やっと現れたフリットーリの後を継ぐに相応しい逸材Rosanna Lo Greco

Rosanna Lo Greco (ロザンナ ロ グレコ)は1985年、イタリア生まれのソプラノ歌手。

コンサート歌手をやりながら、モーツァルト作品の脇役(魔笛の侍女、パパゲーナ、フィガロの結婚のバルバリーナ)などと平行して、ドン・ジョヴァンニのアンナやエルヴィーラを歌っていますが、この人はラ・ボエームのムゼッタ歌いと言える位にこの役ばっかりやっているように見えます。
声は正統派リリックソプラノ。といった感じですが、透明感のある高音と同時に、やや影のある低音を持っているという面で、ただ声が綺麗なだけのソプラノではありません。
しっかりドラマを表現できる歌い回し、技術、声の全てを備えた、Barbara Frittoliの後を継ぐに相応しいイタリアのソプラノではないかと私は思っています。

 

 

 

モーツァルト ドン・ジョヴァンニ Mi tradì quell’alma ingrata

やや影のある音色でありながらふくよかさのある高音の響きといい、明確な音楽の方向性が見えるようなフレージングといい、響きの高さや強さを失わない中低音の安定感といい、

モーツァルトはこう歌われて欲しい。
というのを実践している演奏なのではないかと思います。
若い時のフリットーリの録音と比較してみましょう。

 

Barbara Frittoli

流石はフリットーリでロ グレコより更に高音の響きが充実しています。
しかし、低音はこの頃は少し詰めた感じになっていて、恐らくロ グレコの方が完成度が高いとさへ言えるのではないでしょうか?
フレージングではまだまだフリットーリ及ばないまでも、この録音が2015年なので、30歳での演奏だと考えると恐るべき完成度です。
そして、二人に共通しているのは、やっぱり”i”母音が完璧なこと。
何度も出てくる「Infelice」,「 oddio」の”li”と”di”がそれぞれ上手くハマらないソプラノは、このアリアを中々上手く歌うことができないです。
逆に、ココが完璧にハマると言うことは、正しいポジションに息を通せているということになります。

この人の歌は個人的に好み過ぎて冷静な判断ができません(笑)
でも、できる限り冷静に記事書きますよ。

 

 

 

 

プッチーニ 蝶々夫人 Un bel dì vedremo

蝶々さん役はまだ舞台では一度も歌っていないと思いますが、
コンサートでアリアだけ歌ってもめちゃめちゃ上手い!
第一音でこのアリアの正否の半分以上が決まると思いますが、掴みから完全に持っていかれるような響きの美しさでありながら、中間部分では発音の柔らかさと理想的なレガートの歌い回しで蝶々さんはこうでないと!と思わせてくれます。
オマケに最後のBも完璧ときた。

あえて注文を付けるところがあるとすれば
「E … uscito dalla folla cittadina
un uomo, un picciol punto」の部分(1:47~2:00)
この喋る部分でやや響きが鼻に入ってレガートが崩れている、
その為に「picciol punto」でもフレージングが上手くいかず凹凸ができてしまっているのですが、あくまで他の部分が素晴らしいが故に目立つというだけです。

そこらで蝶々さん歌いまくってるソプラノよりよっぽど上手いことは間違えないです。

 

 

 

 

プッチーニ ラ・ボエーム Quando me’n vo

なんじゃこの衣装!
てのが気になりますが、歌は文句なしですね。

日本ではムゼッタ役は軽めのソプラノが歌うことが多いですが、
イタリアでは可愛らしさよりセクシーさの方が重要。
という話をイタリアで歌っている知人から聞いたことがあるので、必然的に日本よりオトナな声のソプラノが歌うことになるのだと思いますが、それにしても中低音が充実するだけで歌にオトナの余裕が感じられるんですよね~。
例えば若い頃のネトレプコ

 

 

Anna Netrebko

ロ グレコと比較すると明らかに中低音を無理して鳴らしているので詰まった声になっています。
こうなってしまうと、
実はマルチェッロだけでなくムゼッタもやせ我慢か!?
みたくなってくる訳ですが、ロ グレコの歌唱なら、完全に風上に立つ者の余裕を感じることができますね!

 

 

 

モーツァルト LAUDATE DOMINUM

私がフリットーリと同じ系譜だと思う理由はオペラだけでなく、
こういったコンサート歌手としても素晴らしい演奏をすることができるからです。

オペラは声が良ければ癖があってもある程度許容される部分がありますが、
宗教曲のソリストやリートでは不自然な声の揺れは完全に排除しなければなりません。
一方でノンヴィブラートの声では響きが貧しく、オペラの求めるドラマを表現することができません。

この双方で通用する発声技術が備わっていることが、このような視点からみても重要なのがわかると思います。

 

 

 

 

ビゼー カルメン Je dis que rien ne m’épouvante

フランス語とロ グレコの声の相性は抜群ですね。
ムゼッタとミカエラを多く歌っているようなので、やっぱり慣れている役の演奏は言うことがないレベルです。
録音状況が良くないので、あまり発音については分からないのですが、深い響きでありながら、前の高いポジションで響いているのはわかります。
フランス語って上半身だけの響きになったり、逆に奥に入って重くなったりということが起こり易いのですが、イタリア語と同じようポジションで歌えているのはやっぱり高い発声技術があればこそだと思います。

愛の妙薬のアディーナの演奏もYOUTUBEにあるのですが、そちらは逆に慣れてないのが伝わってくるような、役に対して声が重すぎて、どうもブッファは苦手なのかな?
と思わせるものでした。

声そのものが少々影のある音色で、ブッファよりセリアに向いているというのも、またフリットーリと共通してるんですよね~。
ていい加減しつこいか・・・。

 

こんな感じで、スケジュールを見ると、
モーツァルトやフォーレの宗教曲のソリストとか、チマローザのオペラとかで、大きな役をやる予定はなさそうなのですが、これだけの声がありながらも、ヴィオレッタを2015年に一度歌ったきり歌っておらず、ドラマティックな役柄に食指を伸ばすこともしない。
歌っているのもイタリア国内のみときていますから、

もしや飛行機嫌いか?
みたいな勘繰りをしたくなる訳ですが、
声は間違えなく現代の30代半ばのソプラノ歌手としては世界トップクラスでしょう。
こういう歌手を発掘できて、個人的にはかなり興奮しているのですが、
やっぱり探せば有名になってないけどそこらの売れっ子歌手よりよっぽど上手い人はいるものですね。

皆様はRosanna Lo Grecoの歌をどのように評価するでしょうか?
是非感想やご意見などをお聞かせください。

ご意見・ご感想は

コチラ

 

 

 

 

 

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