今年行われたニューヨークのオペラフェスティバルと国際声楽コンクールを聴き比べたところ
オペラフェスティバルより国際声楽コンクールの方が歌手のレベルが高いという、かなり衝撃的な状況を目撃しました。
比較は以下になります。
◆音楽祭
The New York Opera Festival World Premiere
詳細は↓のHPで確認できます。
◆国際声楽コンクール
Vocal Competition 2019 at Opera at Florham
詳細は↓のHPで確認できます。
https://www.operaatflorham.org/vocal-competition
HPを見てもわかるように、こちらのコンクールの目的は、
大抵のコンクールのソレと同じように、若手歌手のキャリアアップと演奏機会の提供などです。
よって、いくらファイナリストと言っても、プロの歌手としてキャリアを築いている人達ではありません。
一方オペラフェスティバルの出演者は
「 an all-star team of local composers, writers and performers 」
なのです。
この演奏を聴いたら、ローカルは作曲家より歌手につけた方が良いのではないかと思ってしまいます。
sそれでも演奏曲目は一風変わっていて、
一番最後は全員で、モーツァルトの様々なオペラの重唱のパッチワークに英語の歌詞をつけて演奏していて、これは中々面白い・・でも綺麗にハモれてなくてやっぱり上手いとは思えないんですけどね。
ということで、
ここでは、コンクールの上位入選者を主に取り上げてみましょう。
<入選>
Ian Matthew Castro (テノール)
ドニゼッティ 愛の妙薬 Una Furtiva Lagrima
持ち声は悪くありませんが、発声技術がかなり酷いです。
言ってしまえばアペルトなので、全く声をコントロールできていません。
これだけ速いテンポで、ピアノの表現も全くできないのに選ぶ曲ではないと思うのですが、もっと縦に響きが揃ってくると化ける可能性はあると思います。
器楽では中々20歳を過ぎて急激に上手くなることは難しいですが、
歌の場合は30過ぎても成長できるのが面白いところでもあり、同時に耳を鍛えるのが難しい部分でもありますね。
<入選>
JangHo Lee(テノール)
フォーレ Poème d’un jour
素直で発音にも癖がない良いテノールだと思います。
軽めの声の割には少々ハスキーに歌い過ぎている部分があり、
もっと細くて鋭い響きになれば、レガートもできるようになるでしょうし、低音でも響きがバリトンっぽくならずに済むでしょう。
後は高音がどの程度出るかよくわかりませんが、
ちょっとズリ上げる癖があるように見えるのが気になるところ、
フォーレならもっとファルセットに近い響きの方が合う気がしますが、その辺りの技術があるのかどうかもこの映像だけでは判断できないところですね。
何にしても、音色の使い分けと言えば良いのか、言葉に対する表現手段はまだまだな感は否めませんね。
<入選>
Joshua Conyers(バリトン)
マスネ エロディアード Vision Fugitive
典型的な大声で吠えるだけのバリトンですね。
体格に任せて楽器を目一杯鳴らすだけで、良い声が出てしまう歌手なのでしょうが、この歌い方ではコレが限界です。
この表現以外にできることはないでしょう。
これが所謂声で歌った場合の演奏、
では、響きで歌ったらどうなるか
Mattia Battistini (イタリア語歌唱)
この方は1856年生まれで、正真正銘のベルカントがどんなものだったかの貴重な証拠となる演奏だと思います。
しかも録音状況も良いです。
軽い息で響かせる歌唱と、筋力で目一杯声を張り上げる歌唱
この違いを多くの聴衆が聴き分けられるようになった時、絶対日本の声楽のレベルは上がっていると確信しています。
<入選>
Shaina Martinez
プッチーニ トゥーランドット amore segreto
前で紹介したバリトン歌手同様、典型的な米国歌手といった感じです。
全部響きが落ちているので全く言葉が飛びません。
何言っているか全然わからない。
この歌唱を聴いて、
オペラの内容を知らない人が、嘆いているのか怒っているのか、誰かを責めているのか・・・といったことを想像できるでしょうか?
<入選>
Laure-Catherine Beyers(メゾソプラノ)
マスネ サンデリオン Enfin, je suis ici
この人は中々素晴らしいです。
難しいアリアですが、跳躍でも響きの質が崩れることなく揃っており、
口のフォームを見ても縦の響きが維持できているのがわかります。
恐らくもっと楽に鳴らせるポジションがあるとは思いますが、
それは少々鼻寄りに響きが集まっているからそう感じるのでしょう。
フランス語というのも大きいかと思い、他の言語での歌唱も聴いてみると・・・。
ブラームス Unbewegte laue Luft
やはり少々鼻に入っていました。
”i”母音はまだ良いところに当たっていますが、
低音で響きが落ちる傾向があるのと、特に高音での”a”母音はかなり鼻に入ってしまっていて勿体ないです。
それでも、端正にリートを謳える音楽性と発声技術があることは確かですね。
この人は今後が楽しみです。
<3位>
Jongwon Han (バスバリトン)
モーツァルト ドン・ジョヴァンニ Madamina, il catalogo e questo
良い声で、発声技術もあると思うのですが、
ブッファバスのアリアを真面目に歌われても面白くないですね。
もっと他の選曲はなかったのだろうか?
何を歌っても同じように型にはまった良い声を出されては何が楽しくて歌っているのだろう?と私なんかは思ってしまうのですが、いかがでしょうか?
まだそれでも、ソウルの大学を出たばっかりでこれだけの声を持っているというのだから驚かされる。
マジで韓国人って凄い声の人多すぎや!
これから彼の音楽性が深まっていくことを願いたいところです。
<2位>
Joshua Sanders (テノール)
ドニゼッティ 連隊の娘 Ah! Mes amis
こういう「勢いだけで高音出せば良いんでしょ!」みたいな演奏は好きになれません。
とは言え、FやG辺りの音の安定感は見事で、
中低音の歌い方がテキトーでも重要な音域はきっちりハメてくるのは立派です。
それでも、ハイCを出した後で下りる時に必ずポルタメントが掛かるのは、多分そうしないと歌えないからでしょう。
ポルタメントが掛かるだけならまだしも、
{C・ハイC・ハイC・A・F・E・C・B・G・C・A}の音型で
AとFの音程がハマってないのも気になります。
表現と言っても、乱暴に歌って音程なくなるのダメでしょ。
この曲しか歌っている映像がなかったので、他の曲をどう歌うのか聴いてみたいものです。
<1位>
Alexandra Razskazoff(ソプラノ)
チャイコフスキー イオランタ Iolanta’s Arioso
かなり癖の強い声ですが、何分マイナーなアリアにつき、
参考までにもう一曲聴いてみましょう
ヘンデル メサイア I Know that My Redeemer
めちゃくちゃ響きが硬いですね。
全然喉の奥や口内の響きが使えておらず、
日本人声楽指導者や合唱指導者が大好き鼻腔共鳴に磨きをかけるとこうなるのではないかと思います。
高音と低音で全く別人みたいな声を出していますし、
コレが1位というのは様々な裏事情を疑いたくなりますね。
何にしても、コンクールとはこういうもので、上手い人が必ずしも勝つ訳ではないということですね。
色々辛口なことも書きましたが、
音楽祭とコンクールの歌手を比べて、
男声なんかは特にコンクールの歌手の方が優秀に聴こえたのではないかと思います。
そして、やっぱり気になるのは米国人歌手の大声至上主義的な歌唱。
政治だけでなく、音楽でも米国追従はいけませんな。
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