Stimme als Tadellos(非の打ちどころなき歌声)Benjamin Bernheim

Benjamin Bernheim (ベンジャミン ベルンハイム)はフランスのテノール
個人的には、現在活躍しているテノールの中でも最も好きな歌い手の一人です。

Giacomo Aragall(ジャコモ アラガル)
※パヴァロッティより評価が高かった時期もあるテノール
Carlo Bergonzis(カルロ ベルゴンツィ)に師事した経歴があることからも、イタリアでの歌唱様式を叩きこんできただけあって見事なものです。

ここまで楽に、Sul Fiato(息の上で)声を自在に操れるテノール歌手は古今を見ても中々いない。それ程の技術を持っています。

最近の演奏 チャイコフスキー エフゲニーオネーギンからKuda, kuda (青春の日々は遠く過ぎ去り)

このアリアは、ロシア物をレパートリーにしない歌手も歌う曲なので、
ベルンハイムもロシア物が得意と言うより、声に合う曲として選んでいるのでしょう。

とにかく、”i”母音の響きが実に豊ですね。
息の流れは常にレガートなのですが、声はピンホールショットのごとく、
あらゆる音域、どのような発音でも同じ的の中心を射抜き続けなければなりません。
それができるからこそ、「Tadellos」非の打ち所の無いと形容される声なのでしょう!

 

そして、こちらがマスネのウェルテルから「オシアンの唄」を含む重唱からの一場面

 

 

写真は、高音のA(ラ)の”i”母音

 

まるで開口母音のように綺麗な口の形です。
しっかり芯がありながら開いた”i”母音というのはこうでなければなりません。
しかし口の形にこだわり過ぎると、”i”母音の響きを台無しにして”e”に近づき過ぎた結果、発音が曖昧になってしまいます。
ベルンハイムは発音の明瞭さと、母音の明るさ、豊かさ全てを兼ね備えてた歌唱技術を会得しているのです。

 

ベルンハイムとユボの中音域での”i”母音

 

シャルロットを歌ってるÈve-Maud Hubeaux(エヴェ=モー ユボ)と響きが全く違うことがお分かり頂けるだろうか?
上記の写真は全く同じ音域で同じ発音をしているものだが、口のフォームがここまで違うのである。
ユボは完全に響きが落ちているのに対し、ベルンハイムは低い音域でも高音と全く同じポジションで響いている。
頬筋を使って上の歯が見えるように引っ張った結果がこの差である。
ベルンハイムの自然な表情とは全く違う。

そして、フランス歌曲フォーレ Puisque j’ai mis ma lèvre à ta coupe(私はこの唇を当てたのだから)

 

Puisque j’ai mis ma lèvre à ta coupe encore pleine;
Puisque j’ai dans tes mains posé mon front pâli;
Puisque j’ai respiré parfois la douce haleine
De ton âme,parfum dans l’ombre enseveli;

Puisqu’il me fut donné de t’entendre me dire
Les mots où se répand le cœur mystérieux;
Puisque j’ai vu pleurer,puisque j’ai vu sourire
Ta bouche sur ma bouche et tes yeux sur mes yeux;

Puisque j’ai vu briller sur ma tête ravie
Un rayon de ton astre,hélas! voilé toujours;
Puisque j’ai vu tomber dans l’onde de ma vie
Une feuille de rose arrachée à tes jours;

Je puis maintenant dire aux rapides années:
? Passez! passez toujours! je n’ai plus à vieillir!
Allez-vous-en avec vos fleurs toutes fanées;
J’ai dans l’âme une fleur que nul ne peut cueillir!

Votre aile en le heurtant ne fera rien répandre
Du vase où je m’abreuve et que j’ai bien rempli.
Mon âme a plus de feu que vous n’avez de cendre!
Mon cœur a plus d’amour que vous n’avez d’oubli!

私はこの唇をあなたの満たされた杯に当てたから
私はあなたの両手の上にこの青白い額を当てたから
私は時々吸うのだから 甘い吐息を
あなたの魂の吐息 影に包まれているその香りを

私には課せられているのだから あなたのことを聞くことを
神秘の心が紡ぎ出す言葉を
私は涙を見て来たのだから 笑顔を見てきたのだから
あなたの口に私の口を あなたの目に私の目を合わせるのだ

私は輝きを見たのだから 私の幸せな頭の上に
あなたの星の光を ああ!常にベールに包まれている
私は落ちてくるのを見たのだから 私の人生の波の下に
あなたの人生から引き裂かれたバラの花びらを

私は今告げられる 遷ろう年月が
– 過ぎゆくと!常に過行くと!私はもはや老いぬ!
去るがいい あなたの萎れた花たちと共に
私は魂の中に誰も摘むことができない花を持っている!

あなたの翼が打とうとも砕けはしない
私が飲み 満たしているこの器を
わたしの魂にはより多くの炎がある あなたが持つ灰よりも!
私の心にはより多くの愛がある あなたが持つ忘却よりも!

 

変幻自在のディナーミクと一本の線で繋がっているかのようなレガート
本当に見事です。
彼は時代を代表するような名歌手になるべき人だと私は思います。

 

 

 

 

 

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