過去に韓国人テノールについて記事にしたが、
開催されたばかりのソウル国際声楽コンコールの演奏がYOUTUBEにアップさらたので、
セミファイナルの模様を聴きながら、今世界中で活躍している韓国人歌手の楽器について考えてみたい。
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Yonghoon Lee(ヨンフン・リー)にみる韓国人テノールの特徴
Seoul International Music Competition (評論)
1. Batjargal Bayarsaikhan (Mongolia)
/ Accompanist : Namuun Enkhbayar
• Du Nam Cho : Baetnorae(Boat Song)
• G. Fauré : Après un rêve
• U. Giordano : Come un bel di di maggio [Andrea Chénier]
• W. A. Mozart : Dies Bildnis ist bezaubernd schön [Die Zauberflöte]
2. Chanhee Cho (Korea) / Accompanist : Sung Hee Noh
• Du Nam Cho : Baetnorae(Boat Song)
• F. P. Schubert : Wer sich der Einsamkeit ergibt
• G. F. Händel : Sorge infausta una procella [Orlando]
• G. Bizet : Quand la flamme de l’amour [La Jolie Fille de Perth]
3. Hyunmin Kim (Korea) / Accompanist : Sa Rang Rhee
• W. A. Mozart : O Isis und Osiris [Die Zauberflöte]
• F. P. Schubert : Gruppe aus dem Tartarus
• Du Nam Cho : Sanchon(Mountain Villiage)
• G. Bizet : Quand la flamme de l’amour [La Jolie Fille de Perth]
4. Hyeongyu Lee (Korea) / Accompanist : Ji Won Lee
• M. Rabel : Chanson romanesque
• Yeon Jun Kim : Cheongsane Sallira (To Live in the Green Mountains)
• W. A. Mozart : Hai già vinta la causa [Le Nozze di Figaro]
• G. Verdi : È sogno, o realtà? [Falstaff]
全部の曲について言及すると大変なので、一人1曲づつコメントを入れていく形でいこうと思う。
❶ Batjargal Bayarsaikhan
Giordano : Come un bel di di maggio [Andrea Chénier] (1:02~)
モーツァルトを歌う声かどうかは別にして、ドイツ語の時はまだ声が真っすぐ飛んでいたのだが、
イタリア語になると、ただでさへ重い歌い方が更に重量を増して、
多くの音で音程が低く聴こえるヴィブラートが掛かっている。
高音の声からも分かるように、ひたすら圧力で締め出す歌い方で、
コレッリの物まねをして失敗している感じにしか聴こえない。
それでも、持っている楽器が良いだけでそれなりに聴こえるところが凄いところでもあり、
怖いところでもある。
何歳までこの歌い方ができるのだろうか?
❷Chanhee Cho
G. F. Händel : Sorge infausta una procella [Orlando](23:10~)
韓国人に多い強い声だが、バリトンと言うよりバスバリトンか?必要以上に力むことなく、
メリスマも安定している。
跳躍する音や高音も勢いで出すことなく、余裕があり、
”i”母音が多少奥に入るところはあるにせよ、決して詰まった声にはならず、
非常にレベルの高い演奏をしている。
発音に対してのアプローチやフレージングを考えて演奏できていない点が、
やや一本調子の演奏に聴こえてしまった。
➌Hyunmin Kim
G. Bizet : Quand la flamme de l’amour [La Jolie Fille de Perth](43:50~)
二番目に歌った人と同じ曲なので、比較して頂ければわかるが、
彰かにこの人の方がが響きが硬く、アタックは強いが、全くレガートで歌えず、言葉が繋がらないのがわかる。
この響きの違いは決定的で、広いホールの後ろで聴けば違いは如実に現れると思うが、
こういう舞台の前で撮った映像では中々違いが分かり難いかもしれない。
❹Hyeongyu Lee (54:50~)
W. A. Mozart : Hai già vinta la causa [Le Nozze di Figaro]
ピアノの表現が明らかに支えの抜けた猫なで声で、このディナーミクの付け方は声楽的によろしくない。
また、言葉のアクセント=強く歌う。というちょっと残念な感じのアプローチなのは非常に気になる。
ただ声は安定していて、意外と難しい最高音のFisもしっかり出てるので、
その分余計に表現がちょっと稚拙過ぎるのが耳につく。
5. Sungjun Cho (Korea) / Accompanist : Su Jin Jeong
• Du Nam Cho : Baetnorae(Boat Song)
• P. I. Tchaikovsky : Нет, только тот, кто знал (None but the lonely heart)
• W. A. Mozart : Non piu andrai [Le Nozze di Figaro]
• G. Verdi : Come dal ciel precipita [Macbeth]
6. Konstantin Lee (Korea) / Accompanist : Su Jin Choi
