誠実でありながら奔放な表現を聴かせる優れた音楽性を持ったソプラノFelicitas Fuchs

 

Felicitas Fuchs(フィリシタス フクス(フックス))はドイツのソプラノ歌手。

オペラではリリコレッジェーロ~リリコの役をこなし、
コンサート歌手としても宗教曲、リート、現代作品まで幅広く活躍している歌手です。

有名所では、フィッシャー=ディースカウにも師事したことがあるということで、
2006年にはリートコンペティションでも優勝している実力者なのですが、
実力の割には知名度がそこまで上がっていない印象を受けますので、
若手とまでは言えないかもしれませんが、今回紹介しようと思います。

 

 

 

Jシュトラウス こうもり Klänge der Heimat

こちらは2010年演奏。
低音~高音まで巧みに表現できる技術を持ち、持っている声そのものはかなりメタリックではありますが、
それでも非人間的にはならず、それどころか非常に表情豊かで自由奔放な表現を聴かせてくれます。
こういうのが音楽性とか個性と言うのだと思います。
リート歌唱は理詰めで堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、結局重要なのは想像力(創造力)で、
それはオペラでも同じことだと思うのですが、どうしても大きな劇場で歌うことを想定すると第一に声を求めてしまう傾向が強くなるのは仕方ないことかもしれません。

 

 

 

 

ドニゼッティ 愛の妙薬 Bell’Adina
バスバリトン Daniel Kotlinski

この人の歌唱で個人的に一番素晴らしいと思うのは唇の使い方です。
パッセージや表現に合わせて言葉のさばくポジションを微調整し、
決して浅い響きにはならずに軽快で柔軟な歌い回しを実現しています。

声そのものは決してアディーナが合うとは言えませんが、それでもこういう役を上手く歌うことはできる。
ブッファ役は声よりも言葉をどう扱うかの方が重要であることが、フクスの演奏からもわかります。
ここでも奔放な表現で決して声を前面に押し出しては歌いませんが、フクスならではの役作りが聴けて面白い。

 

 

 

 

ドヴォルザーク ルサルカ Song to the Moon

役柄と表現が適切かどうかは難しいところですが、声は合っているのではないかと思います。
ただ、こういう曲を歌うと、少し響きの不安定さも見られます。

例えば、4:35~なんかは、”a”母音と”e”母音をフォルテで出すと響きが落ちたり、
浅くなったりする傾向があることから、ピアノとフォルテで微妙に響きのポジションがブレる。

その原因は、低音で喋り声に近い声での歌唱が目立つことや、
顔前面の響きが強い傾向から、咽頭や口腔がまだ狭いか、少々押しているか、
まだ発声的な部分で改善の余地はあるのかなと思います。
ただ、他の演奏を聴いていると、もしかしたらチェコ語があまり合っていない。という可能性もあるかもしれません。

イタリア語、ドイツ語、フランス語、英語の歌唱と比較しても、この演奏が一番癖が前面に出ている気がするのは私だけでしょうか・・・。

 

 

 

 

グノー ファウスト Air des bijoux

こちらは2018年の演奏。
多少声がハスキーになって、ところどころ響きが乗りきっていない部分もあるのですが、
それでも生き生きした表現は健在でりながら、なぜこういう音楽で書かれているのかが自然に入ってきます。
表現力といっても曲を自分色に染めてしまう演奏と、その音楽を引き立たせる表現があると思うのですが、
フクスは後者ではないかと思います。

「この曲って、こんな曲だったのか~!」
みたいな気づきを与えてくれる演奏ができるタイプの演奏者は、歌手に限らず音楽家として尊敬できます。

 

 

 

 

ヴェルディ リゴレット Giovanna, ho dei rimorsi Addio, addio
テノール Ioan Hotea

上の宝石の歌と同じ時の演奏ですが、ジルダは全く違う歌い方をしています。
ジルダもマルグリートも無垢な女性ですが、
「addio addio speranza ed anima」の部分のジルダって性格変わるよな~、てかコレが本性かな。
なんて思えてくる豹変ぶりが面白い。
フクスの演奏と比較すれば、若手で世界的に注目されているガリフリーナの演奏なんて平面的で面白くない

 

 

 

Aida Garifullina

ただただ良い声で歌うだけのガリフリーナと、
音楽とテキストの整合性がとれていながらも、その中で自由奔放な表現を聴かせるフクスでは全く比較になりません。
私個人てとしてはガリフリーナよりフクスの方が断然優れた歌手だと思うんですが世間的にはそういう評価ではないんですよね~。

 

 

 

 

プッチーニ ラ・ボエーム O soave fanculla

こちらも同じ演奏会からで、テノールも上と同じIoan Hoteaです。
ジルダとミミは本来要求される声が違いますから、
ジルダを歌うならボエームではムゼッタを歌うのが普通だと思うのですが、

フクスはジルダとミミを見事に歌い分けています。
しかも、役ごとに声を作っていると言うより、役の呼吸を見事に掴んで言葉の歌い回しが実に計算されています。

 

 

 

オペラ以上にフクスはコンサート歌手として優れていて、Andrew Schulzというオーストラリアの作曲家の作品はCDにもなっています。
一部音源がYOUTUBEにもありました。

何語を歌っても響きを均一に保ち、自分の曲として表現できるフクスは音楽家として本当に優れていると思います。

大きな劇場で主役を歌いまくっているような歌手ではありませんが、こういう歌手がもっと日本でも評価されたら良いなと思います。

 

そういえば、
このサイトも立ち上げてから1年が経過しました。

最初はこんな中身で果たして見に来る人が身内以外にいるのか心配でしたが、
気付けば毎月1万PVは行くようになりました。
毎回お越しくださっている方、コメントを下さった方、本当にありがとうございます。
そして、これからも、頑固なまでに声楽に絞って記事を書いていきますので、よろしくお願いいたします。

 

 

 

 

CD

 

 

 

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