Angel Blue は米国オペラ界に降り立った天よりの使者となれるか!?

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Angel Blue(エンジェル ブルー)は1984年米国生まれのソプラノ歌手。
これが芸名ではなく本名だというのだから、一度聞いたら絶対忘れないほどインパクトのある名前だ。
だが声は名前とはちょっと違って、宗教曲が似合う細くて透明感のあるソプラノの声とは程遠く、
ドラマティックな作品が似合うかなりパワフルな声の持ち主である。

 

 

 

ヴェルディ 運命の力 Pace Pace mio Dio

これが30歳手前での演奏である。
良い意味で全く青さのない声で、ここまで完成された強い楽器を持った歌手はそういない。
表現の面でも、声をひけらかすことをせず、楽譜に忠実な演奏をしている。
黒人で同じような声の米国人歌手と言えば、私はプライスが思い浮かぶ

 

 

レオンティン プライス

良い部分も悪い部分も響きの質が本当によく似ている。
顔前面の共鳴が強めながら、発音が奥まってしまっているのが良くない部分、
決して喉で押した力技でドラマティックな表現をするのではないため、
声自体は重くなったり鋭くなったりすることなく、柔らかく響くところが良い部分。
二人の違いは、ブルーの方が低音も高音と同じ質の響きで歌えるのに対して、
プライスは胸声気味に落とした声を駆使していること
高音では、ブルーが時々フォルテで力んだ響きになるのに対して、
プライスは広がりのある柔らかい響きのまま歌っていること。
だが、忘れてはならないのが、ブルーはまだ30代半ばという若さであるということ。

 

 

 

 

プッチーニ ラ・ボエーム Donde lieta usci

この人はとにかく下唇の脱力が素晴らしい。
と書くと意味が分かり難いが、要するに、喉~下唇にかけて無駄な動きがない。
そのため子音は必要最低限しか発音せず、言葉<声を優先した歌唱ではあるが、
母音での執拗なレガートはプッチーニの音楽には絶対に必要な要素でありながら、
ここまでのレベルで歌える歌手は現在中々いない。
ただ、中音域の特に開口母音で響きが落ちる傾向があるのは改善の余地がある。

 

 

 

ヴェルディ 椿姫 E strano… Ah fors’e lui follie

強い声でありながら、軽い響きで歌えるブルーだからこそのヴィオレッタ
この役を歌うのに現代最も適した声はこの人ではないかとさへ思ってしまう。
運命の力より、このような速いパッセージを歌っている時の方が伸びやかな響きになっているし、
ハイEsも全く無理がない。

 

 



 

 

モーツァルト ドン・ジョヴァンニ 二重唱 la ci darem la mano
バリトン Alexey Lavrov

これがまた非常に面白い。
「有名な曲だから、声に合わないツェルリーナでもとりあえず歌ってるんだろう。」
などと思って聴いてみると、ブルーより小柄なラヴロフを手玉に取るという立場が真逆の想定
しかも、言葉の出し方も非常に計算されていて、ブルーという歌手の様式感への理解や歌唱センスの良さが光る。

逆に、ツェルリーナという役が、日本で一般的に考えられているような
若くて軽い声のソプラノが歌うのが常識。
という感覚が、そもそも大きく解釈に誤解を生んでいるという可能性も考える必要があるかもしれない。

 

 

まだ35歳にもなっていないのに、
英国ロイヤルオペラの研修所でマスタークラスまで実施する程評価されているのもうなずける。

 

ただ、やはり教えるということにはまだまだ慣れていない様子。
個人的にはあまりこういう活動を若いうちにはせず、必死に自分の歌を磨いて頂きたいものだが・・・。
自分の技術を磨くことと、誰かに教えることは両立できる人もいるが、
全く別物という考え方の人もいる。この映像を見る限り教えるのは時期尚早に見える。

 

 

このように、近年はあまり優れたソプラノ歌手を世に送り出せていなかった米国だが、
ここに名前の通り、米国オペラ界を引っ張っていけるであろう才能が天より遣わされた。
今後どのようなレパートリーを構築していくのか?
一度流れた来日はいつ叶うのか?
などなど注目度は高まるばかりだが、
同時にクラシック以外のジャンルにも手広く手を出す、
近年の何でも歌う米国人歌手らしさも持ち合わせているので、
オッターのようにフォームや声を壊さないかだけは心配である。

 

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いずれにしても、まだ35歳にもなっていないエンジェル ブルーというソプラノ歌手は、
間違えなくもっと世界的に注目を集めることになるだろう。

 

 

 

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