• W. A. Mozart : Dies Bildnis ist bezaubernd schön [Die Zauberflöte]
• R. Strauss : Befreit
• G. Puccini : Che gelida manina [La Bohème]
• Du Nam Cho : Baetnorae(Boat Song)
7. Hyeyoung Moon (Korea) / Accompanist : Hyoung Jin Park
• Isang Yun : Gopunguisang(Traditional Attire)
• E. Dell’Acqua : Villanelle
• W. A. Mozart : Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen [Die Zauberflöte]
• L. Delibes : Où va la jeune Hindoue [Lakmé]
8. Minseong Jeong (Korea) / Accompanist : Su Ho Park
• Yeon Jun Kim : Cheongsane Sallira (To Live in the Green Mountains)
• P. I. Tchaikovsky : Net, tol’ko tot, kto znal
• W. A. Mozart : Rivolgete a lui lo sguardo [Così Fan Tutte]
• U. Giordano : Nemico della patria [Andrea Chénier]
❺ Sungjun Cho
W. A. Mozart : Non piu andrai [Le Nozze di Figaro(6:50~)
声は良いのだがディナーミクが全くない演奏。
てか、伴奏が無茶苦茶上手い。
こんな素晴らしい伴奏でなぜ全く言葉の表現がつけられないのか理解できないのだが、
本当に韓国は声だけが良い歌手ばかりがゴロゴロいる。
この曲ではないが、マクベスのアリアなんかを聴けば、いかにこの人が音楽をフレーズではなく、
各音符ごとに点で歌っているかがよくわかる。
❻Konstantin Lee
G. Puccini : Che gelida manina [La Bohème] (25:40~)
典型的な韓国人テノールといった感じ
日本人だと、ただの鼻声テノールになってしまうが、韓国人は異常に喉が強くて、
全部パワーで押しきれてしまう。
よくこんな歌い方でRシュトラウスの「Befreit」なんて歌えたもんだ。
こういう演奏を、素晴らしい声のテノールだ!
と絶賛してはいけない。
出だしの「Che gelida manina」というAsの音で喋る部分なんて酷いの一言。
ハイCを出すところなんかも、明らかに圧力で押し切っている。
こういうのこそテノール馬鹿の典型で、
魔笛のタミーノと、ラ・ボエームのロドルフォのように、
言語も時代も全く違う双方のアリアを全く同じような歌い方で歌ってしまう・・・。
こういう歌を芸術と呼べるのか考えて欲しいものだ。
❼Hyeyoung Moon
L. Delibes : Où va la jeune Hindoue [Lakmé](43:43~)
ここまで来て初の女声
これだけ見ても、韓国は男声>女声かがわかる。
典型的な超絶技巧作品を集めたプログラムだが、
実に不思議な声だ。
なぜこんな喉声で超高音が出せるのだろう・・・。
ボーカロイドを真似して歌うとこんな感じになりそうだが、
実際にこんな歌い方普通できない。
とりあえず出てるという以外何者でもなく、最後は喉が完全に消耗して声帯が耐え切れなくなっている。
そして、最後に歌った夜の女王は完全に崩壊した。
何の罰ゲームでこんな選曲をしたのか、この歌手の教師はよっぽど生徒の喉を壊したいらしい。
❽Minseong Jeong
U. Giordano : Nemico della patria [Andrea Chénier](1:10:20~)
こちらもまた➌の歌手と似たような歌い方で、全くレガートがなく
ひたすら重戦車のように突き進むのみ。
どんな言語でも、音程、発音関係なく同じような声を出さなければいけない、
なんとも共産主義的な雰囲気を醸し出す歌唱である。
もう一度言う。
このような歌唱が芸術と言えるのか?
9. Hayoung Ra (Korea) / Accompanist : Hye Rim Park
• W. A. Mozart : Giunse alfin… deh, vieni non tardar [Le Nozze di Figaro]
• Ihl Nam Chang : Bimok (Wooden Cross at an Unknown Soldier’s Grave)
• C. Weber : Kommt ein schlanker Bursch gegangen [Der Freischütz]
• S. Rachmaninov : Не пой, красавица, при мне (Ne poy, krasavitsa, pri mne)
10. Maari Ernits (Estonia) / Accompanist : Hyoung Jin Park
• J. Sibelius : Var det en dröm? Op.37 No.4
• Dong Jin Kim : Sin Arirang(New Arirang)
• G. Meyerbeer : Robert, toi que j’aime [Robert le Diable]
• W. A. Mozart : Porgi amor [Le Nozze di Figaro]
11. Samueol Park (Korea) / Accompanist : Hyoung Jin Park
• Ihl Nam Chang : Gidarineun Maeum(A Longing Heart)
• H. Duparc : Le manoir de Rosemonde
• W. A. Mozart : Hai già vinta la causa [Le Nozze di Figaro]
