌ってるブリュンヒルデ達とは響きの質がもはや全く違う

 

 

数年前までバイロイトで同役を歌っていたワトソンとの比較

リンダ ワトソン

ワトソンは元々メゾからソプラノに上がっているというのはあるが、
ここまで違うとは!
少なくとも当時のワトソンは、間違えなく世界最高レベルのブリュンヒルデであった。
その声と比較してさへ異質と言える高音の強さと響きの高さ。
更に、あのニルソンと比較しても引けを取らない所か、それ以上の線の太さがあるかもしれない。

 

ビルギット ニルソン

なぜこれほどの歌手が、私の周りのワグネリアンの間でも語り草になっていないのか不思議なんだが、
何にせよ、こんな凄いワーグナーソプラノがメードルの指導を受けていた。
という事実だけで十分に話題性もドラマ性もあるではないか!

 

 

 

 

Rシュトラウス エレクトラ モノローグ

ヴィンツィングの一番の当たり役がこのエレクトラと言われている。
ただ、個人的にはテッシトゥーラはもっと高い方が声に合っていると感じる。
と言うのも、低音を鳴らす時に少し押す癖があり、胸に響きを落とすことはしないが、
俗に言うクネーデル(お団子声)といわれる詰まった響きになってしまうことで、
高音との響きの質が露骨に出てしまったり、喉に引っかかることがある。

 

 

 

1985年 ウィーンフィルワーグナーコンサート
ソプラノ ウテ ヴィンツィング
アルト  クリスタ ルートヴィヒ
テノール ジェームス キング
バス   トーマス スチュワート

バーンスタインが指揮した長大なオールワーグナー演奏会
キングとヴィンツィングのジークフリートフィナーレは凄いの一言。
映像がかなり乱れるのだが、それを差し引いても見る価値がある。
それと比べてしまうと、スチュワートのヴォータンの告別がややショボく感じるほど。

とりあえず、ここに出ている誰を見ても、
頬筋を過剰に使って頬を吊り上げたりせず、逆に上唇や頬はほとんど動かない
それに比べて大事なのが下唇を引っ張る動作、
あくびをしているような喉の状態を人為的に作るには、
下唇を軽く引っ張ってみれば良い。

余談だが、
カルーソーが著書の中で、「口内を横に開ける」と書いていたのを高校生だかの時に読んで
「口を縦に開けるというのは間違えだったんだ~。」なんて思ったことがあったが、
中を開くために必要なのが、
大雑把に言えば上記に書いた下唇を引っ張るような筋肉の使い方だったという訳で、
それを理解したのは数年前・・・。
発声教本などは役に立つことも多いが、誤って理解すると大惨事になってしまう。

 

 

脱線してしまったので、ヴィンツィングの話に戻そう。
彼女のフォームをじっくり見てみると、常に空間が広く保たれている。

 

 

”o”母音の中音域

 

 

 

 

 

”i”母音中音域

 

横から見た時の口の形なんかは絵に描いたよう。
そして”i”母音でもこれだけ空間が保たれている。
見ての通り、”i”母音でも上唇はほとんど上がらず、逆に下唇を使っている。

YOUTUBEには残念ながら音源があまりなくドイツ語の曲しか聴けないが、
実際はイタリアオペラもそこそこ歌っていたようなので、
トスカなんかはどんな演奏をしていたのか気になるところではあるが、
ゼンタやイゾルデの音源が存在しないというのは残念と言う他ない。
この声ならゼンタにもピッタリだったろうに・・・。
ヴィンツィングはこれからでも音源が復刻されることを望みたくなる、
そんな圧倒的な声を持ったドラマティックソプラノである。

 

 

CD

 

ここではヴェルディ歌ってるようなんだが、
果たしてイタリア語歌唱なのだろうか?
もう一声安くなれば購入を考えるのだが・・・。

 

 

2件のコメント

  • ワーグナー好き より:

    ウテ・ヴィンツィングさんを調べていてこのサイトに辿り着きました

    昔々1983年に、バイロイトでも腕を振るった偉大なN響常任指揮者の
    ホルスト・シュタインさんがオールワーグナープログラムを定期演奏会
    で取り上げました。
    このときソリストとして招聘されたのがウテ・ヴィンツィングさんで、
    前半はトリスタンとイゾルテの「愛の死」を、後半は神々の黄昏から
    「ブリュンヒルデの自己犠牲」を熱唱し、まさしく伝説の公演となり
    ました。

    本ブログ記事を読み、凄い歌手であることを改めて認識いたしました。
    ありがとうございます!

    • Yuya より:

      ワーグナー好きさん

      メッセージ頂きありがとうございます。
      ヴィンツィングは本当に素晴らしい歌手ですよね。
      勿論声の力は言うまでもないのですが、静かな語り口でも音楽の緊張感が決して緩まない。

      全盛期に最高のプログラムで彼女の歌唱を聴くことができたとは羨ましい限りです!

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