Galina Vishnevskayaの歌唱から見えてくる。頬筋を使っても響きが上がらないという真実

 

Galina Vishnevskaya (ガリーナ ヴィシエフスカヤ)1926年~2012年は旧ソ連のソプラノ歌手。
深みのある音色ながら、決して重過ぎない歌声の持ち主ではあったが、
タイトルにも書いた通り、響きの乗りが喉~頬にかけてで、圧倒的に高さが足りない。
特にフォルテにした時の音質は本当に勿体ないと言わざるを得ない。

その原因の一端と考えられるのが、頬筋を必要以上に上げる行為にあると考えている。

 

 

 

プッチーニ 蝶々夫人 un dì all’azzurro spazio 他

ピアニッシモで歌っている時と、声を張った時で響きが明らかに落ちる。
また、強く歌う前の呼吸の際に大きく肩が上がるなど、明らかに無駄な力みがあることが見て取れるのだが、
歌唱フォームを見ても違いは明らかだ。

 

 

 

低音を弱音で出している時のフォーム

 

 

 

アリアの最後の音Bを出している時

 

この人をサンプルに使った理由は、口の開け方自体は決して悪くない。
否、寧ろ美しいとも言えるレベルなのにも関わらず、
極度に頬筋を使って頬を吊り上げるという変わった歌い方だからである。

大抵こういう歌い方をする歌手は、横に口が開いていくことが多いのだが、
この人は縦のラインは整っているのに、頬を吊り上げる歌い方をするため、
この動作が原因で喉が上がり、逆に響きが喉に落ちてしまうという問題判別ができる。
声そのものの質と、響きの高さを切り離して考えることができるようになる。

 

 

戦前活躍したハイソプラノ歌手を見ると、上の前歯を見せて歌う人は沢山いるが、
彼女達を見ちゃんと見ると、実は頬筋は殆ど使っていないことがわかる

リリー ポンス

 

3:03~見て頂くとよく分かると思うが、
どんなパッセージを歌っても、どんな高音を出しても、頬を吊り上げるようなことはしない。

 

 

 

ポンスがハイEsを出しているところ

ヴィシエフスカヤとは声質がそもそも全く違うので、
比較対象としては適切ではないかもしれないが、
全く正反対の声と歌い方だからこそ、高い響きを保っているポンスと比較することに意味があるとも言える。

「口を縦に開ける」という作業については、日本中のほぼ全ての声楽指導者が用いる言葉だと思うが、
実際にどういう状態が「縦に開いている状態」なのか、
そもそも開けことが目的ではなく、何をした結果縦に開いた状態が作れるのかが重要だ。
力で空間を作ろうとした結果、舌根を下げたり、頬筋を吊り上げたりしてしまうのでは本末転倒である。

野球で考えてみると分かり易いかもしれない。
素人であっても、
上半身だけで投げずに下半身主導で投げる。とか
打つ時に軸足がブレない。肩が開かないようにする。とかの知識はあるが、
それがどういう状態なのかは明確に説明はできない。

不思議と声楽教師の多くが、漠然とと「縦に開ける」という言葉だけを発していることが多いのが現状だ。
もし歌を習っている方で、「もっと口を縦に開けて」と言われたら、
どうしたら良いのか、具体的に説明を求めてみると良い。
それでロクな説明ができなければ、悪いことは言わないので、その先生とはさようならした方が良い。

 

 

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1964 Tchaikovsky Recital

子音の多いロシア語だと、イタリア語とは響きが変わって興味深い。
イタリア語の方が深さのある響きだったのに対して、
子音の影響で発音が前になるロシア語だと鼻に入ったり、時々浅くなったりする。
同じ歌い方をしても、言語によって響き方が変わることは当然だが、
その変化が極端な場合は、言語の特徴と声の特徴を綿密に分析することによって、
悪い癖が出る発音を洗い出すことができる。

思えば受験生~学生時代、レッスンは毎回録音していたのに、
どうやって録音から自分の声を分析するかについてなんて教えてくれる先生は誰一人いなかったな~。
なんてことをふいに考えてしまった・・・。

ヴィシエフスカヤの声とフォームから、「頬筋を使うと響きが明るくなる」
という指導がいかに筋違いな発想かが1人でも歌を勉強している人に伝わり、
そのような全く根拠のない指導に困惑する人の役に立てれば幸いである。

 

 

CD

 

 

 

 

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