英国ロイヤル・オペラ 2019年「ファウスト」
<日程>
9月12日(木)18:30 東京文化会館
9月15日(日)15:00 東京文化会館
9月18日(水)15:00 東京文化会館
9月22日(日)15:00 神奈川県民ホール
<メインキャスト>
指揮 アントニオ・パッパーノ
ファウスト ヴィットリオ・グリゴーロ
メフィストフェレス イルデブランド・ダルカンジェロ
マルグリート レイチェル・ウィリス=ソレンセン
公演の詳細はコチラを参照
<料金>
S:¥59,000
A :¥52,000
B:¥45,000
C:¥37,000
D:¥30,000
E:¥23,000
F:¥16,000
もう一つの公演「オテッロ」は少なくとも現代最高レベルでのオテッロ歌い
クンデが歌うということで、以前同役で来日した時も好評だったことから、
特に前もって記事を書くつもりはないが、このファウストはどう考えてもキャストが酷い!
特に主役の2人、グリゴーロとソレンセンに6万近くを払うなんて正気の沙汰とは思えない。
ということを以下その理由を書いていくので、
お2人のファンの方は読まれないことを推奨します。
◆マルグリート役
RACHEL WILLIS- SORENSEN(レイチェル ウィルス=ソレンセン)
1984年米国生まれ、20代半ばでメトロポリタン歌劇場オーディションの1位を取り、
現在、30代半ばですでに一流歌劇場で歌いまくっているソプラノ
モーツァルト作品を中心に、Rシュトラウス、ワーグナーも歌っているようだが、
フランスオペラはそんなに歌っている形跡がなく、ファウストのマルグリート役に至っては歌ったことがあるのだろうか?
少なくともYOUTUBEで探した限りフランス物を歌っている映像はない。
では、実際の声を聴いてみようと思うが、
まず、昨年のドン・ジョヴァンニのアンナ役
正に昨日の記事に通じるが、完全に米語発音の悪い癖が全て歌に出ている。
兎に角全部発音が奥で詰まった声だ。
因みに、私は歌詞を見ながらでも何を言ってるのか追えなかった(爆)
<歌詞(アリアの部分2:30~)>
Non mi dir, bell’idol mio,
Che son io crudel con te.
Tu ben sai quant’io t’amai,
Tu conosci la mia fe’.
Calma, calma il tuo tormento,
Se di duol non vuoi ch’io mora.
Forse un giorno il cielo ancora
Sentirà pietà di me.
<日本語>
私に言わないでください 私の美しいあこがれの人よ
私があなたに残酷だなんて
私がどれほどあなたを愛しているかは あなたはよく知っているでしょう
あなたは私の誠実さを知っています
鎮めてください あなたの苦悩を鎮めてください
もし 悲しみが原因で私が死ぬのを あなたが望まないなら
おそらく 天は いつか再び
私を憐れんでくれるでしょう
どの発音がというより全て奥に入っているし、響きも落ちている
更に低音はもう一段響きが落ちるという散々な状況。
確かに声は持っているが、この歌い方で一体何歳まで歌えるのだろうか?
本来はこういうアリアである。
カルメラ レミージョ
全ての発音の明瞭さと響きの高さ、ディナーミクに於いては再現部での響きだけで歌う最大限の緊張感を持ったピアニッシモ、
そして最後のコーダで聴かせる完全にコントロールされたアジリタ、
一流歌手は当然これらが全てできて然るべきだが、
ウィルス=ソレンセンの演奏にはレミージョに備わった全ての長所が欠落している。
とりあえず声量だけは上かもしれないが、
広いホールの後ろまでピアニッシモも低音も聴こえるのはレミージョの方だということは間違えない。
さてこの歌手のマルグリートが何万も払って聴くに値するのだろうか?
