模範的なカウンターテノールの美を体現する声Iestyn Davies

Iestyn Davies (イエスティン デイヴィス)は1979年英国生まれのカウンターテノール歌手
フィリップ ジャルスキーは多彩で、何を歌っても許される感があるので、どちらかと言えば異端的な歌手だと思っている。

それに比べてデイヴィスは多くの人が思い描くカウンターテノールのイメージに当てはまる声とレパートリーと言って良い。
英国バロック音楽とドイツバロック作品を中心に、本当に純粋な美しさを聴かせてくれるという意味で、
これほど癒される歌声はそうない。
※2017年 グラモフォン アワード バロックヴォーカル部門の受賞

 

バッハ ロ短調ミサ Agnus Dei

どうしても”c”と”t”の発音が、ドイツ語の”k”や”t”のような鋭い発音になるのだけは気になる。
具体的には”peccata”の”ca”と”tollis”の”to”
特に”ca”はラテン語(イタリア語読み)なら絶対この発音は間違え。
とは言え、これだけ軽く歌って歌詞がハッキリ聴こえて、響きも高音~低音まで安定しているし、
何より実に滑らかなレガートでブレスコントロールは見事としか言いようがない。

 

この人の良さが最大限に引き出されるのは、
リュート伴奏で歌ったダウラント(John Dowland)の歌曲だ。
米語ではなく、英国人の歌手が純粋な古典英国作品を歌うと、英語の美しさが際立つ

ダウラント 5つのリュートのための歌曲

リュートの暖かい響きと、無駄なヴィブラートがなく透明度の高いデイヴィスとの声とのバランスは絶妙。
バロックオペラでも、スカラ座やらメトにも進出しているようだが、
個人的にはこういう歌い方が一番合っていると思う。

 

こういうのもやってるけど、普通のポップス歌ってみました。というのとは別次元

クラシックの演奏会でこういう曲をやるのは賛否両論あるところだが、
やるなら変に歌い方を変えずに、こういう正攻法で勝負してくれた方が心地よい。

 

 

 

ヘンデル リナルド Cara sposa

この人の発声技術が如何に優れているか、他の歌手と比べればよくわかるので、
少し比較してみたい。

 

 

ダイヴィット ダニエルズ

低音で響きも一緒に落っこちているのがわかるだろうか?
何とか高い響きを掴もうとはしているが、かなり鼻声に近い部分で、正しいポジションではない。

 

 

 

フランコ ファジョーリ

かなり力んで喉にきている。
なので全くレガートで歌えていない。

 

 

 

アンドレアス ショル

ジャルスキーとデイヴィスが出てくるまでは、この人が最高のカウンターテノールだと思っていた。
低音の鳴りは十分な太さがあり、テノールのパッサージョのミックスボイスとは逆の理屈で、
カウンターテノールの低音を上手く実声と混ぜる技術を持っている。
こういう技を駆使して表現の範囲が実に広く、声の太さも相まって劇的な効果はショルの方がまだまだ上だと思うが、
響きの安定感という意味ではデイヴィスのほうが全然上だ。
ショルは、開口母音でかなり響きが落ちる。
”a”を伸ばしているところはかなり鼻に入っているのも許容範囲内とは言え気になる。

イエスティン デイヴィスの歌っている姿をみたら、無茶苦茶楽々歌っているように見えるが、
それが如何に途方もなく高い技術の上に成り立っているか、他のカウンターテノールと比べればお分かり頂けると思う。

 

 

 

ヘンデル サウル Oh Lord Whose Mercies

最後にヘンデルのオラトリオ サウルから
改めて、どの音域、どの母音でも響きが安定して同じ高さで鳴っていることに注目して聴いてほしい。
これだけ素晴らしい発声技術を持った歌手は過去から見てもそうは沢山いないので、
今後の活動には大いに注目していきたい。

 

 

 

CD

 

こういうのは持っていて損がない
ある意味、クラシック初心者でも聴きやすいCD

 

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