ソプラノとメゾソプラノの間の声種に属する歌手Iris Van Wijnen

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Iris Van Wijnen(イリス・ファン・ウェイネン)はメゾソプラノ歌手で、
恐らくオランダ出身だと思うのだが、詳細が今ひとつわからない。

ヨーロッパを中心にオペラ、コンサート歌手として活躍しているが、その声はメゾソプラノというよりほぼソプラノ。
明確にはソプラノとメゾの中間にある声種の歌手である。

 

 

 

モーツァルト コジ・ファン・トゥッテ come scoglio

もしかしたらソプラノからメゾに転向したのかもしれないが、
この演奏は恐らく2013年頃のものと思われるため、最近の演奏を聴いた感じでもそこまで声は変わっていない。
声の特徴は直線的で硬質ではあるが、発音に癖がなく、低音~Gくらいまでは安定している。
ただ、やはりAの音(このアリアの最高音)はかなり危うく、勢いで出している感は否めない。

 

 

 

デュパルク L’invitation au voyage

モーツァルトのアリアからフランス歌曲になるとかなり響きが変わる。
録音年代は1・2年しか変わらないと思うが、それだけでも高音の質は随分違う。
この演奏なんかは完全に高音がソプラノの響きだが、低音の質はやはりメゾのものである。
ただ、こういう歌唱はピアノの表現だからこそできるもので、
もっと劇的な表現が必要になってくるとピアノで出しているポジションから外れてしまうのが彼女の課題と言える

 

 

 

マスネ ウェルテル Werther! Werther! … Qui m’aurait dit

ピアノ~メゾピアノで歌っている時はレガートで響きにも柔らかさがあるのだが、
メゾフォルテ~フォルテの表現では、どうしても喉が上がったよな硬い響きになってしまう。
この曲の一番最後の部分なんかは典型的で、
強い声を出そうとすると、中音域も硬くやや詰まった音色になってしまうが、
最後の弱音で出す低音の響きは柔らかく広がりがあって、深さもありながら響きは前に出ている。
この音質を保ったままディナーミクがこなせれば本当に良い歌手になると思うのだが・・・。

 

 

 

ブラームス Alte Liebe

フランス語よりドイツ語の方がこの人の声には合っているように思う。
ブラームスだと高音には軽さがありながらも、中低音の深さは紛れもなくメゾの音質で、
不思議なことに高音でも喉のあがったような響きにならなずに、
一番最初にあげたコジ・ファン・トゥッテのアリアを歌っている時とは発声まで全く違ってしまうのも興味深い。
響きが高くても声質がメゾなので、こういうテッシトゥーラのあまり高くない曲を歌う方がこの人の声の良さは出る。

 

 

 

 

 

 

シューベルト Die junge Nonne

ブラームスは声質との親和性でかなり上手くいっているように聴こえるが、
一方のシューベルトはそうはいかない。
声だけ聴けば、しっかりしたフレージングとディナーミクのコントロールができているように聴こえるが、
やはり子音の処理が甘々なのがシューベルトでは露呈してしまう。
曲のリズムと子音のリズムが計算して作曲されているので、そこが出てこないとドラマを表現するところまではいかない。
先日の記事でも取り上げたウィーンズとの比較

 

 

Edith Wiens

 

 

<歌詞>

Wie braust durch die Wipfel der heulende Sturm!
Es klirren die Balken,es zittert das Haus!
Es rollet der Donner,es leuchtet der Blitz,
Und finster die Nacht,wie das Grab!

Immerhin,immerhin,
so tobt’ es auch jüngst noch in mir!
Es brauste das Leben,wie jetzo der Sturm,
Es bebten die Glieder,wie jetzo das Haus,
Es flammte die Liebe,wie jetzo der Blitz,
Und finster die Brust,wie das Grab.

Nun tobe,du wilder gewalt’ger Sturm,
Im Herzen ist Friede,im Herzen ist Ruh,
Des Bräutigams harret die liebende Braut,
Gereinigt in prüfender Glut,
Der ewigen Liebe getraut.

Ich harre,mein Heiland! mit sehnendem Blick!
Komm,himmlischer Bräutigam,hole die Braut,
Erlöse die Seele von irdischer Haft.
Horch,friedlich ertönet das Glöcklein vom Turm!
Es lockt mich das süße Getön
Almächtig zu ewigen Höhn.
Alleluja!

 

 

<日本語訳>

何と梢を抜けて恐ろしい嵐がうなるのでしょう
梁はきしみ、家が震えている!
雷鳴が轟き 稲妻が光る
そして夜は真っ暗 まるで墓場のよう!

今までは 今までは
同じように荒れていたのよ 私の中も
人生はうなっていた、ちょうどこの嵐のように
手足はしびれていた ちょうどこの家のように
愛は燃え上がった ちょうどこの稲妻のように
そしてこの暗い胸は ちょうど墓場のようだった

さあ荒れ狂うがいいわ 激しくも力強い嵐よ
心の中は平和だし 心の中は静かです
花婿を待っているの 愛を捧げる花嫁は
聖なる火に清められて
永遠の愛に身を捧げます

私は待ちます わが救い主を! この憧れのまなざしで!
お出でください 天なる花婿よ 花嫁を迎えに
この魂を地上の束縛から解き放ってください
聞こえます、親しげに教会堂の鐘の音が響くのが!
あの甘い響きは私を引き上げてくれるのです
全能の永遠の高みへと

※今回はコチラより対訳を転載させて頂きました。

 

 

さて、どうだろうか?
「Blitz」(稲光)や、「 flammte die Liebe」(燃え上がる愛)のような言葉のスピード感がフェイネンの歌唱に決定的に足りないし、
全体的に語尾の”t”や”r”と”l”の違いも今一つなのがわかるだろう。
シューベルトはきっちり歌うというのは本当に難しい。

 

 

 

モーツァルト コンサートアリア Ch’io mi scordi di te?… Non temer, amato bene(1:06:45~)

最初と同じモーツァルトでイタリア語の曲だが、口のフォームが全く違っているのがわかるだろうか?

 

 

 

2013年頃

 

 

 

2019年

 

写真はA辺りの音域を出している時のものだが、
頬筋を使い過ぎても良い結果にはならないということは何度も書いている通りだが、
ここでもそのことがわかる結果となっている。

演奏については、一番最後の最高音でちょっと失敗したこと以外は声のコントロール、
フレージング、ディナーミクなどの表面的な部分では教科書通りと言って良いような素晴らしい演奏を披露している。
ただ、技術的に完成されていればいるほど気になるのが表現や音色
ジャンスとの比較

 

 

Veronique Gens

今後フェイネンが一流になる為のハードルはこの違い。
つまり言葉の出し方や音色に対する感覚を磨いていかないと、機械的な歌唱になりかねないということ。
それでも、フェイネンの声や響きは非常に魅力的で、澄んでいながら深さもある稀有なメゾであることは疑いようがない。
今後もどのような活躍をするのか注目したいと思う。

 

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