前回のチャイコフスキーコンクール声楽部門の一位を振り返る

今年はチャイコフスキーコンクールの開催年にあたるということもあり、
この機会に前回の1位だった歌手を振り返ってみたい。

女声1位

Yulia Matochkina(ユリア マトチュキーナ)

マトチュキーナは2015年のコンクール当時32歳だったロシアのメゾソプラノ

 

 

 

ベルリオーズ トロイアの人々 La mort de Didon

個人的な感覚としては変わったタイプのメゾである。
影のある響きは確かにメゾで、声そのものも強さはあるのだが
太さという部分ではソプラノと言っても通用しそうな細さで、
ロシアには特に多い、胸声を多用してドスの効いた太い低音を駆使するということはない。
マトチュキーナがソプラノに近いと言うのは、3位に入賞のガロヤンと比較jすると分かり易い

 

 

マネ ガロヤン

ガロヤンは響きのポイントが定まっておらず、軽いソプラノのはずなのに響きが暗く、
高音も抜けきらず、無駄なヴィブラートもかかっている。
一方マトチュキーナは響きのポジションが安定しており、音域に関係なく高い響きを維持している。

 

 

マトチュキーナが高音を出している所

 

 

 

 

 

ガロヤンが高音を出している所

 

 

この比較だけでも表情筋を使うと響きが明かるくなるとか、
高いポジションに響かせるのに必要だ。という主張が間違っていることがわかる。
高音では頬筋を使って、目を見開いけ。などと言う指導を見たことがあるが、
目線の高さは重要だとしても、別に眼力はいらない。

 

 

 

チレーア アドリアーナ・ルクヴルール Acerba voluttà, dolce tortura

 

イタリア語にしては子音の硬さが気になるものの、声に関して言えば理想的とさへいえるレベル、
深さがありながら、しっかり響きが前に飛んでいて高さもある。
欲を言えば、ピアノの表現でもっと細い響きが欲しいというのはあるが、それでもこれだけ深く安定した響きのメゾはそういない。
まだロシア国内の活動がメインのようだが、今後知名度が上がるだろうことはほぼ間違えない。

 

 

 

 

 

 

男声1位

Ariunbaatar Ganbaatar(アルアンバター ガンバター)
モンゴルのバリトン歌手で、2015年のコンクール当時は27際

 

 

 

ロッシーニ セビリャの理髪師 largo al factotum

男声部門は上位入賞者がアジア人ばかりで、4位にやっとロシア人という状況だった。
女声部門とは違い、男性の方は1位が圧倒的に上手いという訳ではなかった。
確かにこの人は良い声だが、27歳でこんな声を出していて、40、50ではどうなっているのだろう?
そもそも、歌詞分かって歌ってるのか?
と思うくらい演劇性のない何でも屋である。
良い声以外何もないんだが・・・。

 

 

Chuanyue Wang 

こちらが2位の王傳越
王は選曲ミスな気が個人的にはしている。
ロシア語はほぼわからないが、この曲は勉強したことある都合上、発音が気になる部分があるのと、
声質にそもそも合っていない。
アルアンバターも王もパワーで高音を出すタイプで、
技術でコントロールできている訳ではないので、セビリャならそれでも問題なくても、
レンスキーとなればそうはいかない。
オネーギンのアリアを歌ってE・Fis・Gの音でピアノの表現ができないとなるとちょっと厳しい。
因みに1位のアルアンバターはグランプリも受賞しているので、
事実上評価はマトチュキーナより高かったということだが、
その結果には異議を唱えたい

 

 

 

2017年 カーディフ国際声楽コンクールでの演奏

最初のシューベルトのセレナーデを聴けば私の言いたいことは概ね察して頂けるのではないかと思う。
長母音と短母音の歌い分けが出来てない。とかドイツ語の発音の問題は置いておいたとしても、
何を歌っても同じように聴こえる。
しかし、世界的にはこういう歌唱が高く評価される風潮にあるらしい。
カーディフと言えば、一流歌手を何人か排出していることでも知られるが、
ターフェルやホロストフスキーといった良い声の低声歌手がここで名を上げたことを考えると、
アルアンバターはその系譜と言えなくもない。
しかし、例え太い声を持ったバリトンであっても、かれこれかまわず太い声で歌う歌手など一流であるはずがない
例えば、クラウセのセレナーデとアルアンバターの違いが声で歌う歌手と、響きで歌う歌手の違いである。

 

トム クラウセ

勢いで高音を出すアルアンバターと流れの中で全ての音を処理するクラウセ
いい声といい歌は別物であり、
声が良ければ言葉や様式感が滅茶苦茶でも評価される。
というのはよろしくないと個人的に思ってしまうのだが・・・
それでも今年はどんな歌手が出てくるのか楽しみになってしまうのが不思議なところだ。

 

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