第62回 NHKニューイヤーオペラコンサート (評論)

2019年1月9日
第62回 NHKニューイヤーオペラコンサート

出演

[ソプラノ]

伊藤晴/大村博美/砂川涼子/森麻季/安井陽子

 

[メゾ・ソプラノ]

林美智子/藤村実穂子

 

[テノール]

笛田博昭/福井敬/村上敏明

 

[バリトン]

青山貴/大西宇宙/大沼徹/黒田博

 

[バス]

妻屋秀和

 

[合唱]

新国立劇場合唱団/二期会合唱団/びわ湖ホール声楽アンサンブル/藤原歌劇団合唱部

[管弦楽]

東京フィルハーモニー交響楽団

 

[指揮]

沼尻竜典

 

[コーナー出演]

IL DEVU(イル・デーヴ)

望月哲也(テノール)/大槻孝志(テノール)/青山貴(バリトン)/山下浩司(バスバリトン)/河原忠之(ピアノ)

 

[司会]

高橋克典/高橋美鈴アナウンサー

予定曲目 喜歌劇「こうもり」から「夜会は招く」(ヨハン・シュトラウス作曲)
合唱:新国立劇場合唱団、二期会合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部
歌劇「リゴレット」から 女心の歌「風の中の羽のように」(ヴェルディ作曲)
村上敏明(テノール)
歌劇「魔笛」から「復しゅうの心は地獄のように胸に燃え」(モーツァルト作曲)
安井陽子(ソプラノ)
歌劇「セビリアの理髪師」から「陰口はそよ風のように」(ロッシーニ作曲)
妻屋秀和(バス)
歌劇「トスカ」から「テ・デウム」(プッチーニ作曲)
青山貴(バリトン)
合唱:新国立劇場合唱団、二期会合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部
楽劇「ワルキューレ」から「ワルキューレの騎行」(ワーグナー作曲)
歌劇「ドン・ジョヴァンニ」から「お手をどうぞ」(モーツァルト作曲)
伊藤晴(ソプラノ)/黒田博(バリトン)
歌劇「フィガロの結婚」から「ひどいやつだ」(モーツァルト作曲)
伊藤晴(ソプラノ)/黒田博(バリトン)
歌劇「真珠採り」から「神殿の奥深く」(ビゼー作曲)
村上敏明(テノール)/大西宇宙(バリトン)
歌劇「エフゲーニ・オネーギン」から 農民の合唱と踊り「取り入れは終わった」(チャイコフスキー作曲)
合唱:新国立劇場合唱団、二期会合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部
歌劇「アイーダ」から「エジプトとイシスの神に栄光あれ」~第2幕フィナーレ(ヴェルディ作曲)
大村博美(ソプラノ)/林美智子(メゾ・ソプラノ)/村上敏明(テノール)/大西宇宙(バリトン)/妻屋秀和(バス)
合唱:新国立劇場合唱団、二期会合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部


IL DEVU イル・デーヴ
望月哲也(テノール) 大槻孝志(テノール) 青山貴(バリトン) 山下浩司(バスバリトン) 河原忠之(ピアノ)
「ロマンチストの豚」・・ やなせたかし 作詞  木下牧子 作曲
「いのちの歌」・・・・・ Miyabi 作詞  村松崇継 作曲
「マイ・ウェイ」・・・・ ティボー 作詞  片桐和子 日本語歌詞  ルヴォー&フランソワ 作曲


歌劇「カルメン」から ハバネラ「恋は野の鳥」(ビゼー作曲)
林美智子(メゾ・ソプラノ)
合唱:新国立劇場合唱団、二期会合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部
歌劇「カルメン」から 闘牛士の歌「諸君の乾杯を喜んで受けよう」(ビゼー作曲)
大沼徹(バリトン)
合唱:新国立劇場合唱団、二期会合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部
歌劇「ボエーム」から「冷たい手を」(プッチーニ作曲)
砂川涼子(ソプラノ)/笛田博昭(テノール)
歌劇「ボエーム」から「私の名はミミ」(プッチーニ作曲)
砂川涼子(ソプラノ)/笛田博昭(テノール)
歌劇「ボエーム」から「愛らしい乙女よ」(プッチーニ作曲)
砂川涼子(ソプラノ)/笛田博昭(テノール)
歌劇「リナルド」から「涙の流れるままに」(ヘンデル作曲)
森麻季(ソプラノ)
歌劇「蝶々夫人」から「ある晴れた日に」(プッチーニ作曲)
大村博美(ソプラノ)
歌劇「トゥーランドット」から「誰も寝てはならぬ」(プッチーニ作曲)
福井敬(テノール)
女声合唱:新国立劇場合唱団、二期会合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部
歌劇「サムソンとデリラ」から「あなたの声に心は開く」(サン・サーンス作曲)
藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)
喜歌劇「こうもり」から「ぶどう酒の燃える流れに」(ヨハン・シュトラウス作曲)
ソリスト全員
合唱:新国立劇場合唱団、二期会合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部