結局はそういう問題になる。
はっきり言って、浜田理恵が歌った方が何倍も上手いことは間違えない。
高音は比較的抜ける感じはあるが、問題は中低音
高音の響きと明らかに質の違う声になっている。
こちらも他の演奏と比較してみると良くわかる。
シルヴィア サシュ
一番分かり易いのは
ウィルス=ソレンセン(2:48~)
サシュ(2:25~)
「Adonis! Adonis」を繰り返す最後の部分
ウィルス=ソレンセンの演奏は「Ado」と「nis」が分離している。
最初の高い音域で両方の発音をする時はまだ良いが、
徐々に跳躍が広くなるにつれ響きの乖離は大きくなり、最後は完全に分離して一つの単語に聴こえない。
それに対して、サシュは「nis」が低音になっても高い音の響きのままで歌っているので、
どんなに跳躍が広くなっても音質がかわらず、言葉も分離しない。
ドイツ語のように子音が多く、言葉が前に出やすい言語ですらこれであるから、
ウィルス=ソレンセンがフランス語のように比較的奥の響きが多い言語で歌ったら、
この演奏より更に詰まった声になることは必至であろう。
そうのような観点から見てもこのキャストは間違っていると言わざるを得ない。
◆ファウスト役
Vittorio Grigòlo(ヴィットリオ グリゴーロ)
グリゴーロは1977年イタリア生まれのテノール。
頻繁に日本に来ており、大々的に売り出されている歌手でもあるためご存じの方も多いと思うが、
パヴァロッティの後継者という表現をされることがよくあり、
パヴァロッティ本人と親交があったこと、
最晩年に直接指導を受けていたことで、正に直系の弟子と言える。
そんなグリゴーロであるが、実際の演奏がそれ程のものかは正直疑問である。
(Che gelida manina 24:25~)
2012年の演奏ということは、35歳くらいの時だが、
ロドルフォ役をパヴァロッティに指導して貰ったと言っているが、
全然楽譜通りに歌っていないし、声も揺れているし、そもそも美声でもない。
なぜこの人がそこまで注目されているのか個人的には全く理解不能である。
新国にも度々出演しているピルグの方が4歳若い上に全然上手い
サイミール ピルグ
まず、グリゴールは本来もっと声が軽いので、そもそもヴェリズモを20代・30代前半で歌って良い声ではない。
ピルグの演奏は因みに2016年なので、ちょうどグリゴーロの演奏と同じ位の年齢の時である。
それを考えると、ピルグの強いが軽やかな響きに対して、
グリゴーロがいかに重く歌っているかがわかるのではないだろうか?
ただ不思議なことにグリゴーロはフランス語だと響きが弱冠良くなる。
マスネ マノン Je suis seul…Ah! fuyez, image douce
このレベルの演奏なら、確かに今回ファウスト役を生で聴く価値はありそうだが、
これはあくまで2014年のスタジオ録音
重要なのは現在どんな声になっているかである。
この演奏は2018年のメトでのものだがやっぱり響きが上がらない。
どこが悪いというのを明確にするのは難しいのだが、恐らくやや鼻寄りの響きで、
少し喉にも負荷が掛かっている声な気がしてならない。
表現的にも真っすぐ喋れていない(レガートができてない)し、とにかく声に重りを付けたような感じで、
全盛期を過ぎたロベルト アラーニャのように無駄に声が重い、
ロベルト アラーニャ
しかし、アラーニャはまだ響きが上がっているので、ピアノにしても素晴らしいコントロールを見せているが、
グリゴーロは完全にピアニッシモは抜いている。
なので、メゾピアノやピアノがなく、ピアニッシモしかできないし、全く前に飛ばない。
この二人を比べても、全然アラーニャの方が優れていたことは間違えない。
今はステロイド付けで酷い声になってしまっているが、レパートリーさへ踏み外さなければ、
もっと声を保てていただろうに・・・。
話をグリゴーロに戻すが、
既にトスカまで手を出し、
コンサートではトゥーランドットなんて歌っているのでもう後戻りはできないだろう。
一体この人はパヴァロッティに何を教わったのか?
Nessun dormaを演奏会で歌うと金になる。
とか吹き込まれたのではないかと疑いたくなる位、持ち声に対してレパートリーの選択を誤っている。
なお、現在でイタリア人テノールらしい響きを持った歌手と言えばフィリアノーティである。
ジュゼッペ フィリアノーティ
こっちが正しい響き、
本来トスカを歌おうが、オテッロを歌おうが、重い響きになってはいけない。
持っている声が重くても響きは常に軽くなければならない。
ということをよく書いているのは、正にグリゴーロとフィリアノーティの違いのことである。
因みにフィリアノーティは能天気に歌っているように見えてかなり賢い。
レパートリーも考えているし、イタリア人にしてはドイツ語の発音も良い。
良い声のテノールが絶対歌わなそうなドビュッシーのオペラにもチャレンジするなど、
若くして成功してちやほやされてるグリゴーロとは大違いである。
◆メフィスト
Ildebrando Darcangelo(イルデブランド ダルカンジェロ)
日本語のWikiがあったので経歴はそちらを参照
比較的若手の主役二人に対して、ダルカンジェロは今一番脂が乗っているバスで
この役をやるには適任
明るく強い声で響きの高さも申し分ない。
今回の公演で一番良い歌手は間違えなくこの人である。
とは言っても、マルグリートとファウストをメフィストが圧倒するというのは、
なんともドラマ的には正しいのかもしれないが、オペラとして聴く分にはガッカリ感はぬぐえないだろう。
そんな訳で、今回のロイヤル・オペラ来日公演のファウストは、
大枚をはたいてまで聴きに行く価値はないと断言する。
何と言っても、ダルカンジェロ以外、そもそも得意な役でも何でもない訳だし、
ウィルス=ソレンセンに至ってはフランス物がどの程度歌えるかも未知数。
ロイヤル・オペラというネームバリューがあれば日本人は5万位出すとでも思われているようで本当に腹が立つ。
聴衆は、劇場のネームバリューに踊らされず、しっかり歌手の実力を見極めてから演奏会に足を運ぶよう注意が必要である。
[…] 英国ロイヤル・オペラ 2019年来日公演「ファウスト」のキャストは酷い […]