高貴で深みのある響きを持つ稀有なソプラノ Juliane Banse

Juliane Banse(ユリアーネ バンゼ)は1969年ドイツ生まれのソプラノ
悪い言い方をすれば少し古い声に聴こえるが、現在はここまで高貴で深みのある響きを持ったソプラノはそういない。
一時期よりはマシになったが、ボストリッジがもてはやされていた時期は、演劇的なリートの歌い方、
歌唱というよりは芝居に近い演奏が増えた。
その結果、声楽的に美しい声に拘らない風潮が強くなり、
時には汚い声や、口語に近い発音で劇的な効果を追求する傾向が強まった。

結果として、奥の深い響きよりは、言葉をはっきり届けられる前の響きを重視するようになった。
そういう意味で、バンゼの声に古さを感じるのだろうが、逆に短絡的な表現を求めず、
声楽的な声での表現を追求した結果でもあろう。

前置きが長くなったが、ここで
ベートーヴェンのオペラ フィデリオからレオノーレのアリアを聴いて頂きたい

現代の歌手の発声は割とこんな感じが多いでしょうか

いかがだろうか。
この圧倒的な響きの高さ、他の歌手と聴き比べるとよくわかる。

そして、極上の響きで重唱をするとこうなる

エリザベート・クールマンとユリアーネ・バンゼの重唱は見事としか言いようがない。
私は頻繁に「言葉を前で発音する」ことの重要性を書いているが、今回のバンゼに関しては矛盾したことを書いているように、見えるかもしれない。
だがそうではないのだ。
バンゼも前で発音はしているが、それ以上に口腔を縦長に深く維持して歌っている。

このカール レーヴェの歌曲を聴けば、彼女の発音ポジションは前であることがよくわかるだろう

Die Lotosblume(はすの花)

この曲は同じ詩でローベルト シューマンが作曲している方が有名

Die Lotusblume ängstigt
sich vor der Sonne Pracht,
und mit gesenktem Haupte
erwartet sie träumend Nacht.

Der Mond, der ist ihr Buhle
er weckt sie mit seinem Licht,
und ihm entschleiert sie freundlich
ihr frommes Blumengesicht.

Sie blüht und glüht und leuchtet,
und starret stumm in die Höh’;
sie duftet und weinet und zittert
vor Liebe und Liebesweh.

はすの花は恐れている
太陽の華やかさを
そしてうなだれて
夜を夢見ながら待ち望んでいる。

はすの愛人である月は
月の光ではす目覚めさせる
そして はすは月に好意的に見せる
はすの忠実な花の顔を

はすは咲き、赤く色づき、輝き、
そして黙って真上をじっと見つめる
はすは香り、泣き、そして震える
愛情のあまり、そして愛の痛みのあまり。

 

写真右は低音での”a”母音、右の写真は中音域での”u”母音

驚くべきは低音での”a”母音での舌の形。
舌の真ん中を凹ませるような形を力で作ると喉に力が入るのだが、この形が自然にできている。
推測するに、これが彼女の高い響きを生む要因になっている。
”u”母音にしても、今ここまで唇を突き出す人はそういないが、彼女は自然にこの形ができている。
ここまで歌唱フォームの美しいソプラノ歌手はそういないと私は思っているのだが、いかがだろうか。

 

お勧めCD

まずレーヴェの歌曲で伴奏がヘルムート・ドイッチュ
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B001UUN9ZC/ref=as_li_tl?ie=UTF8&tag=pota52-22&camp=247&creative=1211&linkCode=as2&creativeASIN=B001UUN9ZC&linkId=5411370ada119fe01f63e0ea456099bc

ソプラノが歌ったレーヴェのCDとしては大変貴重

もう少し一般的なのはドビュッシーとモーツァルト
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こちらも伴奏がアンドラーシュ シフと豪華で一聴の価値あり。

 

 

 

 

 

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