Lois Marshall (ロイス マーシャル)1924年~1997年はカナダ生まれのメゾソプラノ歌手
正確にはソプラノでキャリアをスタートして、後にメゾソプラノ歌手で、
足が悪かったということで、オペラではなくコンサート歌手として生涯活動した人。
コンサート歌手よりオペラ歌手の方が格上と見なされる風潮があった戦前生まれの歌手で、
マーシャルのようなオペラに出演しなかった歌手が、トスカニーニに抜擢されてミサ・ソレムニスの録音を残している。
という事実だけを見ても、歴史的に名を残した専業コンサート歌手と言える。
発声にはやや癖があり、声を押してしまうことで時々喉にひっかかることがあったり、
高音で喉が上がった感じになってしまっているため、
純粋に声の面ではあまり良いとは言えないが、
表現面では非常に洗練されており古さを感じさせない
メゾでわざわざ詩人の恋を歌った意図はわからないが、1960年代の録音でこの表現は斬新だ
そもそも男声歌手のもっと熱量のある演奏しか基本的には聴かない耳には、
冷静過ぎる女声の歌い方が逆に新鮮に感じるのかもしれないが
<マーシャルの発声の問題点の具体例>
具体的に発声の問題点が露呈する曲を挙げると
11. Ein Jüngling liebt ein Mädchen (15:50)
「andre」のような”a”で歌い出す時によく声が割れる
これは喉ど押して歌ってる歌手によく聴かれる事象なので、
もし”a”の歌い出しで引っかかる歌手(特にソプラノ)を聴いたら、その人の発声は疑った方が良いかもしれない。
マーシャルの発声が息の流れで言葉を処理しているのではなく、
声で喉を押しているのがこの曲ではよくわかる
速めのテンポで広い跳躍が多い曲では、高音と低音の響きが変わるとはっきり段差ができるので、
喉に頼った歌い方をしていると非常に目立ってしまう
イタリア語の曲を聴けば、マーシャルがいかにレガートで歌えていないかがわかるだろう
昔のコンサート歌手がこういう感じだったのならば、確かにオペラ歌手より劣る見なされてお仕方ない
この人の歌を聴いていて
世間一般に認知された古楽声のオリジナルが実はマーシャルなのではないかと思えてきた
古楽声の特徴とは、
●ノンヴィブラート
●ほぼノンレガート
●透明感のある響き
●声の音色が一定
●言葉のアクセントにあまり影響されないリズム感(呼吸)
この代表的な歌手がカークビーであることは間違えない
この人の歌は非人間的な声を美しいと錯覚させてしまうところに恐ろしさ?があると思うのだが、
何かと古楽を歌う歌手はひと昔前まではこんな発声の歌手が重宝されていたし、
クラシック音楽にそれなりに関心のある人、
あるいは合唱で古典派以前の音楽を歌っている人にとっては、
今でも古楽を歌う声の理想はカークビーという意見はあるだろう。
因みに、これは女声に限った話ではなく、
カウンターテノールの声についても同じことが言える
下記を聴き比べて頂ければ違いは明確だ
例えば古楽が好きな人の間では人気のあるチャンス
そして現在はこうなっている
不思議なことに、オペラでは戦後から現在にかけて発声が崩れてきている傾向にあるにも関わらず、
古楽の世界では、非人間的な声から、自然な人の声の歌手が断頭して勢力を増しているのである
特にフランス古楽を得意とする現在の歌手には優秀な人が揃っており、
私も過去の記事で何人か紹介してきたので、まだ聴いていない方は一度聴いてみてほしい
ここに取り上げてない歌手ではPatricia Petibon も素晴らしい
(最近はちょっと硬くなってきた感がある)
こうして古楽を得意とする歌手の方が、
ロマン派以降のオペラを得意とする歌手より明るい未来があるように見えてくる
実際、現在プリマドンナとして世界中の有名劇場で大活躍しているSonya Yonchevaも古楽が得意な歌手だった
このように、古楽に求められる声はひと昔前とは様相が一転しており、
一括りに古楽と言っても、ドイツ、イタリア、フランス、英国などそれぞれの特色が日々研究され、
次々と新しい試みがなされている
オペラは、総合芸術という名の元に、歌に求められる比重が、演出だの歌手容姿だのに配分されている
その結果、若い内に才能のある歌手が声を消耗し、
本来円熟期に入る年齢でステロイドに頼った不自然な歌声を一流劇場で聴かせる
その歌声をメトロポリタン歌劇場などが世界最高峰を謳ってライブビューイングなどで世界中に拡散する
こんな現状で本当に良い歌手がどれだけ育つのか
今一度、オペラがどうあるべきかを再考する時期が来たのかもしれない。
これがトスカニーニがソリストにマーシャルを起用したミサソレ
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