Hayley Westenra の日本語歌唱から考える歌う時の日本語発音

 

Hayley Westenra (ヘイリー ウェステンラ)は1987年ニュージーランド生まれのクラシック クロスオーバー歌手。
純粋なクラシック歌手ではありませんので、普通ならここで取り上げることはしないのですが、この人は日本語で日本の歌謡曲を歌っている録音や映像があって、それがカタカナ読みではなく、かなり自然で、少なくとも意味をわかって歌ってることは伝わってくる。

日本歌曲が苦手な日本人歌手が沢山いることを考えると、この人の歌唱は結構参考になるのではないか?と思って取り上げてみることにしました。

 

 

 

Flower will Bloom (花は咲く)

この人の凄いところは、響きが全部均等なところと脱力感。
人によってはただキレイな声なだけという批判もあるだろうし、
その点については概ね同意するところではありますが、
この類の歌手、例えば有名どころではサラ・ブライトマンとは全然違う。
ここでは比較しませんが、声を聴き比べてみれば、響きの高ささが全く違うことに気付くでしょう。

では本題のヘイリーの日本語について
良いと思う点と日本語らしく聴こえない点を挙げてみよう。

 

 

<良い点>

◆言葉の強弱アクセントが完璧

例えば、「あめ」と書いた場合、「飴」と「雨」の違いを区別するのは長短アクセントの言語を母国語とする人には相当難しいと聞きます。
はっきり言って歌の場合は、音形に寄っては日本人でもちゃんと区別して歌える人は少ないと思いますが、
ヘイリーはその辺りを自然にできている。
ただローマ字表記を棒読みしてたらこうはなりませんから、かなり勉強されたのではないかと推測されます。

 

◆子音の強調がない

ポップスは勿論のこと、声楽を勉強した人は、
日本語をローマ字にばらして考えることは一般的で、
例えば「花」という言葉を強調したければ、語頭の”h”を出します。
宇多田なんてしょっちゅうやってますね。
後は”s”や”k”をちょっと強調して出すことで言葉を前に出したり、表現手段として用いることがあるのですが、
外国の方は意図せずに無駄に硬い子音が入ることがあります。
今回の場合では日本語がわかってないと当然的確に言葉を強調することができませんので、多くの場合特定の子音が強くなってしまう癖はマイナス要素です、しかしそういうのがヘイリーには一切ありません。
個人的な意見としては、表現のために「あの人」の”h”
「悲しみ」の”k”なんかは多少出した方が言葉に重さが出るとは思いますが、それはまた別のお話ですね。

 

◆”う”が日本人が歌うより日本語らしい

まず、芸大を出ていて日本歌曲を得意としている方の演奏と比較してみてください。

 

 

西川友子

どこを比べて欲しいかと言えば、サビの
「花は咲く」の歌詞の語尾”く”です。
声楽を少しでもカジったことのある方は、イタリア語やラテン語、
ドイツ語やフランス語でもそうですが、日本語の”う”より”u”は深い。
と習います。
つまり同時に日本語の”う”は平べったい響きだと逆説的に教えられる訳ですね。
しかしそういう問題じゃない。根本的に全く違う発音だと教えなければ誤解を生むと最近は感じるようになりました。
ヘでは、イリーと、ゆうこ氏の違いは何でしょうか?

 

”う”の発音の口のフォーム比較

 

ゆうこ氏

 

 

ヘイリー

”U”母音は唇を少し突き出して発音しますが、日本語の”う”はどうでしょうか。
我々は日常生活でそのように唇を使って喋るでしょうか?
はい、これが答えです。
日本語の”う”を発音する時は絶対唇が脱力していないと、
硬くなったり、”え”と”う”の間みたいな響きになったり、
逆に不自然に重い”o”に近い響きになってしまいます。
何年か前にバルバラ フリットーリが日本でリサイタルをやって、
中田喜直の、さくら横ちょうを歌っていたのだけど、
やっぱり”う”だけがイタリア語の響きだったんですね。
なので、日本人の大半も、世界的名歌手も日本語の”う”の理想的な響きは中々出せないのが実情ですが、ヘイリーの響きは本当に美しいです。
彼女の「花は咲く」のフレーズだけでも聴く価値のある演奏だと思います。

 

 

ここまでは良い点を挙げてきましたが、
いくら良い部分が沢山あっても、やっぱりどこか外国人が歌ってるな。
というのがわかってしまう歌なのですね。
では今度はどこに問題があるのか挙げていきましょう。

 

 

<日本語らしく聴こえない点>

◆”し”の発音

違和感のない部分もあるのですが、
例えば1分のところの「わたしは なつかしい」の”し”
ここの子音が”しぃ”。発音記号で言うと「s」ではなく「ʃ」になってる。
これが直るだけで全然違うのではないかなと思います。

 

◆その他の駒かい部分

鼻濁音ができていない。
コレは説明不要でしょう。全て”が”がそうですね。

「なつかしい」の”つ”の発音
”つ”にどの程度の母音の色をつけるかが日本語歌唱のセンスだと思うのですが、
日常会話では、”つ”とは明確に発音せず「ts(tʃ)」という子音ですよね。
土地によっては、語尾の「です」「ます」を”s”ではなく「す」でしっかり発音することもありますけど、この辺りは何が正解というのがありません。
ただ、べったり「なつかしい」と発音してしまうと、言葉の意味としては色合いが異なってしまいます。

 

 

 


 

 

ねむの木の子守歌(6:19)

 

<歌詞>

ねんねの ねむの木 眠りの木
そっとゆすった その枝に
遠い昔の 夜(よ)の調べ
ねんねの ねむの木 子守歌

薄紅(うすくれない)の 花の咲く
ねむの木蔭(こかげ)で ふと聞いた
小さなささやき ねむの声
ねんね ねんねと 歌ってた

故里(ふるさと)の夜(よ)の ねむの木は
今日も歌って いるでしょか
あの日の夜(よる)の ささやきを
ねむの木 ねんねの木 子守歌

 

英語が母国語の人ですけど、この人の歌声は英語より日本語の方が栄えると思うの私だけでしょうか?

とは言っても、こちらは冒頭で紹介した曲に比べて発音に癖が目立っていますね。
しかし、どこに違和感を覚えるかを考えることで、大事なことが発見できるわけで、外国人の歌う日本語の曲って聞いてて結構勉強になります。
例えば、促音の扱い方。

 

「そっとゆすった」こういう部分に日本語の繊細さがあるのですが、
その辺りを表現するのは簡単ではありません。
ってことは、私達がイタリア語やドイツ語を歌っているのは、
ネイティヴからはこういう違和感を持って受け止められていると考えるのが自然でしょう。
それにしても、ねむの木の子守歌とは選曲が渋いですね。

 

今回は普段とは趣向を変えて発声には一切触れずに記事を書くことにしました。
純粋なクラシックの歌手ではないので、そもそもここで取り上げることも本来はないタイプの歌手ではありますが、日本語を歌う時の発音について考えるきっかけとしては面白いと思ったので、今回はこのような記事を書いてみました。

 

コメントする