私の中のking of high ”C” Salvatore Fisichella

 

Salvatore Fisichella(サルヴァトーレ フィジケッラ)は1943年イタリア生まれのテノール歌手。
オペラの舞台は退いたが、現在もコンサートやマスタークラスなどで積極的に活動しており、
今でも洗練されたノビのある美声を保っている。

 

 

 

1981年(38歳)
ベッリーニ 清教徒 ’A Te O Cara

3:00辺りで出すハイCisが有名なアリアだが、期待通りの高音を聴かせてくれる。
イタリア人歌手らしい暑苦しさのが全くないテノールの声でありながら、
軽さと芯の強さがある。

 

 

 

1983年(40歳)
マスネ ウェルテル Pourquà me reveiller

このアリアはfis moll(嬰ヘ短調)の曲で、最後がE→F→Fisという進行のため、
テノール歌手の癖がよく現れる曲でもある。

 

 

例えばフローレスと比較してみよう

ファン ディエゴ フローレス

二度同じ歌詞があって、1回目はピアノ、2回目はフォルテで歌われるので、
その響きの質を聴き比べることで癖が見えてきたりする。

フィジケッラ:1回目(1:50~)、2回目(2:59~)

フローレス:1回目(1:30~)、2回目(2:45~)

「printemps」の歌詞で、特にフォルテでFisを出す時、
明らかにフローレスは響きの質がピアノで出す時より奥に引っ込み、響きも置いている。
一方フィジケッラは、上手く声をかぶせて開き過ぎることもなく、逆に奥に詰まってしまうこともない。
多くのテノールは、ピアノより、むしろフォルテで出す時こそFisのような音域はフォームが崩れる。
逆に、そういう部分で決められる歌手を聴くと「おぉ~」となる訳である。
ハッキリ言って、最高音のAisなんて大して難しくない、
重要なのは主音でもあるFisを如何に決められるかがこのアリアのカギである。

 

 

 

1987年(44歳)
ロッシーニ ウィリアム・テル O muto asil del pianto

https://www.youtube.com/watch?v=GKjsnrYDrJ8

※リンクが上手く張れないため上記URLよりご覧ください

タイトルの通り、この曲はテノール殺しとして有名なハイC連発曲
本来はカバレッタがもっと長いので結構カットしている演奏ではあるが、
それでも、フィジケッラのハイCは見事という他ない。

 

 

 

1990年(47歳)
レオンカヴァッロ La nuit de mai(抜粋)

30代の頃よりむしろ響きが軽く洗練され、高音の響きに関しては
個人的にはパヴァロッティより上ではないかと思っている。
この曲全体を通して全く響きがブレない。
全ての声が奥歯と頬骨~硬口蓋に掛けて響いており、
決して喉に落ちたり、響きが貧弱になることはない。

リリックテノールの理想形がここにある。と言っても過言ではない。

 

 

 

1993年(50歳)
プッチーニ トスカ recondita armonia

カヴァラドッシはスピントな役柄だから重め、強めの声じゃないと・・・
みたいな思い込みにより、世の多くのテノール(特にアジア人)は残念な方向にいってしまう。

 

一番得意な役がカヴァラドッシと豪語する日本のテノール

樋口達也

(1:39~)完全に横に開きっぱなしでどうにもならなくなっている。
このアリアも、テノールにとって難関のFの音で喋るという要素があり、
特に最後の部分

 

<歌詞>

Ma nel ritrar costei,
Il mio solo pensiero,
Il mio sol pensier sei tu,
Tosca, sei tu!

 

<日本語訳>

しかし、この人を描いているときも
私のただ一つの考えは
あなたが私のただ一つの考えだ
トスカよ、君だ!

 

フィジケッラの演奏(1:55~)
樋口達也の演奏(1:38~)
この部分を柔らかく繋げて歌える歌手と、吠え散らかす歌手で後の高音の出来が分ってしまう。
このアリアは重い声質だろうが、とにかく軽く歌えることが求められる。

 

 

 

 

 

2000年(57歳)
プッチーニ 蝶々夫人 Addio fiorito asil

歳を重ねて声が重くなる所か益々洗練されている。
歌ってる間、殆ど口の形が変わってない。
それでいて発音の明瞭さは失われない。
本当に素晴らしい発声技術である。

 

 

 

2005年(62歳)
グノー AVE MARIA

こんな声を張って歌うアヴェマリアって・・・と思うかもしれないが、
フォルテで歌われても曲の美しさが損なわれないのがフィジケッラの声の凄いところで、
本来こんな歌唱をしたら、全く曲を理解してない演奏と見なされることだろう。
それにしても、60代にして声の艶、響きの輝きが全く失われないとは驚くばかり。

 

 

 

2014年(71歳)
コンサート映像

これが70歳を過ぎた人間の声だとッ!
と驚くことだろう。
今現役バリバリの売れっ子テノールでもこんな高音の美しい人はそういない。
いかにフィジケッラの発声が素晴らしいものか、この声が証明している。
だが残念なことに、こういうテノールが日本では殆ど知られていないのが現状。
ココで初めてフィジケッラを知ったという方で、歌を実際にやってるのであれば、
マスタークラスの映像もあるので是非参考にしてほしい。

 

 

 

70歳の時のマスタークラス
曲は ラ・ボエーム Che gelida manina

 

因みに本人がこの曲を歌ってる映像

このアリアで、フィジケッラ以上に洗練されたハイCは聴いたことがない。
60年代のパヴァロッティより私はこっちを取る。
現在でもこの声を維持されているということで、
これからは、彼に習った弟子達が広く世界で活躍していくことになるかもしれない。

 

 

 

CD

 

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