大注目の古楽を得意とする若手ソプラノEmőke Baráth

Emőke Baráth (エメーケ バラート)はハンガリーのソプラノ歌手。
2011年にインスブルック古楽国際声楽コンクールで優勝後、ヨーロッパを中心に特にイタリア古楽作品をレパートリーの中心として活躍しているようです。

 

 

 

International Singing Competition for Baroque Opera 2011 Final

 

(39:25~)
バラートが2011年にインスブルック古楽国際声楽コンクールで優勝した時の演奏です。

確かに上手いのですが、この地点ではそこまで飛び抜けた演奏をしているという印象はありません。
声そのものも、k類ソプラノであるはずなのに、ややハスキーな感じになっており、何といってもかなり鼻声です。
ただし歌い回しには清潔感があり、リズム感のキレの良さをみても技術的な面や言葉に対する感覚はこの頃から優れたものがあったことは確かでしょう。

 

 

モーツァルト ハ長調ミサ Laudamus te

こちらは2016年の演奏
5年で声はまるで別人です。
太くややハスキーだった響きはシャープに洗練され、
鼻声のようになってしまっていたのも改善されました。
最初の演奏とこちらの演奏でどう変わったのかを分析すると、
結局のところ、重い声、太い響きをいかに焦点の絞れた、細くて高密度な声にしていけるかに尽きるのではないかと思います。

 

 

 

ヘンデル スザンナ Guilt trembling spoke my doom

そしてこれが2018年
2011年の時はまだまだ響きのポジションが上がっておらず発声的な課題が多かった。
2016年、無駄な部分をそぎ落としてスリムな声になったものの、
まだまだ響きの焦点は奥まっていて、音色が暗めの印象をぬぐえなかった。
そして2018年、全ての響きが上唇に乗っているかのような軽さがありながら、全ての言葉が前で響いています。
低音であっても響きの焦点が霞むことなく、音の粒揃っていながら、旋律の流れはしっかり息の流れが見えている。
実に見事な演奏だと思います。
この成長の過程を見ただけで、声量と歌の上手い下手は無関係であることがわかるのではないでしょうか。
因みに、このヘンデルのスザンナという作品はオペラではなくオラトリオです。

 

 

 

ヴィヴァルディ ジュスティーノ (アリアンナ役のシェーナ)

00:00 Act I: Scene 3. Da’ tuoi begl’occhi impara (Arianna)
02:56 Act I: Scene 8. Sole degl’ occhi miei (Arianna)
05:19 Act I: Scene 15. Mio dolce amato sposo (Arianna)
10:35 Act II: Scene 3. Numi, che il ciel reggete con destra onnipotente (Arianna, Giustino)
12:54 Act II: Scene 5. Per noi soave e bella (Arianna)
16:36 Act II: Scene 8. Dir così non poss’io fin che non torni il mio sposo (Arianna)
17:46 Act II: Scene 8. Augelletti garruletti (Arianna)
19:28 Act II: Scene 12. Giorno per me più chiaro (Arianna)
20:05 Act II: Scene 12. Dalle gioie del core amor pendea (Arianna)
22:05 Act III: Scene 2. Mal soffre il core amante (Arianna)
22:56 Act III: Scene 2. Quell’ amoroso ardor (Arianna)
27:39 Act III: Scene 10. In braccio a te la calma (Arianna, Anastasio)

こちらの録音は2018年4月8日~16日に行われたとのことですが、
英語で歌う時より、イタリア語の方が奥めに深い声で歌っているのが印象的です。
バッハの演奏はやや物足りないさを感じたのでここでは紹介しないことにしたのですが、流石にイタリアバロックを得意とするだけあってヴィヴァルディは魅力的な演奏です。
それにしても、あくまで私の感覚ではありますが、バラートは勿論高音も透明感があって美しいのですが、中低音にこそ特徴があるような気がします。
決して太くはありませんが、真っすぐによどみなく、それでいて十分に深さがあってやや陰のある響きは、何とも形容し難い艶やかさがあります。

 

 

このように、デビューしてから着実に成長を続けるバラートは、間違えなくこれから更なる活躍をする歌手であり、最も注目すべきソプラノ歌手の一人であると断言できます。
バロック作品を得意としていた歌手が、古典派、ロマン派作品に進出して成功するという事例がこのところ増えていますから、バラートが今後どのようなレパートリーを歌うのかも含めて、楽しみに見守りたいと思います。

 

 

CD

 

 

 

こちらがデビューアルバム
タイトルが「私は歌いたい」というのも、なんかとても彼女の歌を象徴しているようでとても好感がもてます。

 

 

 

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