※やむを得ぬ事情により出演者、曲目に変更が生じる場合がございます。あらかじめご了承ください。

 

【歌手別総評】

◆女心の歌「風の中の羽のように」(ヴェルディ作曲)
村上敏明(テノール)

出だしでいきなり声がひっかかる。
もっと軽く歌えたはずなのに、道化師やらトゥーランドットやらの本来の声に合わない曲ばかり歌っていたため、
全くレガートで歌えず、なんとか絞り出したと言った感じ。
この曲はずっとフォルテで歌う曲だったか?
まったく「風」とか「羽」とかいう歌詞とは真逆の歌いかで、
「戦場の鉄砲玉のように一直線に狙った相手を射抜くぞ!」
みたいな歌詞が歌われてるんじゃないか?と錯覚する。

 

 

◆「魔笛」から「復しゅうの心は地獄のように胸に燃え」(モーツァルト作曲)
安井陽子(ソプラノ)

歌詞を出しにくい曲だが、しっかり出ていた。
ただその音を出すだけでなく、曲の表現とし捉えていた。
ただ、中間部「Alle Baaaaa」 はレガートにして曲の変化があればなおよかったかのだが。

 

 

◆歌劇「セビリアの理髪師」から「陰口はそよ風のように」(ロッシーニ作曲)
妻屋秀和(バス)

こういう曲は良い声も大事だが、
ブッファ役として、もっとロッシーニクレッシェンドを生かした表現が欲しいところ。
陰口がどんどん広がってあっという間に世間に知れ渡る様をしっかり出してくれればよかったが、
とは言っても、日本人でこれだけバスのアリアをしっかり歌える人はそういない。

 

「トスカ」から「テ・デウム」(プッチーニ作曲)
青山貴(バリトン)

この曲は、ヘルデンバリトンが歌ってこそ栄える曲。
一本調子にバリトンがデカい声だしてれば良い訳ではない。
とりあえず、奥に声がぜんぶ籠っていて全くレガートで歌えていない。
もっと前のポイントに当たらないと何言ってるか全然わからない。

 

 

◆歌劇「ドン・ジョヴァンニ」から「お手をどうぞ」(モーツァルト作曲)
歌劇「ドン・ジョヴァンニ」から「お手をどうぞ」(モーツァルト作曲)
伊藤晴(ソプラノ)/黒田博(バリトン)

黒田
一体なぜそんなに重く歌う?
女性を誘うのに、そんな重く作ったデカい声でくどくのか?
「Mano」の”no”が変なところに入る。
「Andiam」のEの音で声が割れる。本当にバリトンか?

伊藤
伸ばす音が一々揺れるのはどうにかならないのか?
お陰で全くハモらないぞ
Non son piu forte「もう 抗えないわ」
と3回も繰り返して歌ってるのに棒歌い、この人は歌詞分かって歌ってるのか?
と思う位何の表現もない。

総じて全くレガートで歌えないのはなぜだ。
特に黒田はDより高い音が全部詰まって変な声だ。
学生でももっと上手い人はいる。

 

◆「真珠採り」から「神殿の奥深く」(ビゼー作曲)
村上敏明(テノール)/大西宇宙(バリトン)

村上
よくこの歌い方で高音がハマるなと不思議に思うのだが、
リゴレットよりはこちらの方が断然良い。
ただ、フランス語だからとナザールが鼻声になるのはよくない。
本当に高音の鳴りは素晴らしいのだが、どうしても不自然な感じがしてしまう。

 

大西
米国のコンクールだかを取って世界で通用する日本人バリトンとして注目されている逸材
黒田を聴いた後だと余計に上手く聴こえる。
あまりバリトンは目立たない曲ということもあって、粗らしい粗はみあたらなかった。
ただ、この人はイタリア語のものを歌ってる時はもっと高いポジションで鳴っていたイメージがある。得意のセビリャの理髪師のアリアをやって欲しかった。

 

 

◆IL DEVU イル・デーヴ
望月哲也(テノール) 大槻孝志(テノール) 青山貴(バリトン) 山下浩司(バスバリトン) 河原忠之(ピアノ)
「ロマンチストの豚」・・ やなせたかし 作詞  木下牧子 作曲
「いのちの歌」・・・・・ Miyabi 作詞  村松崇継 作曲
「マイ・ウェイ」・・・・ ティボー 作詞  片桐和子 日本語歌詞  ルヴォー&フランソワ 作曲

