チェコが生んだ巨人 期待の若きヘルデンバリトンAdam Plachetka

 

Adam Plachetka(アダム・プラチェトカ)は1985年、チェコ生まれのバス バリトン歌手。

2005年からプラハの劇場で歌い始め、2010年からウィーン国立歌劇場のアンサンブルメンバーとなっており、主にモーツァルト作品、フィガロの結婚はフィガロと伯爵、ドン・ジョヴァンニはジョヴァンニとレポレッロの両方を歌う機会が多いようです。
2019年~2020年にかけてはウィーン国立とメトでこれらを歌う予定のようです。

ですが、私が彼の声を聴く限りモーツァルトよりワーグナーやRシュトラウスを歌うべきヘルデンバリトンの声です。

響きがファルク シュトルックマンにそっくりなので、いずれは絶対この辺りを主戦場にする日がくると思っておりますが、まだ年齢は34歳ということを考えると、バス バリトンとしての声が成熟していくのはむしろこれからですから、プラチェトカの可能性は計り知れません。

 

 

 

 

ヘンデル アルチーナ Pensa a chi geme d’amor piagata

こちらは2010年のもの。
ヘンデルってこんな音楽だったけ?
と思わせる歌唱にはどんな反応をして良いのか私的には困ってしまうのですが、
声そのものは圧倒的で、20代半ばでこんな声のバスバリトンは聴いたことがありません。

響きの高さ、強さ、深さは申し分なく、高音に行くに従ってノビが増してゆく開放された声も見事とし言いようがありません。
ですが、ヘンデルの音楽を歌うのには黒一色で塗りつぶしたような音色と、フレージングのなさは致命的で、特にレガートで歌えていないのはまずい。

プラチェトカがどのような方に声楽の指導を受けたのかはわかりませんが、
声量で押せば喝采がもらえるようなヴェルディやヴェリズモ作品をレパートリーにしていないのは賢明な判断と言えるでしょう。

これだけの声があれば、コンクールでヴェルディのアリアなんかを歌えばまず入賞できると思いますが、ヘンデルやモーツァルトを中心としたロマン派以前の作品と、自国チェコの作品を若い内は積極的に歌っている。
こうして声だけでなくしっかりした技術やフレージングを身に着けていった結果として若くしてこれだけ大きな成功を収めることができているのでしょう。

 

 

 

 

モーツァルト ドン・ジョヴァンニ Là ci darem la mano
ソプラノ Kateřina Kněžíková

やっぱりドン・ジョヴァンニは難しいですね。
プラチェトカの声をしても、甘いピアノの表現を意識的にやろうとすると生っぽく浅い声になってしまっています。

オペラを勉強し始める学生が一番最初にやる重唱の一つがコレなのですが、単純だからこそ難しい。
プラチェトカの声がまだ若く、そしてバスの響きではないことがこういう曲ではっきりするので、レポレッロを歌うにはあまり向かないのではないかと思えます。
更に言えば、ジョヴァンニでも彼のテッシトゥーラからすると少し低そうで、この曲でも高音の方が低音より良いように聴こえます。

とは言っても、低音が別に鳴らない訳ではないので、年齢的な声の成熟と考えるのが妥当かもしれませんおで、
数年後には素晴らしいドン・ジョヴァンニ歌いになる可能性は十分あると思います。

 

 

 

 

モーツァルト フィガロの結婚 Non piu andrai

プラチェトカのフィガロは良いですね~。
スケジュールを見る限り、今一番歌っているのがこの役なだけあって、カッチリした音楽的な処理の中に奔放さがあり、歌い慣れている感じがよくわかります。
改めてこの曲は良い声がないと引き立たないアリアだなと思います。

モーツァルトのバリトン役は、フィガロにしろパパゲーノにしろ、そこまで広い音域を要求されず、声よりはむしろ演技力や表現力が重要なように思われる方がいるかもしれませんが、音域がヴェルディのバリトン役なんかに比べて高くなくて、普通に喋るような音域に近いところでドラマを表現することが求められるので、必然的に低い音がしっかり鳴ることがこれらの役を上手く歌うための条件になってくる訳です。

なのでこのアリアも
「Eくらい楽に出せるぜ!」
みたいな軽い声のバリトンより、
太い響きのままでEを決められるバス歌手、あるいはそのような響きをもったバリトンが歌わないと恰好がつかない。

声楽を学んでいる方なら、モーツァルトのオペラは初学者が取り組むイメージがあって、
一部の技巧的なものを除いて、他のオペラより難しいと思う人はあまりいないかもしれませんが、
誰でも出せる音域だけで圧倒的に上手い歌唱を聴かせる。というのが実は一番難しいのではないかと思います。

プラチェトカはそういう役が当たり役となって世界の一流劇場へ進出している訳ですから、世界的に見ても圧倒的な楽器を持っている歌手であることは間違えありません。

 

 

 

 

シューベルトのオーケストラ伴奏による歌曲

ドイツ物を歌うと私にはシュトルックマンの声にしか聴こえない。
勿論、まだまだシュトルックマンに比べれば響きが抜けきっていないし、
喉を押した声ではありますが、持っている楽器は同等といっても良いレベルだと思います。
この演奏では歌曲なのかアリアなのか正直よくわからない演奏になっていますが、オケ伴奏がそもそも大規模なので、私達に馴染みのあるシューベルトの歌曲とは別物と考えた方が良いかもしれません。

ピアノ伴奏では冬の旅なんかを歌っていて、既にCDになっているようなので、
これからシューベルトの歌曲を中心にリート歌手としても活動していくことでしょう。
プラチェトカの今後の活躍からは目が離せません。

 

 

 

CD

 

 

 

 

 

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