限りなく胸声に近い響きで歌うロッシーニメゾTeresa Iervolino

Teresa Iervolino (テレサ イエルヴォリーノ)はイタリア生まれのメゾソプラノ歌手。

昨日は地声に近いファルセットで歌うカウンターテノールを紹介しましたが、
今回は胸声に近い響きで歌うメゾソプラノです。

 

本当は、今日は豪華な歌手が集まってミューザ川崎で行われた「グレの歌」の評論を書くつもりだったのですが、偶然音響的に酷い席が当たってしまったのか、歌手の高音がことごとく聴こえず、低声歌手はまだよかったのですが、高声歌手についてはとても歌を分析できる状況にないため、今回はグレの歌についての記事は断念いたしました。
そういう条件だとアルベルト ドーメンだけ凄い!みたいな感じで、伝番は少ない。
という不満しか書けないので、ご了承ください。

 

話をイエヴォリーノに戻しまして、
2007年にアッヴェリーノ音楽院に入学し、2012年にデビューしているということなので、
年齢は現在30歳前後ではないかと思います。

この人の声は全体的に胸声の響きがどこか混ざったような、純粋な上の響きとは違うものがあり、
高音と劇的な低音を出す時にメゾはその辺りの配分を変えて全く違う質の声を出したりするものですが、イエヴォリーノは全部が同じような質で、しかも太めの響きのまま歌ってしまうということをやってのけています。
それにもかかわらず、パワーで無理やり胸を鳴らしたようなドスの効いた声にはならないという、中々特殊な声を持ったメゾソプラノではないかと思います。

 

 

 

ロッシーニ セミラーミデ Oh patria…di tanti palpiti  ・ Nella fatal di Rimini

太い声なんですが、響きが落ちてる訳ではないし、高音も出るし、アジリタもできる。
この歌い方でピアノの表現がどの程度できるのかはちょっと疑問ですが、決して喉を押したり、詰まったりした響きではないので言葉が前に出ていますね。
因みにこの演奏が2013年ということなので、日本の感覚でいくと大学院を出たばっかりということになります。
20代半ばでこんな声出すメゾいる・・・ロッシーニメゾは軽い声のメゾがやるものだ。
というイメージは実は全く成立しないのではないかと思えてきます。

 

 

 

 

 

ロッシーニ セミラーミデ in sì barbara sciagura

この人、深い声なんですが、唇とか舌の使い方が非常に上手いんでしょうね。
全部母音の響きが揃っている上に滑舌が良いので、とりあえず超絶技巧が聴かせられれば歌詞はどうでも良い。みたいなロッシーニ演奏とは一線を画しています。
なんて男前な演奏なんでしょう!歌ってる姿も歌もカッコイイです。
凄く男性的な歌い方な気がするのですが、女性にはこの方の歌い方はどう映るのでしょうか?

ただ意気揚々と歌ってるように見えるんですけど、
実は息の流れは穏やかで、全然力んでいない。
むしろ穏やかに安定しているのが素晴らしいところですね。

速いパッセージでも喉や口内の空間が狭くなることなく、
常に深い響きを保ったまま口先だけでキレッキレに言葉をさばいていく訳ですね。
空間が狭くなっていると、速いパッセージでブレスをした時に吸気音がしてしまったり、
肩で息をするような、ブレスの度に肩が動くような力みが生じてくるものですが、
イエヴォリーノにはそういったことがありません。

 

 

 

 

 

 

ロッシーニ チェネレントラ Non piu mesta

例えばディドナートなんかと比較すると、いかにイエヴォリーノが下の響きだけで歌っているかがわかります。

 

 

 

Joyce DiDonato

高音を出す時と、低音でアジリタをする時で声を使い分けているんですが、
ロッシーニメゾはこういう人がバルトリ以来増えていた気がします。
しかし、こういう歌い方だと技巧には特化していますが、声そのものは詰まったような響きになり、
奥行も狭く決して豊な響きとは言えないものになってしまいます。
そうすると、結局ロッシーニのアリアって何を歌っても同じように聴こえてきませんか?
メゾではないけど、フローレスのロッシーニも全部同じに聴こえてしまって、デビュー当時のロッシーニアリア集とか、とりあえず技巧と高音以外頭に残らないのが当時の印象でした。

イエヴォリーノの歌唱は、確かにアジリタの速さや高音やディナーミクには小回りが効かないかもしれませんが、言葉の力は圧倒的で、どちらがドラマを表現できるのか?
と聞かれれば、結局は大抵の場合、音域の広さよりも響きの深さと発音の明確さの方が大事なのではないかと思います。

 

 

 

ロッシーニ 小ミサ Agnus dei

ミサを歌うにはこの歌唱だと難しいと思うのですが、それでも大変上手くまとめていますね。
中音域~高音で伸ばす音が揺れる傾向があったり、高音は時々ズリ上げるような出し方になってはいますが、低音域の声や表現は見事ですね。

やはり問題は高音を軽い響きで歌うことができないことで、若いうちはこのような声のままでも平気ですが、すでに最後の方はかなりいっぱいいっぱいなのを見ると、歳を重ねるとヴィブラートの揺れ幅は徐々に大きくなっていくでしょうから、何歳までこのスタイルで歌い続けることができるのか?
というのは気になるところではあります。

聴く側としては、他にはあまりいないタイプの歌手なので個性としてこの歌唱を貫いて欲しい気持ちはありますが、歌手の寿命ということから考えると、発声をマイナーチェンジしないといけない時期はいずれ来るでしょう。
恐らく40歳になるまでに何かしらの変化があると思いますので、まずは3年・5年でイエヴォリーノの声がどう変わっていくのか注目してみたいと思います。

 

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