新旧歌唱比較シリーズVol.2
今回はメゾソプラノ編です。
メゾソプラノにとってカルメンは特別な役で、
上演回数も多く、古今問わず流行り廃りがないため、
この役を得意とした歌手は常にいました。
そういう意味でも歴代のカルメンを比較すれば、
新旧の名歌手の声、歌唱様式を比較する企画にはうってつけです。
フランス語で歌われるのが常ですが、フランス人歌手でこの役を得意としている人はあまりおらず、
カルメンを当たり役にしている歌手の国際色は非常に豊かなことも特徴と言えるでしょう。
Conchita Supervía(コンチータ スペルヴィア)1895年~1936年 スペイン
Cloë Elmo (クローエ エルモ)1910年~1962 イタリア
Risë Stevens(リーゼ sティーヴンス)1913年~2013年 米国
Belén Amparán(ベレン アンパラン)1927年~2002年 米国
この人はオペラ歌手というより女優として有名なようで、
コレッリと共演した映像があるためにカルメン役を歌った映像だけが有名になっている。
そのため、他の歌手と比較できるような歌手ではない。
Irina Arkhipova (イリーナ アルヒポヴァ)1925年~2010年 ロシア
Habanera(ロシア語歌唱)
Fiorenza Cossotto(フィオレンツァ コッソット)1935年~ イタリア
(Habanera イタリア語歌唱)
Elena Obraztsova(エレーナ オブラスツォヴァ)1939年~2015年 ロシア
1970年の演奏なので、この声が大体30歳の時
ある程度お歳を召されてからの声のイメージが強いが、若い時から独特の力強い低音を持っていたことがわかる。
こんなカルメンは普通の声でやったら破綻する。
改めてオブラスツォヴァの声が特別だったことを実感させられる。
Agnes Baltsa (アグネス バルツァ)1944年~ ギリシャ
ここまでが戦前生まれの歌手を紹介してきた。
聴いてわかるのは、歌唱スタイルが全員違い、
カルメンという役に固定化された歌唱様式がそもそも存在しないのではないかとさへ思えてくる。
自由度の高さはそのまま歌手の感性に、あるいは持った声に委ねられ、
結果として聴衆に受けたカルメン像を構築できた歌手が、
当たり役として歴史に名前を残していると言えるかもしれない。
逆説的に言えば、歌手が持っている声の限界を常に要求してくる役がカルメンであり、
だからこそメゾソプラノに限らず、ソプラノ歌手までも惹きつけるのかもしれない。
Maria Ewing(マリア ユーイング)1950年~ 米国
Béatrice Uria-Monzon(ベアトリス ウリア=モンゾン )1963年~ フランス
やっとフランス人のカルメン歌いの登場です。
しかし・・・一番有利なはずの言葉での表現ができておらず、
他の歌手に比べて表現に秀でたことは全くなく、逆に声で押した歌い方をしているので、
フランス人であることが全くプラスになっていない。
Denyce Graves(デニス グレイヴス)1964年~ 米国
Nadia Krasteva(ナディア クラステヴァ) ブルガリア
昨年来日したことで記憶している方もいるかもしれないが、
現在最高のカルメン歌いと言われているのがこの人。
ブルガリアの歌手、特に女声は独特な歌い方をする人が特に多い。
Stephanie d’Oustrac(ステファニー ドストラク)1974年~ フランス
個人的な意見を言えば、最近で一番好きなカルメンはこの人
戦前生まれの歌手達のようなスケール感はないが、演出効果も手伝って、
過去のイメージと決別し、全く新しいカルメン像を作り出した歌手ではないかと思う。
こういう演奏には好き嫌いが分かれるが、
過去の栄光を拗らせて劣化版を引きずる位ならこれ位やった方が面白い。
最近は本当にフランスから素晴らしい歌手が続々と出てくる。
現在の声楽大国はイタリアでも米国でもなく、フランスではなかろうか?
ソプラノでカルメンも得意とした歌手
Victoria de los Ángeles (ヴィクトリア デ ロス アンヘレス)1923年~2005年 スペイン
太い低音がなくても、歌い回しで色気のある演奏が可能であることがこの人の演奏を聴けばわかるはずだ。
こういう演奏を参考にすれば、日本人でも良いカルメンを演じることは絶対可能だと思うのだが、
残念ながら、往年の大歌手のような声を真似て歌おうとする人が後を絶たない。
最後に日本人
伊原直子 1945年~
こうして見てみると、
そもそもカルメンに合う声とは、ドラマティックなのかリリックなのか?
といった単純な声質の問題とはちょっと違うところにあるように見える。
多くの歌手が様々なアプローチでこの役を歌っており、
胸声の使い方、低音の太さ、歌い回し、あらゆる面で様式感が存在しないかのようで、
演出的な部分も含めて様々なアプローチが可能なのがカルメンという作品が特別である理由だろう。
今後も様々な演奏が出てくるだろうが、
固定観念を持たずに、歌手の声を最大限に生かした演奏解釈をしているのか?
という部分を特に注目して聴いてみると、もっと楽しめるかもしれない。
少なくともここで取り上げた歌手を聴いた限りでは、
戦前生まれの歌手の方が、その辺りは自由奔放にやれていたように聴こえるが、
この辺りは、オペラを作り上げる上での、歌手、指揮者、演出家の力関係が、
時代によって異なっていることとも無関係ではないだろう。
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[…] 新旧歌唱比較シリーズVol.2【メゾソプラノ(カルメン歌い)編】 […]