• U. Giordano : Nemico della patria [Andrea Chénier]
12. Aleksandra Jovanović (Serbia) / Accompanist : Hyoung Jin Park
• Dong Jin Kim : Sin Arirang(New Arirang)
• B. Britten : Be kind and courteous [A Midsummer Night’s Dream]
• W. A. Mozart : O zittre nicht mein lieber Sohn [Die Zauberflöte]
• L. Arditi : Il Bacio
❾ Hayoung Ra
W. A. Mozart : Giunse alfin… deh, vieni non tardar [Le Nozze di Figaro] (1:00~)
基本的な母音、特に”e”母音が完全に横に開いてしまっていて素人くさい声になっている。
何度か記事に書いている通り、スーブレットソプラノは低めの音域で表現できないと、
テッシトゥーラが低いので曲として全然完成度を上げることができない。
浅い響きで、これまで聴いてきた男声陣より全然下手なように聴こえるかもしれないが、
響きの高さという面だけはこの人の方が殆どの歌手より高く、全て力技で解決している歌手とは違って、
まだ改良の余地があるだけ将来性はある。
❿Maari Ernits
G. Meyerbeer : Robert, toi que j’aime [Robert le Diable] (24:50~)
韓国人以外が初めて出てきたが、やはり響きが全く違う。
だが、残念ながら上手いわけではない。
確かに響きの深さはあるが発音も奥のため、言葉が前に出ず、一々声が揺れている。
表現としてヴィブラートは必要だが、真っすぐ声が出せないというのは致命的な欠点になる。
更に、高音と低音で明らかに音質が全く別物になっている。
ここまで線を引いたように響きが分離してしまう人も珍しいが、
これも結局のところ不自然に力んだ発声が原因である。
⓫Samueol Park
Duparc : Le manoir de Rosemonde
この人は、他の多くの歌手より言葉がしっかり繋がって聴こえる。
響きがちゃんと抜けている訳ではないが、圧力で押し出すような歌い方ではないだけまだフレージングがある。
フィガロのアリアはちょっと微妙な感じだが、フランス語がこの人の歌唱には合っているのかもしれない。
他の曲に比べても、このデュパルクの演奏だけはかなり良い。
具体的に問題点を挙げるとすれば、”a”母音。
時々完全に開けっ広げなノーコンの”a”が聴こえるので、そこを何とかしないといけない。
後は響きの深さだが、歳を重ねて付いてくる部分もあるので、そこは難しいところ。
⓬Aleksandra Jovanović
L. Arditi : Il Bacio(1:04:03)
高音は抜けるが低音は全く鳴らず、何を言ってるか全くわからない。
日本人に多いタイプのソプラノ。
この人もチリメンヴィブラートが気になる。
❼の歌手程ではないが、この人もまだまだしっかりした響きにはなっておらず、
かなり喉声の要素がある。
それにしても、全部曖昧母音で歌ってるかの如く、ここまで何も言葉が出ない歌手も珍しい。
因みにちゃんと歌うとこういう曲になる
ミリアム ガウチ
いかがだろうか?
私には全く違う曲に聴こえる。
この通り、
韓国人の歌手も発声はかなり酷い状態なのだが、
同時に、声の良さだけを比較すれば、残念ながら日本人は絶対勝てない。
だからこそ、大声大会は韓国人に任せて、
日本人歌手はもっと違う道、
楽器に恵まれていないことを受け入れ、
声で勝負するのではなくもっと感受性に訴える歌唱芸術の本質を追求していかなければならない。
その為には、聴衆がデカイ声に喝采を送る風習をどうにかして改善することが至上命題なのである。
どんなに鍛錬をした歌手も、その価値が評価されなければ舞台には立てない。
1. Batjargal Bayarsaikhan (Mongolia/Tenor)
• G. Donizetti : Ah! Mes amis [La Fille du Régiment]
2. Chanhee Cho (Korea/Bass)
• G. Verdi : Che mai veggio… Infelice! e tuo credevi [Ernani]
3. Hyeongyu Lee (Korea/Baritone)
• G. Verdi : Alzati… Eri tu [Un Ballo in Maschera]
4. Sungjun Cho (Korea/Bass)
• S. Rachmaninov : Каватина Алеко(Aleko’s Cavatina) [Aleko]
5. Konstantin Lee (Korea/Tenor)
• G. Verdi : Lunge da lei..De miei bollenti spiriti…O mio rimorso! [La Traviata]
6. Hayoung Ra (Korea/Soprano)
• G. Puccini : Signore, Ascolta [Turandot]
7. Aleksandra Jovanović (Serbia/Soprano)
• J. Offenbach : Les oiseaux dans la charmille [Les Contes d’Hoffmann]
私は2番目に歌っているChanhee Choが他の歌手とは明らかに歌い方が違うと感じたのだが、
皆様はいかがでしょう?
度々のお願いではありますが、感想などがあればコチラへお願いします。
追記。
色々コンクールを聴いていたら、なんと北朝鮮の声楽コンクールを発見
https://www.youtube.com/watch?v=LXcrUmVgv6A
予想通り独特な歌い方の歌手が多いが、最初のバスは中々良い声だし、アンナ・ボレーナのアリアを歌っているソプラノは歌もかなり上手い。表現が実に洗練されていて、声だけでゴリ押すする傾向の強い韓国とは違う。北の声楽レベルもあなどれない。