ナクソスレーベルで大活躍のテノールChristian Elsner

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Christian Elsner(クリスチアン エルスナー)は1965年ドイツ生まれのテノール
有名劇場で大活躍しているスター歌手ではなく、この人は廉価版CDでお馴染みのNAXOSに沢山の録音を残しているテノール

主にリートや宗教曲のソロで、ワーグナーオペラにも起用されている。
リート歌手としては、特段表現力に秀でたものがあったり、個性がある訳ではないのだが、
高音まで安定した声で難曲もしっかり歌うことができる技術がある。

 

 

 

Rシュトラウス Morgenrot

実際よりは低い調性で歌ってはいるが、
この難曲をしっかり歌曲として仕上げているところは評価できる。
ちなみに並のテノールが原調で歌うとこうなってしまう。

 

 

マルテ ミュラー

歌うだけで精一杯なのが伝わってくる。
一体録音するのに何度撮り直したことやら・・・
この様子では一日に通して歌えるのは1、2回なのではないか?思わせるほど力みまくった声である。
それに比べれば、例え調性を下げてもしっかり歌えた方が良いに決まっている。
この曲を原調でしっかり歌える歌手がいるとすれば、ひと昔前ならアライサ、
現在ならシャーデ、あるいはベーレがいけそうという感じか?
大地の歌のような完全にヘルデンテノールが歌うような曲でもなければ、
プレガルディエンやパドモアのようなテノールが歌うような曲でもない。
軽さの中に強さが求められる非常に難しい曲である。

 

 

 

シューベルト Du bist die Ruh(マックス レーガー編曲のオーケストラ伴奏版)

この曲を歌って、

「Dies Augenzelt,von deinem Glanz allein erhellt」

の歌詞の部分を繰り返し歌うのに、2回とも同じように歌うというのはちょっとない。
ディナーミクやテンポの揺らしなど、対比をつけなければ同じ旋律を繰り返す意味がないからだ。
声そのものは安定しているが、これがナクソスクオリティと言うべきなのか、演奏に個性がない。
まぁ、指揮がヤノフスキなので、単調な音楽の責任はエルスナーの問題ではない可能性もあるのだが・・・。

 

 

 

 


 

 

 

ベートーヴェン 交響曲第9番(第4楽章)

テノールソロを歌っている映像があった。
声そのもののポジションは悪くないが、ソロで歌う6/8のマーチの部分、
”a”母音(特にFの音)で鼻に入ってしまって、”ba”なのか”bo”なのかよくわからない発音になっている。
日本は第九大好きな国なので、色んなテノールがこの部分を歌うのを聴く機会があるかもしれないが、
往々にしてこの「laufet, Brüder, eure Bahn」の歌詞のFの音で出す「Bahn」は、
詰まった声になるか、アペルトになる(日本語の「馬鹿」の”バ”)になる。
ついでに、語尾の”n”もちゃんと発音できてる人は少ない。
あまりに日本では演奏され過ぎて、簡単なイメージがあるかもしれないが、
ちゃんと歌おうとしたら難しいもので、
確かパヴァロッティだったと思うが、
「第九を歌えば歌うほど日本人は声をだめにする」みたいな皮肉を言われていたと記憶している。

 

 

 

レハール Wolgalied

ちょっと鼻にかかった独特の声ではあるが、レハールは前で軽く明るく歌っている分、
他の曲よりも自然に聴こえる。特に”i”母音の響きは素晴らしい。
全てここに統合できれば良いのだが、”a”母音がどうしても鼻に掛かってしまうのが残念だ。
この良くない癖がピンとこない方は、イタリア語で歌われた場合にどうなるかを聴いて頂きたい。

 

 

 

モーツァルト イドメネオ  Fuor del mar ho un mar in seno

ヴァルガスとの比較

 

 

ラモン ヴァルガス

いかがだろうか?
エルスナーの演奏はヴァルガスに比べて、一枚カーテンでも隔てたようにボケた響きに聴こえる。
この原因が鼻に入ってしまっているために、正しい共鳴を得ることができていないためである。
ヴァルアスについては過去の記事でも書いているのでそちらも参照ください。

 

 

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日本ではなぜか評価が低い名テノールRamón Vargas

 

 

 

ワーグナー ヴァルキューレ(1幕断片)

一流のヘルデンテノールとは言えないかもしれないが、
少なくともギャンビルやヴォットリヒより全然良い。
こういうレベルの歌手が小中規模の劇場で控えていてこそ有名歌劇場に出演する歌手の真価がわかると言うもの。
NAXOSレーベルはコストを抑えるために、有名演奏家を使わず、若手やこういう実力派を上手く器用して、
マニアックな作品も沢山CDとして世に送り出してきた。
一流の演奏家が何故に一流たりえるかは、
エルトナーのような演奏家と比較した時に、
<違い>を聴き分けられる耳があって初めて意味をなすのではないだろうか?

2019年 英国ロイヤルオペラ来日公演のファウスト
D席(30,000円)が全日程完売
S席(59,000円)が日曜は残りわずか

という現状を見ている限り、歌手の実力に本当に興味のある聴衆がどれだけいるのか疑問視したくなってしまうが・・・

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英国ロイヤル・オペラ 2019年来日公演「ファウスト」のキャストは酷い

 

 

 

CD

 

 

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