木下の作品は合唱界では超有名曲で、合唱祭とかいくと絶対歌う団体がいる曲。
てか、この曲をおお真面目に歌うとは何事じゃ。
もっと声で演技しろよ!
アマチュア合唱団でももっと楽しく歌えるぞ。

望月は相変わらずの鼻声で、他のメンバーの声とは全く方向性が違って浮いているのがとても気になる。

 

 

◆歌劇「カルメン」から ハバネラ「恋は野の鳥」(ビゼー作曲)
林美智子(メゾ・ソプラノ)

思っていたより良かった。
と言うのは、言葉に対してしっかり自分の表現をもっていたように見えたからか。
ただ、声は低音が響かない、だからと言って高音がハマるかと言えばそうでもない。
それでもただ吠え散らかすだけの歌から比べれば全然よかった。

 

 

◆歌劇「カルメン」から 闘牛士の歌「諸君の乾杯を喜んで受けよう」(ビゼー作曲)
大沼徹(バリトン)

男声の中で一番良かったかもしれない。
部分的に外れたところはあったが、絶叫にもならず、
変な抜いた声を出すわけでもなく、真っすぐに声が出ていた。
この曲のFは日本人じゃなくても中々ハマりにくいので、
これだけ歌えれば全然素晴らしい。

 

 

◆歌劇「ボエーム」から「冷たい手を」(プッチーニ作曲)
「私の名はミミ」
「愛らしい乙女よ」
砂川涼子(ソプラノ)/笛田博昭(テノール)

笛田
本来はトゥーランドットをやるべきだったのだろうが、
ちょっとロドルフォは声に対して曲が軽過ぎた印象を受けた。
アリアのハイCがハマらなかったのもそうだが、全体的にちょっと重かった。
特に冒頭の「Che gelida manina Se la lasci riscaldar」や
最後の「Or che mi conoscete,parlate voi, deh! Parlate.Chi siete? Vi piaccia dir!」
みたいな、同じ音で喋る部分が流れないと、この役柄が詩人だけに厳しい。

砂川
とうとうここまで声が消耗したか。
五線の上の方の音はことごとく絶叫で、全く声をコントロールできていない。
レガートはおろか、ミミのアリアを歌ってまったくピアノの表現ができないとは致命的だ。

 

 

◆歌劇「リナルド」から「涙の流れるままに」(ヘンデル作曲)
森麻季(ソプラノ)

あの声で中音域はNHKホールの後ろまで聴こえたのだろうか?
伸ばす音や高音がことごとく揺れるし、選曲も含めて色々疑問符がつく。

 

 

◆歌劇「蝶々夫人」から「ある晴れた日に」(プッチーニ作曲)
大村博美(ソプラノ)

この曲の出だし、Gesの音の”u”がこの曲が上手くいくかどうかの生命線だと思うのだが、
ちょっと太過ぎたか。
あとは、役の年齢的にももう少し明るめの響きでレガートが欲しい。
低音域では、以前は平べったくなっていたのが、とても注意して歌っているのが見えた。
そして最高音のBは完璧と言って良い所にハマっていたと思う。
Bの響きでGesが出せると格段に質が上がるだろう。

 

 

◆歌劇「トゥーランドット」から「誰も寝てはならぬ」(プッチーニ作曲)
福井敬(テノール)

お疲れ様でした。
ステロイドの力は偉大なり。
あんだけフォームも何もあったもんじゃない状態になってさへ、
声が出るんだから薬ってすごいですね。

 

◆歌劇「サムソンとデリラ」から「あなたの声に心は開く」(サン・サーンス作曲)
藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)

藤村にとってダリラのアリアはちょっとテッシトゥーラが低い気がするが、
流石に他の歌手とは明らかに歌うポイントが違う。
やっと本当のレガートで歌が聴けたという安心感。
ただ前述の通り、低音はちょっと役としては物足りないのと、
”e”母音で少しポイントが外れるのが気になったが、
総じて他の女性歌手とは発声技術が違うので、異次元なほど上手く聴こえた。

 

 

【総評】

とにかくレガートでオペラが歌えないというのでは困る。
こういう人達が生徒を抱えて大学などで教えているのかと思うと暗澹たる気持ちになるのだが・・・。
それでも、最後に藤村が歌ったことには価値があった。
聴衆は、ただ誰が上手いとか下手とかそういうことを超えて、
デタラメな歌い方がこういう舞台で大半を占めている結果が、
この国を声楽後進国に甘んじさせていることに気付いてほしい。

私達聴衆が本当に上手い人達を支え、
デタラメな歌を歌っている人達を遠ざける仕事をしなければならない。
それが聴衆の役割だと思っているし、
聴衆の耳が肥えてくれば自ずと演奏家の質も上がる。
逆に聴衆が堕落すれば芸術は衰退する。それは歴史が証明している。

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