恐るべき潜在能力を秘めたメゾでもソプラノでもない声の持ち主 Monika Korybalska

 

Monika Korybalska(モニカ コリバルスカ)はポーランドのメゾソプラノ歌手。

ポーランドの歌劇場Opera Krakowska で長く歌っている歌手で、世界的に活躍しているような歌手ではないかもしれませんが、柔らかいメゾソプラノの声から、ドラマティックソプラノ顔負けの高音まで出すことが出来る、メゾの役もソプラノの役も歌えるような声を持った逸材です。

レパートリーも、お国もののモニューシュコのオペラやプロコフィエフのようなロシア物が歌えるだけではなく、モーツァルト、ドニゼエティ、ロッシーニ、ベッリーニのようなベルカント物、プッチーニのようなヴェリズモ、更にはオッフェンバックのオペレッタまで実に幅広い作品を歌うことができるのも特徴です。

 

 

 

ビゼー カルメン  La Chanson Bohême

こういうことを言うとセクハラになるのかもしれませんが、
本当に引き締まった良い身体してますよね~。
体格的に全身を無駄なく使って声を出していないとこういう声にはならないでしょう。
姿勢や表情に力みはありませんが、立ってる姿勢を見ただけで必要な筋肉は十分備わってるのが見て取れます。
逆に筋力が強すぎるくらいかも・・・。

インタビューで喋っている声を聴いても、全然太くなくて、全然日本人でもいそうな地声なのですが、
低音の響きが真っすぐで上品。
全く無駄な力みがなくて、掘ったような奥まった声や、胸に落とすようなことをしなくても、低音は鳴るんだなと、この人の歌唱を聴いていると再認識させられます。
多分、コリバルスカの高音を聴いたらソプラノじゃないか?
と思う人もいるかもしれませんが、正確にはメゾとソプラノの中間でしょうね。

この曖昧さを理解することで、歌をやっている人は自分の声質に迷い難くなるでしょう。
合唱では、曲のテッシトゥーラ(最高音ではありません)や声質のバランスでパート移動をすることは珍しくないですが、なぜ独唱ではそういう発想にならないのか個人的には不思議です。

 

 

 

 

ドニゼッティ アンナ・ボレーナ Per questa fiamma indomita

ポルタメントやリズム感の緩急があまりないので、イタリアオペラの歌い方としてこれが良いのかどうかは別問題かもしれませんが、非常に清潔感のある音楽作りで、とにかく無駄がない。
イタリアオペラらしさは感じませんが、歌唱としてはとても好きです。
何と言っても高音がそこらのソプラノより力強さがありながら余裕もあって、それでいて低音も響きが落ちることなく、薄い響きながら真っすぐに飛ぶポジションに乗ったところで歌えている。
ヴィオレッタ ウルマーナがメゾソプラノやってた時に近い印象を受けます。

 

 

 

Violeta Urmana

体格がウルマーナとコリバルスカでは違い過ぎるので、
勿論声はウルマーナの方が全然太いですが、基本的な響きの質は似たものがあると思います。
体格がある人の声を小柄だったり細身の人が真似しようとしても良い結果にはなりません。
アラーニャやカウフマンの失敗はそこにあると私は思っているのですが、結局金が第一になれば、声に合う合わないに関係なく売れっ子が使いまわされるという構造は必然的に起こってくるのでしょう。

 

 

 

 

 

モーツァルト コジ ファン トゥッテ Ah scostati!… Smanie implacabili

モーツァルトを歌う声として適しているかどうか別として、
凄くシリアスなこと歌ってるような切迫感が凄い。
ベートーヴェン大先生が下らないオペラだと一蹴したコジですが、
下らない内容でも、ここまで真剣に、息も絶え絶えといった感じの歌い方をされると、高尚なオペラのような錯覚を覚えてしまいます。
ガランチャの演奏と比較しても、コリバルスカの熱演ぶりがわかると思います。

 

 

Elina Garanca

コリバルスカと比較すると、ガランチャの方が籠って聴こえてしまうし、
リズム感も鈍いし、なんか無難な演奏に終始している印象を受けます。
片方は今や世界で最も売れてるメゾソプラノで、もう一方はポーランド国内でしかほぼ歌っていないメゾソプラノです。
この二人にそこまでの実力差があるとは私には思えませんがいかがでしょう?

 

 

 

 

オッフェンバック ホフマン物語 Vois sous l’archet fremissant

最初に凄いことしてますが、
アリアはしっかりメゾの声で、しかも響きが全部落ちないので、
声量的にはそこまででなくても、オケを飛び越えてしっかり飛ぶんですよね。
他の歌手と比較してみれば明らかですが・・・

 

 

 

Kate Lindsey

ケイト リンジーは30代で名門レーベルのドイツグラモフォンにも録音を残しているような、
米国出身の売れっ子メゾですが、最近の米国人歌手はこういう太い声で歌う人が本当に多くて、個人的にはあまり好きな人がいません。

リンジーとコリバルスカの比較でも、
一方は音域によって声質が変わってしまうのに対し、
もう一方はどの音域でも決して太くならず同じ音質を保った響きで歌えています。

もし、日本でこのような声の歌手がいたとすると
これだけ高音が出るのだからコリバルスカはメゾではなくソプラノである。
などと言う人が絶対の出てくるのですが、
そんな議論が如何に無意味かは演奏を聴けばわかることで、
歌っている曲が声に合っていればそれで良いではないか!ということですね。

それより、大学一年生のソプラノだから最初はみんなフィガロの結婚のスザンナ歌ってね。
みたいな仕組みの方がよっぽどオカシイだろ!っと私は思います。

コリバルスカは大変素晴らしい楽器を持った歌手だと思いますが、
こういうメゾともソプラノともつかない複雑な声を育てるというのは並大抵のことでは無理で、
優秀な声楽教師があって初めて一人前になれる。ということにも思いをはせてみると、
声楽の指導というのは技術を教えたり曲の解釈を説明するのが仕事な訳ではなく、生徒の声を正しく聴く能力が根底にないといけないことがわかると思います。

そして身体は日々変化するので、数か月前に合っていた曲がある時歌いにくくなったり、逆に今までしっくりこなかった曲が急にハマったり、そういうことは日常的に起こるのが歌の世界です。
有名な歌手ですら一年で別人のような声になることだってありますし、そういう変化に敏感な耳を私達聴衆の立場としても身に着けていければ、自ずと日本でのオペラの主役にはいつも同じような人の名前が並ぶ、という現象も減ってくるのではないかと思います。

 

 

 

 

Gala Operetkowa 2019 Kraków-NH. Aleja Róż

今年のポーランドの劇場でのガラ・コンサート
コリバルスカは一人だけ響きの質が違って面白いです。

全体的にアペルト気味の歌手が多い中、コリバルスカだけ響きの密度が全く違う。
この人本当に良い歌手だわ~。

日本に来ることはないと思いますが、いつか生で聴いてみたいものです。

 

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