声だけに頼らない知的ヴェルディバリトンAmbrogio Maestri

Ambrogio Maestri(アンブロージョ マエストリ)は1970年、イタリア生まれのバリトン歌手。
見た目はかなりご年配に見えるが、まだ50手前で、ヴェルディバリトンとしては一番良い時期かもしれない。
ファルスタッフ歌いとして特に定評があり、声も素晴らしいのだが、声だけに頼らない性格的表現の上手さも売りである。
ただ、個人的には高音をズリ上げることが多いのだけがちょっと気になる。

 

 

 

ヴェルディ ファルスタッフ L’onore I

現代にもこんなに素晴らしいヴェルディバリトンがいるのです!
まるで戦前の歌手のような奔放さでありながら、発声技術の確かさ、表現の品の良さ、響きの明るさ
どこを取っても現在の歌手ではトップクラスだろう。
同じくファルスタッフのバリトン2人による二重唱を聴けば違いがよく分かる。

 

 

 

 

Signore v’assista il cielo  ファルスタッフとフォードの二重唱
バリトン Carlos Álvarez

カルロス アルヴァレスも現代を代表するヴェルディバリトンだが、
やや作った感じの重い響きのアルヴァレスに比べて、
マエストリは解放されて柔軟性を備えた明るい響きなのがわかるだろうか?
バリトン2人の二重唱だと逆に違いが分かり難い。
という意見もあると思うので、アリアでもそれぞれ比較してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

ヴェルディ オテッロ Credo

Carlos Alvarez(2:24~)

 

 

 

Ambrogio Maestri

この演奏ならば差が歴然。
喉付近が鳴っているようなアルヴァレスに比べて、
マエストリは低音でも高音でももっと高いポジションと広い空間を使って、
多くの部分はかなり軽い響きで歌っているのが分かる。
持っている声そのものはバスに近い太い声なのだが、それでも決して奥まった暗くて発音が不明瞭になる響きにはならない。
そうなると当然言葉もしっかり飛ぶし、言葉が飛べば表現も自然とついてくる。
現代に於いてはヴェルディバリトンの鏡みたいな歌唱をする人だと個人的には思っているのだが、いかがだろうか?

 

 

 

 

ジョルダーニ アンドレア・シェニエ Nemico della patria

持っている声は重量級だと思うのだが、奥に籠ることがなく発音が実に明確。
母音の種類に関係なく、常に広い空間を保って歌える骨格は完全に持って生まれたものだと思うが、
それにしても、常にこれだけ口を開けててよく明確に発音できるものだと感心する。

 

 

 

 

ドニゼッティ 愛の妙薬 Udite o rustici L’elesir d’amore

本来バスが歌うドゥルカマーラのアリアだが、この人が歌うと全く違和感がない。
ファルスタッフ歌いだけあって、セリアよりもブッファの方が彼の声や歌唱スタイルには合っているのかもしれない。
実際、上のシェニエのアリアを歌っている時より。愛の妙薬を歌っている時の方が意図的に響きを前に持ってきている。
元から持っている声がバスに近い太い声なので、
これくらい前に響きのポイントを持ってきた方が逆にちょうど良いように聴こえる。
Nemico della patriaを歌っているポジションだと、高音でやや詰まった感じになってまっているのもそう考える理由である。

 

 

 

 

プッチーニ トスカ(全曲)
ソプラノ Barbara Frittoli
テノール  Riccardo Massi

フリットーリがトスカに合っているかは別問題としても、間違えなく現代屈指のイタリア人歌手が揃った公演と言える。
テノールのマッシも少々癖のあるヴィブラートが気になるが、それでも決して悪い歌手ではない。
むしろ現代のイタリア人テノールではかなり上手い方だと思う。
昔は当たり前だったオールイタリア人キャストによる質の高いイタリアオペラが、
現在では大変珍しいものになってしまっている。
それでもまだマエストリのような歌手がいるのを聴けると大変嬉しく思う。

 

ただ前述の通り、セリアよりブッファの方がマエストリの良さが出ると思うので、
個人的には、ドン・パスクワーレのマラテスタや、ジャンニ・スキッキ辺りを聴いてみたい。
これから50歳を迎えるにあたり、より一層円熟した演奏が期待できそうだ。

 

 

 

CD

 

 

 

 

 

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