驚異的な高音を持つバスCarlo Colombara



Carlo Colombara (カルロ コロンバーラ)は1964年イタリア生まれのバス。
主にヴェルディを得意とし、本来はヴェルディバリトンが歌うような曲も歌えてしまう強い高音も持ち合わせている。

その証拠に、コアなオペラファンを驚かせたのがトニオのプロローグを歌った録音である。

 

 

 

レオンカヴァッロ 道化師 トニオのプロローグ

バスの声、音色のままゆったりしたテンポで楽々と高音を出して見せたこの録音は
かなりインパクトの強いものだ。
高音に強い黄金時代のバリトン、プロッティなんかと比べると、
その音色の違いがハッキリわかる。

 

 

アルド プロッティ

プロッティの高音はテノールの響きそのものと言っても良いと思う。
本来テノールのデル モナコもこのアリアを歌っているが、プロッティの声はモナコより軽い。
一方コロンバーラ。
流石に最高音のAsではやや喉が上がった感じで狭い響きにはなっているが、
最後のGは楽に決めている。

コロンバーラが歌っているバリトンアリアはこれだけではない。
ヴェルディのバリトンアリアも当然のように歌っている。

 

 

 

ヴェルディ 仮面舞踏会 Alzati… Eri tu

そこらのバリトンよりよっぽど楽に高音を出し、中低音も充実している。
本当に持っている楽器は素晴らしい。
しかし、高音が出るから正しい発声なのか?
と言えば実はそうでもない。

 

 

 

ヴェルディ ドン・カルロ ella giammai m’amò

最初の歌い出しから、音が切れ切れになり、所々喉に引っかかるような音があるのがわかるだろうか?
ライモンディと比較すると、言葉とディナーミクの自然な抑揚がコロンバーラの歌には欠けていることがわかる。

 

 

ルッジェーロ ライモンディ

この歌の差を、イタリア語ではCol fiato(息の中で)とSul fiato(息の上で)と表現するらしい。
私も、コロンバーラは発声が良いから楽に高音が出るのだと数年前までは思っていたが、
そうではないということを教えて貰ってから、よくよくコロンバーラの歌を聴いてみると、
言葉ではなく、確かに声で歌っている。
発音は明確なのだが、抑揚やレガートに欠けている。
※Rライモンディについては過去記事で紹介しているのでまだお読みでない方はご覧ください。

 



 

モーツァルト ドン・ジョヴァンニ Deh, vieni alla finestra

言葉ではなく声で歌う。
それがモロに音楽に影響を与えてしまうのがモーツァルト作品。
全体的にピアノでは歌っているが、セレナータとは言い難い。
どこかぎこちなく、リズム感が悪いようにすら感じられる演奏でとても色気なんてあったものではない。
この演奏とは対照的なのが、マッティの演奏。

 

 

ペーター マッティ

ドン・ジョヴァンニという役で、セレナータを猫なで声で歌うのが良いのか悪いのかは別問題としても、
ピアノにすると奥に詰まってしまって言葉が前に飛ばないような演奏では絶対にダメだ。
マッティの演奏は、確かに響きは浅いが、セレナータだけを切り取ればコレはこれであり。
という聞き手の趣向に好みが委ねられる範囲内である。
コロンバーラの演奏は、この曲に関して言えば、お世辞にも上手いとは言えない状況になってしまっている。

響きの深さと前の響きを両立させるには、
響きの高さ。つまり(Sul fiato)息の上に響きを乗せることが必要になる。
息の圧力で鳴らす(Col fiato)のでは限界がある。ということがコロンバーラの演奏を聴いてもわかると思う。
そうは言っても、深く重い声でありながら、明るい響きで楽に高音が出せるようなバスはそういないので、
歌を勉強する人の参考としては相応しくないにしても、凄い歌手であることは間違えない。

 

 

 

ビゼー カルメン Votre Toast

バスでこれだけ楽々Fがハマる歌手はやっぱりそういない。
勿論低音もバスの響きそのもの。
日本人は絶対真似してはいけないのだが、
こういう立派な声を出したい。という誘惑に打ち勝つのは中々難しいものである。

 

 

 

CD

 

 

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